一般社団法人 日本整形内科学研究会

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第4回JNOS学術集会・第2回日本ファシア会議 抄録

順次、各演者の抄録を追加していきます。

第4回学術集会・第2回日本ファシア会議に関する情報はこちら。

Contents

1)2021年11月27日(土)第4回JNOS学術集会 【大会長講演・特別講演・教育講演・基調講演】

 [大会長講演] 私が行ってきた仙腸関節障害診断・治療の12年間の変遷(吉田眞一)

【タイトル】私が行ってきた仙腸関節障害診断・治療の12年間の変遷
【演者】吉田眞一
【所属】JNOS理事・東海北陸ブロック長、よしだ整形外科クリニック 院長
【座長】永野龍生 (JNOS理事・関西ブロック長、永野整形外科クリニック院長)

【抄録】

慢性腰痛症例の中で仙腸関節性腰痛の頻度は15〜20%程度とする報告が多いが、一般医療機関で実際に診断・治療されている頻度は遥かに少ない印象を持っている。

自分は2009年にPT林典雄先生(機能解剖学研究所所長)と、2012年に村上栄一先生(JCHO仙台病院院長 日本仙腸関節腰痛センター)と出会いが始りで多くの先生方のご指導により、現在まで10年余り仙腸関節障害の診療を行ってきた。

その後もさらにいくつかの出会いや契機があり、現在行っている診断・治療体系に変化してきた。今回これまでの自分の「仙腸関節障害診療」の変遷を振り返りこの間の経緯および今後の展開の予想につきご紹介する。

具体的には「仙腸関節障害の身体所見」、「仙腸関節の理学療法」、「仙腸関節腔内造影およびブロック注射」、「仙腸関節後方靭帯に対するハイドロリリース」そして最近新たに追加した治療法の一つの「Prolotherapy」などである。

 [会長講演] 最近のトピックス2021(木村裕明)

【タイトル】最近のトピックス2021
【演者】木村 裕明
【所属】JNOS 会長・代表理事、木村ペインクリニック 院長
【座長】永野龍生 (JNOS理事・関西ブロック長、永野整形外科クリニック院長)

【抄録】

我々は、エコーガイド下fasciaハイドロリリース(US-FHR)が、整形外科、ペインクリニック領域だけでなく、内科、泌尿器科、歯科口腔外科、耳鼻咽喉科など多くの分野で原因不明とされてきた痛みやしびれに対して、有効なことを報告してきた。しかしながら、それでも尚、痛みが改善しない例は数多く存在する。痛みを改善させたい意欲がある限り、新しい治療ポイントは見つかるものである。

一方で、既存の治療ポイントが、既存の適応症以外にも有効な場合、そして予想外の部位の疼痛が緩和する場合もある。これら治療ポイントのうち、新しい候補が見つかったと思っても、実臨床を重ね、その病態や評価を論理的に突き詰めていくと、真に有効だと思えるポイントは絞られてくる。

今年は、指先の痛み、坐骨神経痛様症状、凍結肩等に対して、2021年に新たに追加となった厳選治療ポイントに関する適応と手技を、それぞれ紹介する。

 [特別講演] 靱帯の再考~最近の知見を踏まえて~(二村昭元)

【タイトル】靱帯の再考~最新の知見を踏まえて~
【演者】二村昭元
【所属】東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 運動器機能形態学講座 教授
【座長】吉田眞一 (JNOS理事・東海北陸ブロック長、よしだ整形外科クリニック 院長)

【抄録】

関節疾患のマネージメントには、病態に対する早期診断・介入、進行予防という観点が必須であるが、病態解明やその予防・介入に関しては未だ不明なことが多い。病態解明という意味で、関節解剖の正確な理解は必須であることは自明であるが、現行におけるその基盤は「靱帯」に基づいているといえる。すなわち、靱帯というひもが切れているか(診断)、切れていればどう再建するか(治療)という具合である。しかし、原点回帰的思考により、そもそも「靱帯」とはなにかを考察してみると、実は「靱帯」は定義の明確な構造ではなく、関節周囲に元来存在する、筋・腱膜や関節包との境界は不明瞭であることが解ってきた。機能分化の進んだ膝前十字靱帯などは別にして、多くの「靱帯」は腱膜や関節包の一部分を人為的に区別した構造的概念であると考えることができる。その典型例である、肘関節内側側副靱帯と股関節腸骨大腿靱帯を題材にして、解剖学的な詳細とその意義や展望を解説する。

