一般社団法人 日本整形内科学研究会

一般社団法人 日本整形内科学研究会

医療関係者へ

【JNOSの活動紹介】

  1. 整形内科、ファシア、治療手技(例:ハイドロリリース・鍼・徒手)、学習方法などの周知を行っています(本ページの以下内容含む)
  2. 医療者・治療家が公平に活動する仕組みに注力しています(例:入会審査基準法令遵守の情報発信)
  3. 毎年秋にJNOS学術集会・ファシア研究会議を開催しております(2018年度2019年度2020年度2021年度)。
    • 参加費支払済みのJNOS会員は過去の学術集会等の動画を閲覧できます(会員専用ページ
  4. JNOSでは毎年夏に研究助成制度を設けております(2019年度2020年度2021年度
  5. 2020年4月より各週でウェビナーを開催しております(ウェビナーのページ)。
    • JNOS会員は全てのウェビナー過去動画閲覧できます(会員専用ページ)(2021年8月時点で35回分)。
    • JNOS非会員は、下記を中心にJNOSのYouTubeで閲覧できます(JNOS YouTube)。
      • 過去の学術集会の講演サンプル(整形外科と整形内科、fasciaの歴史・定義など)(リンク
      • コンプライアンスに係る内容(オンライン時代の著作権、肖像権、個人情報、安全保障輸出管理、オリジナルイラスト作成、利用規約など)(リンク
    • 診療技術系ウェビナーは、実施から1年が経過したものを目安に有償頒布を開始しております(ウェビナーオンデマンド頒布
  6. 学会発表・学術活動支援として、JNOSオリジナルの解剖図やイラストを頒布しております(JNOS Academic support【準備中】)。

Contents


1.整形内科学とは?

1-1 整形内科学の定義

当会では、整形内科学を「一般に手術によらない方法での運動器疼痛および難治性疼痛の診療とその研究を行う医学の一分野」と定義しました。

1-2 Q&A

Q1 整形内科ってリウマチ内科のこと?

前述の定義の通り、非外科医 Non-surgeonが運動器疼痛や難治性疼痛を扱う分野です。

関節リウマチは膠原病内科、骨粗鬆症は内分泌内科、難治性疼痛は麻酔科、心身機能改善はリハビリテーション科、皮膚・皮下腫瘤は皮膚科・形成外科が学問的中心ですが、外来疼痛患者に係る周辺領域を横断的かつ相補的に多職種でマネジメントしていくことを目指しています。

Q2 運動器内科ではなくて、なぜ整形内科なの?

一般的な運動器の定義は、「身体運動に関わる骨・筋肉・関節・神経などの総称」です。

近年、皮膚運動学、Fasciaなど結合組織自体の運動能や情報伝達性・ネットワーク性など、従来の運動器の定義に含まれない組織も、疼痛治療には重要とされています。

また、「日本語の整形外科」の命名は、orthopaedicsではなく、Jacques Delpechが定義した”orthomorphie”の概念のもとに、orthopädische Chirurgieの訳語として生まれました。

そして、「整形」の言葉は故田代義徳先生に始まります整形外科「包帯具師整形術と体操的形成術と外科的整形術とレントゲン学(画像診断学)の四学派の連合による産物」の意を基本とし、このうち外科的整形術を除く範囲(現代で言うところの運動体操、生活指導、超音波診断装置(以下、エコー)などの画像評価、局所治療)をNon-surgicalに扱う分野として「整形内科Non-surgical orthopedics」としました。

整形外科と整形内科については、以下講演動画を一般公開しております。

【演題】整形外科学と整形内科学(2020 And yet, moves ~それでも地球は動いている~)
【演者】洞口 敬(JNOS 副会長・理事)
【動画】第3回JNOS学術集会・第1回日本ファシア会議・大会長講演(2020年12月末 公開:Youtube 動画はこちらをクリック)
【抄録】こちらをクリック

Q3 整形内科の診療範囲は?

運動器疼痛や難治性疼痛をNon-surgicalに診療していくための手法すべてを用います。

一方、局所注射などのIntervention技術、運動療法、徒手療法、認知行動療法、薬物療法など各治療者の得手不得手がありますので、個人の診療技術の範囲で実施することは、他の診療分野と同じです。

なお、他科と診療分野がオーバラップしていることは周知であり、誰が扱うかは患者の利便性、診療の包括性、近隣医療機関との関係性を含めて扱う問題であり、単純に「私の診療技術の範囲」で決定しない事項と思います。

Q4「内科」でも局所注射するの?