肘関節内側の安定化は、内側側副靱帯が静的に、回内屈筋群が動的に作用していると区別して考えられてきた。しかし実際は、円回内筋と浅指屈筋との間の腱性中隔、浅指屈筋の深層腱膜、上腕筋の筋内腱や関節包からなる線維性の複合体の中で、束状に見える部位を区別したのが靱帯と呼ばれている。また、腸骨大腿靱帯は、従来、関節包靱帯と考えられてきた。下前腸骨棘遠位の寛骨臼縁の骨形態や関節包の付着領域、そしてその部位に隣接して走行する腸骨筋、小殿筋、大腿直筋の腱膜に基づいて解析すると、腸骨大腿靱帯は関節包に対して、腸骨筋や小臀筋の腱膜の一部が合して厚みをなした部分であり、前者が下行部、後者が横部と解釈することができる。

いずれの関節においても、今まで「靱帯」と区別されて認識されてきた構造が、周囲の筋・腱膜や関節包の一部であることがわかると、既存の静的安定化機構を動的機構に包含して再考することができ、運動機能に基づいた病態解明や進行予防の可能性が広がると考える。

 [教育講演1] 治療手技の標準化と差別化~知財戦略とブランディング~(小林只)

【タイトル】治療手技の標準化と差別化~知財戦略とブランディング~
【演者】小林只
【所属】JNOS 理事・学術局長、弘前大学医学部附属病院 総合診療部 学内講師, AIPE認定知的財産アナリスト
【座長】並木宏文 (JNOS理事、地域医療振興協会 公立久米島病院 副院長)

【抄録】

ブランドとは「ある製品やサービスを区別する印(概念)」である。製品とはパソコン・教材・医療機器、そしてサービスとは製造方法、教育方法、医療行為などが該当する。ブランドを表現したものが名称・マーク・デザインである。しかしながら、ブランドが有名になる程、「人の褌で相撲をとる」人々も増える。映画の海賊版が良い例だが、医療界でも例外ではない。

ブランドを育ててきた方々の資産価値や社会的信頼が損なわれないためには、どうすればよいのだろうか? その手法の1つに特許権等の知財を活用した権利化・独占化がある。一方で、治療技術自体は、日本や欧州では人道的理由(医療行為は平等に住民に提供されるべき)から特許権を取得できない。

本講演では、新しい治療手技について、学術的発展による標準化とブランディングによる差別化のバランスを担保する知財戦略を紹介する。「自分さえ良ければいい」ではなく、「自分も他者も大事する」ことが中長期的な信頼と発展に繫がることを、真摯な研究者・医療者が実感できる医療界を育むことを目指している。

 [教育講演2] しまね総合診療センター~virtual office構築とNeural GP net work~(白石吉彦)

【タイトル】しまね総合診療センター~virtual office構築と
Neural GP net work~
【演者】白石 吉彦
【所属】JNOS副会長・理事、隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与
【座長】洞口敬 (JNOS副会長・理事、B&Jクリニックお茶の水 院長)

【抄録】

 

シンポジウム – テーマ:教育

【座長】白石吉彦 (JNOS副会長・理事、隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与), 今北英高(畿央大学大学院 健康科学研究科 教授)

 [シンポジウム1] 理学療法士の教育の課題(工藤慎太郎)

【タイトル】理学療法士の教育の課題(仮)
【演者】工藤慎太郎
【所属】森ノ宮医療大学 インクルーシブ医科学研究所 所長

【抄録】

 [シンポジウム2] 整形外科開業医としての「みんなで生涯教育」(永野龍生)

【タイトル】整形外科開業医としての「みんなで生涯教育」
【演者】永野龍生
【所属】JNOS理事・関西ブロック長、永野整形外科クリニック院長

【抄録】

新型コロナ後、オンラインでのウェブセミナ-などで、学習の機会が多くなった。私自身、「患者の痛みを和らげる、不安を軽くする」という当院モット-の原点に立ち返り、「より高い診療技術」をもつ整形外科開業医を目指すべく学習方法を見直した。

具体的には、1)診断精度・生活指導効率の向上を目指し、問診技術を高める事実質問によるコミュニケ-ション技法、2)理学療法士とともに解剖、動作分析を学び、3)超音波診断装置(以下、エコ-)を共通言語としたエコ-学習動画の作成、4)理学療法とエコ-ガイド下注射による治療、5)スムーズなエコーガイド下注射のための看護師との連携システムの構築、6)漢方薬などを用いた慢性疼痛治療、7)リエゾンナ-スとともに骨折予防を目指した骨粗鬆症治療を今も学び続けている。

今回は、上記4)の一例としての、私自身のエコ-ガイド下注射の習得手順(平行法・交差法、In-line and Out-of-line position)、および理学療法士と看護師との協業を紹介する。本発表が、コロナ禍において、整形外科保存加療のプロを目指すべく「スッタフとともに学び続ける」というモチベ-ションの一助になれば幸いである。

 [シンポジウム3] 多職種連携の実現を目指した鍼灸師教育について(黒沢理人)

【タイトル】多職種連携の実現を目指した鍼灸師教育について
【演者】黒沢理人
【所属】JNOS理事,トリガーポイント治療院 院長

【抄録】

多職種連携とは様々な職種の専門家たちが協同・共同して、より質の高い治療を患者に提供することと考えるが、その実践は「言うは易く行うは難し」である。特に鍼灸師の場合、その理由として①東洋医学・西洋医学的概念の相違、②多職種との交流機会が少なく、相互に相手のことを捉えがたい、誤解が生まれる、などが挙げられる。このような問題点を解決するため、今回の講演に先立ち鍼灸師には「鍼灸師の教育」、医師には「鍼灸師との連携」に関するアンケートを取った。その結果の紹介と共に、7年間のペインクリニックとの連携と、JNOS理事として多職種と活動してきた立場から鍼灸師が医療機関と連携できるようになるための教育について提言する。

 [シンポジウム4] 総合診療医が広げる整形内科診療の可能性(遠藤健史)

【タイトル】総合診療医が広げる整形内科診療の可能性
【演者】遠藤健史
【所属】町立奥出雲病院 総合診療科部長,島根大学医学部附属病院総合診療医センター

【抄録】

総合診療医(以下、総合医)は、患者の年齢を問わず、全ての健康問題に対し、臓器別・疾患別の枠を越えて対応する。総合医が整形内科診療を行うことで、従来解決が難しかった健康問題への新たな対応策を生み出す可能性がある。その理由は、総合医が1.整形内科学を診療に活かしやすい素地があること、2.総合医が扱う広い症候に整形内科診療の適応拡大が期待できること、3.整形内科診療を生活支援の領域など多方面に活用できることが挙げられる。

1.整形内科学と総合診療医学は共通する部分が多い。例えば整形内科学が重視する症候学と生活の中の悪化因子への対策は、総合医が健康問題に向き合う際の基本部分である。また、総合医はエコーへの親和性があり、それを発痛源評価や注射に使用するハードルが低い。そして、気胸や感染症発症などの手技による合併症への対応を自らが行える。よって、総合医は他職種より整形内科学を診療に活かしやすいと考える。

2. 総合医が対応する患者の中には、整形内科診療を行うことで、初めて解決する症例が含まれる可能性がある。総合医は、めまい、頭痛、胸痛、抑うつ症状など、疾患同定が難しい幅広い症候を診療対象とする。演者がここ1年で、整形内科学を診療に役立てた例として、外側翼突筋性の嘔吐・めまいを伴う頭痛や、胸膜炎後の胸痛、肩こりによる抑うつ症状をもつ患者が挙げられ、それぞれエコーガイド下注射を行い症状改善した。

3.総合医が対応する健康問題は生活面まで対象が及び多種多様である。解決困難な問題に対し、総合医は他科の医師、療法士、鍼灸師、ケアマネージャー、役場職員等と多職種連携を行う。この際、総合医はHUBの役割を担い、整形内科学の知見を適応すると共に各職種から学び、新たな対策法を模索する。例えば、歩行時の膝屈曲制限がある患者に対し、療法士と協働し身体機能改善を図るとともに、ケアマネージャーらと自宅内の段差解消や、外出支援など、生活導線に沿った対策を検討する。

総合医は、整形内科診療を診療に活かし、健康問題の新たな解決策を生み出す可能性がある。本シンポジウムでは、他職種の皆様と連携し、我々総合医がさらに学ぶべき知見についてご指導いただきたい。

 [シンポジウム5] セラピストの卒後教育(蒲田和芳)

【タイトル】セラピストの卒後教育
【演者】蒲田和芳
【所属】株式会社GLAB代表取締役, 大阪産業大学工学部

【抄録】

運動器疾患の治療に携わるセラピストには、治療ターゲットを的確に絞り込む能力が求められる。治療の方向性として、発痛源に対して直接的な治療を行う「対症療法」と、姿勢や他動運動、自動運動などの異常を改善する「機能的治療」とに大別される。前者においては、症状を引き起こしている発痛源を見極めることが不可欠である。後者においては、機能的な異常をもたらしている筋や関節包の癒着も含めた治療プランの構築が望まれる。いずれにおいても、治療ターゲットの絞り込みが重要となる。

例えば、「腰痛」に対して、画像所見の乏しい場合は「筋・筋膜性腰痛」などの機能的な異常を示唆する診断が下される。このようなとき直接的な発痛源の候補として、仙腸関節の安定化に関与する多裂筋のタイトネス、それを覆う胸腰筋膜後層、もしくはそれを貫く上殿皮神経などが考えられる。上記の3つの発痛源のうち、どれを狙うのかによって治療法は当然異なるはずである。