かつては、内科医は内服薬で、外科医は手術で治すものでしたが、医療技術の進歩により、近年の「内科医physician」は内視鏡手術やカテーテル治療、エコー・CTなどを用いた画像下Interventionも扱います。以上から、本研究会では「内科」の言葉をNon-surgical treatmentを扱う意を基本としました。

この活動を可能にした代表的な機器が、エコーです。適切な学習を経れば多職種が、各治療手技(注射、鍼、徒手、物理療法など)を機能解剖学的に共通理解できるようになりつつあります。

なお、いわゆる”内科”の一般的な翻訳である「Internal medicine」は本来「内服薬」の意味であり、”内”の意味はありません。Surgeryの語源はChiurgia(手で仕事をする)であり、”外”の意味はありません。

英語での定義は、内科医がPhysicianで、外科医はSurgeonですが、そこにも”内”や”外”の意味はありません。内科と外科の言葉は「内治」と「外治」という中医学の言葉に由来しています。

Q5 日本の整形内科と海外のNon-surgical orthopedicsの関係は?

消化器科が消化器内科と消化器外科で構成されているように、海外ではOrthopedics部門がSurgical部門とNon-surgical部門に分離してきています。

一方、日本の「整形内科」の発祥の元は、多職種の総力をあげて、社会背景の変化に対応して急増する疼痛患者を、内科医(外科医でない医療者)がケアしていく活動に始まりました。その成果物の1つが、書籍・THE整形内科(南山堂2016)です。

なお、海外ではエコーは放射線科Radiologyが検査室で主に扱う機器です。

日本のようにPhysicianが「エコー診療」のように活用するという文化は、世界でも稀有であり日本の強みでもあります。

Q6 Fasciaを中心に扱っているのはなぜ?

運動器疼痛や難治性疼痛を扱う学術団体は多いですが、日本でFasciaを中心に扱っている学術団体はありません。

現在、Fasciaに係る学問領域は、西洋医学・東洋医学・代替医療などの多様な医学体系の、あるいは手術・関節鏡・注射・鍼・徒手・物理療法・運動療法などの多様な治療手技の包括的理解を促すための新たな分野として注目されています。

整形内科では、局所治療、運動療法、生活動作指導、薬物療法、認知行動療法などの多様な治療手技を多職種で相補的に扱います。

その中でも「Fascia」を従来の西洋医学と論理的に統合し、医学のさらなる深化を目指しています。

Q7 前MPS研究会との関係は?なぜFascia研究会にしなかったのか?

MPS研究会発足当時は、筋膜への国内の医学的および社会的な注目が少なかったため、「MPS」を前面に出していました。そのため、筋膜性疼痛症候群(MyoFascial pain syndrome, MPS)の中心組織である筋膜Myofasciaに焦点を当てていました。一方、近年のその治療対象は筋膜だけでなくFasciaと拡張し、fasciaは運動器疼痛および身体の様々不調の原因として注目されています。

fasciaは局所病態への重要性の他にも、ネットワークシステムによる全身との関係、固有知覚としての脳神経との関係など、その構造と機能は多岐にわたります。

その評価と治療には、全身の身体運動評価含む診察技術、生活動作へのサポート、適切な薬物療法、知覚に注目した認知行動療法、そして局所(末梢組織、脳神経系含む)の画像診断などを総合的に展開する必要があります。

前記Q2にも示しましたように、「現代で言うところの運動体操、生活指導、超音波診断装置(以下、エコー)などの画像評価、局所治療」の枠組みで、fasciaを考え、研究し、臨床応用することが重要であると考えました。その結果として、「整形内科Non-surgical orthopedics」という活動の一部としてFasciaを扱うことが本分野の建設的な発展に寄与すると考えたためです。

なお、外科系(整形外科、泌尿器科、婦人科、脳神経外科、呼吸器外科、心臓血管外科、形成外科、消化器外科、耳鼻いんこう科(頭頚部外科)、眼科など)、内科系(整形内科、循環器内科、脳神経内科、消化器内科、膠原病内科、代謝内分泌内科など)、基礎医学系(組織学、解剖学、発生学、生理学、分子生物学、生化学など)、工学系(画像診断系[例:MRI, 超音波機器, 光超音波]、材料系など)など、fasciaを広く議論する場(例:日本ファシア会議TM Japanese fascia conference, JFC)も主催しました(第1回日本ファシア会議 2020年11月)。


2.Fasciaとは?