別の例では、「上肢のしびれ」に対して、異常感覚の領域や神経伸張テストの結果では正中神経に異常を把握しても、治療ターゲットを見極め売上では不十分である。その原因として手根管内の癒着、手関節近位の長母指屈筋との癒着、上腕近位部における上腕動脈との癒着、小胸筋深部における内側神経束の癒着などの絞扼・癒着部位が候補となる。どこに原因があるかによって、治療を施す部位が大きく異なる。

関節拘縮の治療、不良姿勢の改善といった機能回復を意図した治療において、筋機能を改善するだけでは不十分である。拘縮や不良姿勢の原因として、筋の過緊張や種々の組織の癒着が関与する。筋の過緊張においてついても、筋外膜の滑走性の低下が影響する場合も多い。その治療において、運動を制限し得る組織間の癒着を順次解決することが機能回復には最も近道であると考えられる。

運動器疾患の治療において、治療ターゲットを絞り込むためには、エコーを含む医用画像とともに、治療ターゲットを1mmの範囲内で絞り込む精密触診®が有用であると考えている。加えて、対症療法と機能的治療をどの順序で組み立てるべきかといった治療の流れを場当たり的に行うことを避けるため、「治療の設計図」を予め準備することが望ましいと考えている。そして、裏付けとなる文献的知識も持ち合わせなければならない。本講演では、演者が考えるセラピストに必要と思われる卒後教育について紹介する。

2)2021年11月28日(日) 第4回JNOS学術集会【活動報告】

 [活動報告]

  • 詳細が決まり次第掲載いたします。

3)2021年11月28日(日)  第4回JNOS学術集会【一般演題・研究助成演題】

 [一般演題] 

  • 詳細が決まり次第掲載いたします。

[研究助成演題

本指定演題は、2021年度 一般社団法人日本整形内科学研究会(JNOS) 研究支援制度で受賞した方々による発表です(プロトコールなど計画および進捗状況の発表)。詳細は決まり次第掲載いたします。

4)2021年11月28日(日)  第2回日本ファシア会議

 [特別講演] Fasciaを考慮した骨折に対する機能解剖学的運動療法(松本正知)

【タイトル】Fasciaを考慮した骨折に対する機能解剖学的運動療法
【演者】松本正知
【所属】桑名市総合医療センターリハビリテーション科・理学療法士、)早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科
【座長】吉田眞一 (JNOS理事・東海北陸ブロック長、よしだ整形外科クリニック 院長)

【抄録】

骨折治療に対する運動療法の目的は、骨癒合を妨げることなく、修復過程を考慮し可動域制限つまり拘縮を予防し改善する。そして、筋力を回復し、ADLやQOLを改善することにある。骨折の治療であるため骨癒合を得ることを優先し、ある程度の拘縮は覚悟する必要がある。しかし、その発生は、可能な限り少なく理論的であることが望ましい。また、骨折に伴う骨の形態変化や位置関係の変化が、軟部組織にもたらす影響を考慮する必要がある。

運動療法を施行するに当たり、fasciaの捉え方と構造の考え方が重要と思われる。演者は、骨折後の運動療法に関わるfasciaを、「皮下組織」、「深筋膜」、「筋間や筋と骨との間に存在する結合組織と脂肪組織」、「筋上膜」、「筋周膜」、「筋内膜」、「神経外膜(paraneurium)」、「神経上膜」、「神経周膜」、「神経内膜」「血管の周囲に存在する結合組織と脂肪組織」と捉えている。特に、「皮下組織」、「筋間や筋と骨との間に存在する結合組織と脂肪組織」、「神経外膜」、「血管の周囲に存在する結合組織と脂肪組織」の構造をtensegrity structureと考え、修復過程と共にfasciaによる拘縮の予防と改善のための運動療法を立案している。tensegrity structureは、Richard Buckminster Fuller(1962)により命名された造語であり、生体に当てはめれば、適度な柔軟性、伸張性、滑走性、支持性が同時に必要な構造と言い換えられるのではないだろうか。骨折に伴う組織の損傷や手術侵襲の影響、炎症の波及をfasciaの構造と共に推測すると、急性期であれば、炎症に伴う腫脹などによりその安定性は低下し、同部を走行する神経だけでなく感覚受容器への刺激も加わり、痛みを助長する可能性がある。また、時間の経過と共に、拘縮の原因となる可能性があり、滑走性の低下、癒着などで神経や脈管系の圧迫や滑走障害、虚血、感覚受容器への刺激などをもたらす可能性がある。

fascia性の拘縮の予防と改善のための運動療法は、構造的な変化と時間的な変化を基に、拘縮の発生する順番を考え立案すべきである。今回は、私見として運動器に関わるfasciaの構造と運動療法への展開について各論を交え述べると共に、骨折に伴う骨の形態変化や位置関係の変化がfasciaにもたらす影響についても述べさせて頂く。