  • 当会としての最新の定義は以下になります。
    1. fascia(ファシア)は「線維性の立体網目組織」であり、以下の3種を含む概念です:
        1. システム(系)『fascia system』
          A fascia、Ligament、tendonを含みます。Ligamentには、筋骨格系における靭帯(Musculoskeletal ligament)と内臓に係る靭帯・間膜(Visceral ligament)を含みます。腱Tendon自体は、柱状の線維構成体ですが、その周りにを包む腱鞘は「A fascia」に含まれます。
        2. マクロ解剖の臓器(構造)『A fascia』:
          「A fascia」には、浅層のファシア(Superficial fascia), 深層のファシア(deep fascia:腱鞘等のファシア[aponeurotic fascia], 筋外膜等のファシア[epimysial fascia]を含む), 内臓のファシア(visceral fascia:漿膜や間膜等のファシア[investing fascia, insertional fascia]), 神経系のファシア(meningeal fascia:硬膜・髄膜等の中枢神経系ファシア[meningeal layers], 末梢神経を構成するファシア[neural sheaths])を含みます。
        3. ミクロ解剖の線維『fibrils』
    2. 国際的には、『fascia system』および『A fascia』は区別して定義されている(詳細は本文参照、Stecco C, Schleip R: 2016;20:139-140
    3. ミクロ解剖の観点における線維性構造は「fascia system」にも含まれるとされるが、構造としての”用語”ではないため、別途「fibrils(線維)」という用語を適応させた。
    4. JNOSでは、fascia(ファシア)を、Fascia system(上記1-a)とA fascia(1-b)を合わせた表現として、医学用語、一般用語に対して以下のように定めた。
        1. (医学用語)ネットワーク機能を有する『目視可能な線維構成体』macroscopic anatomical structures forming of fibrils with the function of fascial network system(2019年4月JNOS)。ここでいうネットワーク機能とは、各組織や器官を繋ぎ・支え、知覚するシステムのことです。
        2. (一般用語)全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の立体網目状組織。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム(2020年3月JNOS)
    5. 筋膜:個々の筋線維、筋肉または筋肉群を包み、互いを分割および連結する線維性組織。筋や関節の動きを滑らかにしつつも、これらを制御して位置を保つ。

【fasciaの語源、言葉、定義の変遷】

Fasciaの語源は、1560年台のラテン語のFasciaとされています(参照:外部リンクEtymology online)。当時の意味は、バンド、リボン、包むもの、束などの形態表現でした。

15世紀前半にmembraneが解剖学的意味でthin layer of skin or tissue(皮膚や臓器を包む薄い膜)で使用されました。

Fasciaは歴史的には1788年に解剖用語として初めて記述され、1895年のBasle Nomina Anatomica(BNA)で採用後、1977年のNomina Anatomica. 4th ed(NA4)まで細分化されることなく使用されていました(Surgical and Radiologic Anatomy 1998)。

日本解剖学会・解剖学用語委員会編集による「解剖学用語改訂13版(2007)」では、Fasciaは筋膜と訳されているものの、Fasciaの訳語にまつわる注釈は約1ページに及ぶ検討結果が記載されています。

2012年時点において、Fasciaの定義は国際的にも議論が続いて言います。主要な候補は以下の2つでした。

  • (1)定義A:筋膜Myofasciaに加えて腱、靱帯、神経線維を束ねる結合組織、脂肪組織(脂肪体含む)、腹膜・胸膜・心膜・髄膜など内臓を包む膜など骨格筋と無関係な部位の結合組織を含む概念であり、その線維配列と密度から整理されます。→これは、後述するシステム(fascia system)としての定義になります。
  • (2)定義B:鞘、シート、あるいは剖出可能な結合組織の集合体で、裸眼で肉眼的に確認可能な程の大きさがあります。そして、Fasciaは皮膚と筋の間(皮下組織)、筋周囲、末梢神経と血管をつなぐ、それら関連構造をも含みます。Superficial fascia, deep fascia(aponeurotic fascia, epimysial fasciaを含む), visceral fascia (investing fascia, insertional fasciaを含む), meningeal fascia (meningeal layers, neural sheathsを含む)が代表である。→これは、後述する構造(A fascia)としての定義になります。