シンポジウム1 – テーマ:Fascia局所治療のメカニズムを考える

【座長】今北英高(畿央大学大学院 健康科学研究科 教授), 白石吉彦 (JNOS副会長・理事、隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与)

 [シンポジウム1-1] 膝関節不安定性を制動する装具療法と関節内組織修復能への影響(金村尚彦)

【タイトル】膝関節不安定性を制動する装具療法と関節内組織修復能への影響
【演者】金村尚彦
【所属】埼玉県立大学保健医療学部理学療法学科教授

【抄録】

膝関節不安定性を引き起こす疾患例として膝前十字靭帯損傷と変形性膝関節症がある。

膝前十字靭帯損傷は、膝関節外反や過伸展の矯正などにより引き起こされる。一方、変形性膝関節症の発症要因は、年齢、肥満、女性であることに加えて、膝関節外傷(靭帯損傷、半月板損傷、靭帯再建後など)の関節不安性が指摘されている。前十字靭帯は、血行に乏しく、損傷後の鋳型の形成が困難であり靭帯修復能が低く、靭帯再建術が治療のゴールドスタンダードとされている。また関節軟骨は一度損傷すると修復されない。過度なメカニカルストレスや炎症が惹起されると軟骨破壊が進行する。

我々は、不安定な膝関節に対し制動を行う関節制動動物モデル(前方制動)を開発し、膝前十字靭帯損傷の自己修復能や軟骨の変性遅延について報告してきた。膝関節の異常な関節運動を抑制し正常な運動を行うと、靭帯は自己治癒する(Kokubun 2016)。急性期における異常関節運動の正常化は、靭帯の治癒を導く(Nishikawa 2018, Morishita 2019)、前十字靭帯損傷の約90%にあたる大腿骨側と中央部損傷のどちらにおいても自己治癒する(Kano 2012)関節不安定性を制動すると、関節軟骨変性の遅延、炎症の抑制、滑膜の線維化誘導因子や骨形成因子を抑制する(Murata 2017,2019).半月板角部を損傷した後、関節を制動するモデル(膝関節回旋制動モデル)においても関節軟骨の変性が抑制される(Arakawa ,Preprint 2021)。

膝前十字靭帯損傷の装具療法において Ihara(1996、2016)らは、Kyuro装具を開発し、保護的早期膝運動により膝前十字靭帯損傷が自然治癒することや、靭帯の治癒は、患者の年齢と損傷部位影響を及ぼしているとし、またJacobi(2016)らは、ACL-Jack Braceを開発し、前十字靭帯の自己治癒例を報告している。それぞれの装具の構造は異なるが、膝関節の前方引き出しを抑制する点が共通コンセプトである。

変形性膝関節症について日本整形外科学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会による適合化版2012において、軽度から中等度の内・外反変形膝関節症患者に対して疼痛の緩和や安定性の改善、転倒リスクの低下(推奨度B)とされている。

関節に負荷される圧縮や剪断力など過度なメカニカルストレスが加わると、組織修復が困難になる。前十字靭帯損傷後や変形性関節症を重症化させないためにも、関節不安定性を制動する装具が、関節運動学や関節生物学の視点に基づいた関節内組織の修復能を高める関節内環境を考慮する事が重要である。

 [シンポジウム1-2] 神経の病態と治療(小林只)

【タイトル】神経の病態と治療(仮)
【演者】小林只
【所属】JNOS 理事、弘前大学医学部附属病院 総合診療部 学内講師

【抄録】

 [シンポジウム1-3] ファシアの視点から考察する、経穴と経絡(須田万勢)

【タイトル】ファシアの視点から考察する、経穴と経絡
【演者】須田万勢
【所属】諏訪中央病院 リウマチ膠原病内科医長

【抄録】

経穴は押したときに様々な効果がある「ツボ」として一般に認知され、本邦で浸透している概念である。一方、経絡は経穴が配置されたルートであるが、日常感覚的に理解が難しい、東洋医学的における作業仮説の体系である。西洋医から見ると、鍼灸がなぜ効果を発揮するのかは理解不能であり、それゆえ時として「怪しい」治療として敬遠されることもある。しかし、経穴、経絡は周囲に比して電気抵抗が低いという研究など、部分的にそれらの特徴を「見える化」する方法は少なからずあり、決して科学的研究の糸口がないわけではない。

西洋医学者はここ100年の間、電気生理学などの様々な方向から多面的に経穴・経絡の解明をすべく研究を重ね、一定の成果を得てきた。

そこで本発表では、まずこれらの研究の歴史を概括する。次に、局所の出血がどのようなルートを通って広がるかの観察から、経絡のマクロ解剖学的な検討を、またファシア内の自由神経終末や機械刺激受容体の視点から、経穴のミクロ解剖学的な検討を行う。実際、ファシアと経穴・経絡という概念は機能的にも実にオーバーラップしている。最後に、「神経性炎症(neuroinflammation)」、「neural acupuncture unit」という視点で経穴の病理学的な検討を行い、統合的な経穴・経絡の理解につなげたい。

 [シンポジウム1-4] 感性工学の観点からFascia局所治療のメカニズムを考える(銭田良博)

【タイトル】感性工学の観点からFascia局所治療のメカニズムを考える
【演者】銭田良博(理学療法士・鍼灸師・工学修士)
【所属】JNOS副会長・理事・運営管理局長・九州沖縄ブロック長, 株式会社ゼニタ代表取締役

【抄録】

感性工学(Kansei Engineering/Affective Engineering)とは、『五感(触覚・嗅覚・味覚・視覚・聴覚)を工学する学問』である。具体的には、人間の感性という主観的で論理的に説明しにくい反応を科学的手法によって価値を発見し活用することによって社会に資することを目的とした学問である、と言える。

感性工学には、「心地よい・楽しい・痛い」といった人間の嗜好やフィーリングを分析・反映する手法がある。私は現在、①Fascia、②セラピスト(治療家)のスキル、③Fasciaに対する物理療法および運動療法、に係る感性工学的エビデンスの構築をテーマに研究を進めている。例えば、徒手的運動療法(マッサージも含む)やエコーガイド下触診は、応力(=内力)によりFasciaを含む軟部組織が様々な生体反応を引き起こしているとも言える。加えてFasciaの病態については、『癒着=くっつく』だけでなく、『ねじれる』『敗れる』『縮む』『伸びる』『網目にゴミ(異物)が入る』という状態も存在すると考えるのが自然である。今回は、Fasciaに関する感性工学的研究の一部を紹介する。皆様の日頃の臨床に少しでもお役に立てれば幸いである。

 [シンポジウム1-5] Fasciaに対する運動療法2021(辻村孝之)

【タイトル】Fasciaに対する運動療法2021
【演者】辻村孝之
【所属】JNOS 理事・関西ブロック副部長, フィジオ,合同会社PROWELL

【抄録】

Fasciaは、解剖学的にも機能的にも重要な役割をもつ、ネットワーク機能を有する目視可能な線維性複合体であると表現される。演者は第1回日本ファシア会議において、Fascial Pain Syndromeの病態仮説と運動療法のポイントについて考察した(リンク)。今回は、Fasciaに対する運動療法2021と題し、Fasciaの重要な機能である固有受容感覚と姿勢制御への観点について、演者が臨床で実施している評価法と介入・治療法の具体例をあげ、考察とともに紹介する。

シンポジウム2 – テーマ:Fasciaに注目した手術療法を考える

【座長】洞口敬(JNOS副会長・理事、B&Jクリニックお茶の水 院長), 小林只(JNOS学術局長・理事、弘前大学医学部附属病院総合診療部 学内講師)

 [シンポジウム2-1] Fasciaに注目した手術療法を考える ―前立腺全摘術を通した“膜”認識の検討:筋膜とfasciaの間で―(川島清隆)

【タイトル】Fasciaに注目した手術療法を考える ―前立腺全摘術を通した“膜”認識の検討:筋膜とfasciaの間で―
【演者】川島清隆
【所属】熊谷総合病院 泌尿器科

【抄録】

前立腺癌に対する手術療法である前立腺全摘術は、限局癌でも根治できないことのある難易度の高い特殊な手術である。前立腺は血管網に包まれて狭い骨盤底に位置し、周囲臓器に強固に癒合しているため、確実に摘出することが難しく、開腹手術では出血が多く、侵襲も大きかった。ロボット支援下手術の導入によって、前立腺周囲の膜の解明が進み、多関節鉗子や立体視などの技術は精密な手術を可能にするとされたが、肝心の根治性は開腹手術と比べて現在まで向上を見ていない。確実な摘出のためには、手術精度の本質的な向上が必要であり、そのためには臓器を包み、分ける結合組織の正しい認識と、精密な剥離が必要である。長年、剥離のメルクマールとされる筋膜の認識の曖昧さは外科手術における大きな問題である。

ロボット手術時代に前立腺周囲の筋膜による多層構造理論が提唱され、気腹による無血の術野で、拡大立体視を行っても、依然筋膜の認識は曖昧なことも多く、術者間で認識の相違も多い。また、膜様に見えない脆弱な組織は疎性結合組織とされ、脂肪は結合組織としては捉えられない事が多い。筋膜、結合組織については用語が正確に使用されず、その都度、都合の良いように使用されており、このことが解剖の正しい共通認識を阻んでいるように思われる。人体構造の解明はマクロ解剖、ミクロ解剖、分子生物学などと進歩しているが、結合組織、細胞外マトリクスの認識は治療(手術や施術)や研究の立場、認識のレベル(マクロ、ミクロ)によってまちまちであるように思われる。このような中で、特定の形を有しない(パターン認識のしにくい)結合組織の本質の正しい認識は容易ではない様に思える。