末梢神経を例にしますと、末梢神経=神経線維+結合組織(傍神経鞘、神経上膜、神経周膜など含む)です。

つまり、末梢神経に関しては、定義Aでは末梢神経を構成する全ての結合組織もFasciaに含めますが、定義Bでは神経を構成する結合組織は最も外層である傍神経鞘・神経上膜以外はFasciaに含みません。また、筋に関しては、定義Aでは筋内膜や筋周囲膜も含みますが、定義Bでは筋外膜(解剖学用語では「筋上膜 epimysium」だが、臨床用語としては「筋外膜」という表現が一般的のため、以下も筋外膜と記す)のみがFasciaに含まれます。

しかし、末梢神経を構成する結合組織とその周囲組織(筋外膜や血管)は解剖学的に連続しており(Stecco C et al: Journal of Anatomy.2020;236:660-7)、また筋や靭帯を構成する結合組織においても、靭帯と筋線維・筋膜も解剖学的に連続しており、その境界を客観的に同定することは極めて困難な状況でもあります(Hoshika S, et al. Clinical Anatomy. 2019;32:379-89)

これは、靱帯・腱・関節包などの密性結合組織でも同様な論理構造となっております。筋の付着部と関節包を構成する線維群は解剖学的に連続していることがマクロ解剖・ミクロ解剖の両者で指摘されています。Fasciaと自由神経終末と毛細血管の連続性及び関係性も解剖学的・生理学的に解明されていません。

上記2種のFasciaの定義A及びBを融合させるための議論が進んできました。
2016年には、Stecco CとSchleip Rらにより構造としての[a fascia]と機能としての[fascia system]の両者の定義が以下のように提示されました。(Stecco C, Schleip R: A fascia and the fascial system.J Bodyw Mov Ther.2016;139-140). 2017年には、特にfascial systemについて詳しくさらに提示されました。 (Adstrum, S., Hedley, G., Schleip, R., Stecco, C., & Yucesoy, C. A. Defining the fascial system. J Bodyw Mov Ther.2017;173-7.).

  • ‘a fascia’: indicates “a sheath, a sheet or any number of other dissectible aggregations of connective tissue that forms beneath the skin to attach, enclose, separate muscles and other internal organs”. This is a purely anatomical definition.
  • ‘the fascial system’: points the interest more into the functional aspects of the larger fascial net, including force transmission, sensory functions and wound regulation…

当会では、2015年の雑誌特集号「THE整形内科(南山堂2015)」、そして書籍「THE整形内科(南山堂 2016)」では、この定義Aと同様の意味で「“いわゆる”線維性結合組織(以下、結合組織の項目参照)」と表現しました。

2017年、書籍「無刀流整形外科(日本醫事新報社 2017)」、書籍「Fasciaリリースの基本と臨床(文光堂 2017)」でも同様の定義を採用しました。現在、Fasciaの定義に関してはInternational Fascia Research Congressと国際解剖学会間でも議論が進んでいますが、機能用語と解剖用語(マクロ、ミクロ)の概念が混同され、上記の「a fascia」と「fascia system」の併記による定義という状況となっています。

そもそもfasciaに限った概念ではありませんが、Fasciaは以下3つを含みます:

  1. システム(いわゆる「系system」のレベル 例:運動器系、泌尿器系、循環器系)としては、ネットワーク機能(各組織や器官を繋ぎ・支え、知覚するシステム)
  2. マクロ解剖(器官organ、組織tissueのレベル)としては、肉眼解剖としての「構成体」
  3. ミクロ解剖(細胞cellのレベル)では、fibrils(線維)。なお、一般用語は繊維fibers、医学用語は線維fibrilsです。

→この観点では、「線維性の立体網目状組織」と表現するのが妥当と考えています(旧表現でいう「“いわゆる”線維性結合組織」に相当)。

重要な点ですが、しばしば誤解される内容に「FasciaシステムとA fascia」の関係性があります。

前述のように、どの構造がfasciaシステムに含まれるのか? A fasciaには何が含まれるのか?については、いまだに一定の結論はでていません。

以下に、当会としての認識(イタリアのCarla Steccoらの書籍や論文でも、ほぼ同様)を提示します。

小林只. 第1回日本ファシア会議(2020年12月)の資料より転載

fascia system(ファシアシステム、ファシア系)には、Ligament、Tendon、「A fascia」などの線維構成体が含まれます。Ligamentには、筋骨格系における靭帯(Musculoskeletal ligament)と内臓に係る靭帯・間膜(Visceral ligament)を含みます。腱Tendon自体は、柱状の線維構成体ですが、その周りにを包む腱鞘は「A fascia」に含まれます。

「A fascia」には、浅層のファシア(Superficial fascia), 深層のファシア(deep fascia:腱鞘等のファシア[aponeurotic fascia], 筋外膜等のファシア[epimysial fascia]を含む), 内臓のファシア(visceral fascia:漿膜や間膜等のファシア[investing fascia, insertional fascia]), 神経系のファシア(meningeal fascia:硬膜・髄膜等の中枢神経系ファシア[meningeal layers], 末梢神経を構成するファシア[neural sheaths])を含みます。

以上から、当会理事小林と今北の提案により、当会としては医学用語としての fascia の定義を、以下と表現し採用しました(2019年4月)。

医学用語としてのfasciaの定義(fascia system + A fascia) 2019年4月JNOS

  • ネットワーク機能を有する『目視可能な線維構成体』
    macroscopic anatomical structures forming of fibrils with the function of fascial network system
    注)ここでいうネットワーク機能とは「各組織や器官を繋ぎ・支え、知覚すること」です。
    注)「fascia systemという機能を有する、A fasciaという臓器」という関係性を表現しています。
    なお、fascia system + A fascia + fibrilsとしては「線維性の立体網目状組織」とも表現しています。

2020年1月、一般用語としての定義を作成しました。その理由は、メディアや非医療者がファシア(fascia)を正しく認識し、伝えて頂く、あるいは理解頂くためです。

例えば、中学生・高校生にも説明(理解)可能な説明として、以下が提示されています。

〇例:「循環器系」(システムレベルの言葉)

  • 循環器系:血液によって酸素や栄養を組織・細胞に供給し、組織で生成された老廃物 の二酸化炭素や尿素、アンモニアなどを処理する器官に運搬するシステム(日本大百科全書)

〇例:「心臓」(臓器レベルの言葉)

  • 心臓 ・血液循環の原動力となる器官。(大辞泉)
  • 全身に血液を巡らせるためのポンプ(メディアで使用される言葉)
  • 循環系において,血液循環のためのポンプの機能をもった筋肉質の中空器官(国語辞典)

つまり、システムレベルの言葉としては、運動器系とファシア系は以下となります。

システムレベルの言葉.

  • 運動器系:動物の器官の分類の一つで、身体を構成し、支え、身体運動を可能にするシステム。身体の支柱である全身の骨格と関節(骨格系)と、それらに結合する骨格筋・腱・靭帯を運動器系に含む。
  • ファシア系:全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の立体網目状組織として、臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。腱、靱帯、A fasciaをファシア系に含む

そして2020年3月に、「ファシア」と「筋膜」を以下の説明をつけました。

一般用語としての定義. 2020年3月JNOS

  • ファシア:全身にある臓器を覆い、接続し、情報伝達を担う線維性の網目状組織構造。臓器の動きを滑らかにし、これを支え、保護して位置を保つシステム。
  • 筋膜:個々の筋線維、筋肉または筋肉群を包み、互いを分割および連結する線維性組織。筋や関節の動きを滑らかにしつつも、これらを制御して位置を保つ。

この定義に至るまでに、「筋膜」が医学用語だけではなく、一般用語として歴史的にどのように記載されてきたかを調査しました。その一部を以下に紹介します。

〇筋膜の定義(2020年1月の調査):

  • 一つの筋肉または筋集団を包む結合組織性の膜。筋と筋、あるいは筋と他の隣接器官とのすべりをよくする。(日本国語大辞典)
  • 歴史的に「Fasciaは 「筋鞘」、「筋膜」と両者として訳された。*生物学語彙〔1884〕〈岩川友太郎〉(日本国語大辞典)
  • 一つの筋または筋群の表面を包む結合組織の薄い膜。筋の滑動を助け,これを保護して一定の位置にゆるく固定する(大辞林)
  • 個々の筋または筋群を包む膜。結合組織からなる。筋を保護し、他の筋の起始・付着点ともなる。筋外膜。(大辞泉)
  • 個々の筋および筋群をつつむ線維性結合組織から成る膜。おもに膠原線維からなる。(広辞苑)
  • 筋肉,神経,血管と皮膚の間の網状結合組織層.(化学辞典) 

筋膜 Myofasciaについては、2021年1月に刊行されたグレイ解剖学(英語原著42版:Commentary 1.6)でも、初めてAnatomy trainに関する内容が論じられました。