手術においては、筋膜という用語の使用を止め、fasciaという用語を用いただけでは乗り越えられない壁があるように思われる。新しいfasciaの概念はこれらの問題を解決する可能性があり期待されるが、その本質の正しい理解の為には、既存の論理体系では不充分な様に思われる。手術において、これまでの筋膜という概念を離れ、(線維性)結合組織/支持組織として、さらに細胞外マトリクス(+線維芽細胞などの細胞)として力学的ならびに機能的にその構造全体を理解することができれば、手術の精度は向上し、真の低侵襲性に繋がると考える。泌尿器科の前立腺全摘術を通して、新しいfasciaの概念の理解を元に、解剖を再考し、より精緻で低侵襲な手技について検討する。

 [シンポジウム2-2]Fasciaに注目した手術療法を考える(洞口敬)

【タイトル】Fasciaに注目した手術療法を考える- 整形外科手術後の関節可動域制限の因子
【演者】洞口敬
【所属】JNOS副会長・理事、社会福祉法人 B&Jクリニックお茶の水 院長

【抄録】

整形外科領域の術後合併症の1つに、 関節拘縮による関節可動域低下がある。その原因には、関節構成組織の柔軟性低下,組織間癒着、あるいは不適切な縫合などが挙げられる。

術後の関節拘縮の予防策の一つに早期の可動訓練があるが、手術の種類や患部の状態に応じた固定・安静期間を要する場合もあり、術翌日から開始できないことも多い。

理学療法士は、可動域訓練の際に様々なアプローチを行う。その一つに皮下組織含むfasciaへの介入がある。

組織間癒着には、筋間、靭帯と周囲組織間などがあるが、皮下組織自体の柔軟性低下に対する整形外科医の認識は高いとは言えない。

整形外科医は術後血腫形成や感染を予防するために死腔を作らない手技を重要視する。

よって、皮下のLAFS(Lubricant Adipofascial System)や関節近傍の脂肪組織(fat padなど)に関連したfascia機能の温存にはそれほど注意を払わずに手術を実施している。

これらfasciaの機能温存は、関節拘縮の予防に加えて術後疼痛改善にも役立つと考える。

組織の柔軟性(伸張性や滑走性)を担うLAFS、fatpad、滑液包、疎性結合組織といったfasciaの存在を意識し手術を行うことが、術後の創部およびその周囲組織の速やかな機能回復、さらには患者のADL改善にも大切になるだろう。

 [シンポジウム2-3] Fascia(ファシア)の変化を知り婦人科手術に活かす(谷村悟)

【タイトル】Fascia(ファシア)の変化を知り婦人科手術に活かす
【演者】谷村悟
【所属】富山県立中央病院 産婦人科 部長

【抄録】

はじめに:産婦人科領域は骨盤臓器脱や子宮内膜症などの良性QOL疾患を対象とした手術も多いが、その痛みや不快感の原因も明らかでなかった。また手術において剥離が難しいケースがあったがその理由も分からなかった。Fasciaの概念はこれらの問題解決の糸口になり得る。

骨盤臓器脱:従来の解剖学において膀胱腟間に強固な膜があり、その損傷が臓器脱の原因であるとされてきたが、膜の存在には議論があった。私たちは臓器脱の膀胱腟間ではfasciaの構造が変化し、いわゆる膜化することを画像で示し得た。剥離が難しく、時に剥離層の間違いと指摘されていた状況はfasciaの変化であった。適切なテンションをかけても剥離可能層は狭く、ロボットのように繊細な切開手技が活きる。Fasciaの変化は膀胱腟間の動的調和を喪失させ、性交痛や排尿痛などの症状を引き起こすのかもしれない。また骨盤臓器の支持は骨・筋肉・靱帯が担うとされてきたが、fasciaの支持機能にも注目している。

子宮内膜症:骨盤腹膜に異所性に子宮内膜が着床し痛みを起こすとされてきたが、私たちは腹膜背側のfasciaが変化し剥離困難になるとともに、慢性の骨盤痛を引き起こすと考えている。Fasciaの変化により周囲の膀胱や直腸の症状も呈する。

子宮筋腫:筋腫核と正常筋層の間にはmyoma pseud capsule(MPC)と呼ばれる疎な構造が存在し、創傷治癒や妊孕性温存のためには子宮側に残す手術が推奨されつつある。MPCはextracellular matrixでありfasciaの概念に該当すると思われ、その拡大画像はfasciaそのものであった。また子宮筋腫は変性し核出が困難になるが、それもMPC=fasciaの変化が原因であった。

おわりに:2021年9月の日本産科婦人科内視鏡学会において「Fasciaと膜を理解し、MIS(minimal  invasive surgery)を極める」と題したシンポジウムが設けられた。産婦人科領域で初めてfasciaを冠したセッションである。Fasciaの概念は婦人科手術を確実に進化させている。

 [シンポジウム2-4] ファシアリリースを考えた眼瞼下垂症手術(高田尚忠)

【タイトル】ファシアリリースを考えた眼瞼下垂症手術
【演者】高田尚忠
【所属】高田眼科 院長

【抄録】

【背景】様々な要因により、瞼が開きにくくなる疾患を眼瞼下垂症と言います。10年ほど前にテレビで「眼瞼下垂症』を特集されたことをきっかけに、徐々に脚光を浴びて来ている疾患です。保険診療上、眼瞼下垂手術は、視野狭窄を改善するという意味で視機能の改善を目的として行われておりますが、顔面の手術ということもあり、どうしても、美容的な要素も求められる手術でもあります。眼瞼下垂手術で、もっとも基本となる手術方法に眼瞼挙筋腱膜前転法がありますが、比較的簡便で侵襲性の少ない手術ではありますが、症例によっては、十分に開瞼幅が確保できないという矯正不足の問題もあります。

【方法】 当院では、そういった眼瞼挙筋腱膜前転法では、十分に開瞼幅を改善しにくい症例に対して、挙筋腱膜と眼窩脂肪との境界のファシアを十分に剥離(リリース)し、眼瞼挙筋腱膜の可動性を確保することで、手術成功率を大きく改善することを発見しました。眼窩脂肪は、挙筋腱膜の全面を覆う様に存在し、網目状のコラーゲン組織:ファシアにより挙筋腱膜に付着しております。結果、瞼を挙上するために眼瞼挙筋が収縮する際、常に眼窩脂肪との間で強いひっかかりが発生し、眼瞼挙筋の可動制限が発生しております。眼瞼挙筋腱膜前転法では、挙筋腱膜を折り畳む(前転する)ようにして、瞼板に固定するのですが、ファシアをリリースしていると、挙筋腱膜の可動性(ひっかかり)が良くなるため、リリースしてない場合と比べて、格段に少ないテンションで固定が出来ます。

【結果】 当院では、この1年間で1000件以上の眼瞼下垂症手術を行なっておりますが、先天性眼瞼下垂症、他院修正手術などの特殊な症例を除いて、ほとんどの症例において、ミュラー筋タッキング、眼瞼挙筋短縮法、前頭筋吊り上げ術などを行わずに、眼瞼挙筋前転法のみで行っており、そして、十分な開瞼幅を確保できております。

【考察】 最近、眼形成の分野では、ミュラー筋タッキングが主体となっており、結果が不安定だとして眼瞼挙筋腱膜へのアプローチは補助的に行うような考え方が主流になってきております。ただ、ミュラー筋は自律神経支配の筋肉であるため、ミュラー筋タッキングでは、時折、術後眼瞼痙攣(眼瞼けいれん)の合併が生じ、治療に難渋するケースを経験いたします。当院では、眼瞼挙筋腱膜前転法にファシアリリースの操作を加えることで、眼瞼挙筋前転法の結果が安定し、結果として術後の合併症が減ると考えております。

 [シンポジウム2-5] 術後痛に対する新しい治療法(木村裕明)

【タイトル】術後痛に対する新しい治療法
【演者】木村裕明
【所属】JNOS 会長・代表理事、木村ペインクリニック 院長

【抄録】

新国際疾病分類 ICD–11において, 国際疼痛学会(IASP)による「慢性疼痛分類」が独立した項目として承認され,慢性疼痛は 「 3 ヵ月以上継続または繰り返す疼痛」 とされた。その結果、3ヵ月以上遷延する術後痛を慢性術後痛(chronic postsurgical pain : CPSP)と定義された。慢性術後痛の治療法として従来、①神経ブロック(硬膜外ブロック、末梢神経ブロック等)、②内服治療(抗不安薬、抗うつ薬等)、③認知行動療法が一般的であるが、それでも軽快しない例も多い。一方、近年、慢性疼痛を含む痛みの原因としてfasciaが注目され、その治療法として我々は、エコーガイド下fasciaハイドロリリース(US-FHR)を考案し、様々な治療部位を報告してきた。

今回、慢性術後痛、特に創部痛に対するUS-FHRの応用方法を紹介する。具体的には、fasciaを中心とした発痛源の評価(創部自体の皮膚・皮下組織・筋膜・末梢神経・壁側腹膜、創部周囲組織、創部により二次的に生じた遠方部位から関連痛)、および治療手技のコツについて事例とともに提示する。