 

【fasciaの外観】

近年では、フランスの形成外科医Guimberteau氏と同じ内視鏡システムを用いて、川島清隆先生(熊谷総合病院 泌尿器科 科長)が、拡大内視鏡写真を撮影しfasciaの形態的観察、そして手術操作における注意点への言及などを進めている(川島清隆ほか「骨盤内筋膜概念のパラダイムシフト─筋膜から fascia(ファシア)へ,さらに細胞外マトリックスへ─」泌尿器外科-2019年9月号(Vol.32 No9))。 以下、参照図(第2回JNOS学術集会 2019年11月. [特別講演:外科医にとっての新しいFascia像~高精細内視鏡による近接拡大視から見えてきた生体組織~]より)。運動器領域では、洞口敬先生(B&Jクリニックお茶の水 院長 /日本大学病院 整形外科・スポーツ整形外科)からの関節鏡写真を参考提示します。

上部2枚は、骨盤内のfascia(川島先生の撮像)で、立体網目状の柔軟な線維性組織である(右図は左図の拡大図)。下部2枚は、肩関節上部のfascia(洞口先生の撮像)で、線維の方向性が比較的整い、弾性のある線維性組織である(右図は左図の拡大図)。

 

2-1 結合組織とは何か?結合組織≠Fascia(ファシア)

  • 結合組織 Connective Tissue(≒支持組織 supporting tissue)という表現は、時代によってその定義や範囲が変化してきた。そして、現代においても統一されていない(現代では、脂肪組織や骨組織が除かれている)。fasciaには脂肪組織も骨膜という線維性組織も含まれる。
  • 結合組織は、ミクロ解剖では細胞成分・線維成分・基質で構成され、マクロ解剖では特殊結合組織(例:血液、骨、軟骨)と固有結合組織(例:疎性結合組織、密性結合組織)に大別されます。そのため、局所治療(ハイドロリリース、鍼、徒手等)の対象として「結合組織(または支持組織)」と表記することは、しばしば誤解を招きます。
  • Fascia(この場合はFascia systemのこと)を「固有結合組織の線維成分」あるいは「線維性結合組織の総称」とした場合、Fasciaリリースは物理的なFasciaへの刺激(2次的な基質への刺激を含む)を、ハイドロリリースはFasciaと相互関係の深い基質への影響をも考える必要があります。とかく、その治療対象(あるいは研究テーマ)としての名称に振り回されず、眼前の解剖と臨床現場の現象に注視し、適切に表記することが大切です。

歴史的には、結合組織Connective Tissue(CT)という用語は、1830年にJohannes Peter Müllerにより紹介され、1839年に正式に解剖用語として採用されました。

伝統的な分類における3組織(上皮組織、筋組織、神経組織)に該当しない組織のすべてを含む大きな未分化カテゴリーでした(そのため、「結合組織」という概念自体が、時代とともにその定義や範囲が変化する類の概念という位置づけなのです)。

そして、結合組織は、構造の支持に寄与し、多くは中胚葉に由来し、不活性な組織と理解されてきました。

 

近年、代表的な結合組織の1つである「脂肪組織Adipose tissue」自体の機能が注目されてきました。

脂肪組織は、人体で最大量のサイトカインadipocytokinesを産生・分泌し、炎症や免疫に関与することが、内科領域では1993年から報告が相次いできました(Nature Reviews Immunolog.y 2006)。例えば、心外膜脂肪は炎症物質などサイトカインを産生・分泌し冠動脈や心筋の動脈硬化や心房機能に影響を与え(American heart journal. 2007)、「腸間膜(脂肪細胞の機能含め)」自体が独立臓器としての機能が報告され(The lancet Gastroenterology & hepatology. 2016)、グレイ解剖学にも掲載されました。

一方、結合組織の一部は神経堤細胞などの外胚葉組織由来の組織も含み、神経との関連性も推察されており、前述の如く解剖学的にも結合組織と3組織(上皮組織、筋組織、神経組織)との境界も未だに議論が続いています。

 

このように、結合組織の生体における新たな役割が発見されています。

Fasciaという観点でも同様であり、その代表格である筋膜Myofasciaは「保持、パッケージ」などの構造保持機能に加えて、「刺激への侵害受容(外部リンク)や深部感覚の伝達(外部リンク)などにも寄与していること」が判明しました。

現状、ミクロ解剖としての結合組織は細胞成分・線維成分・基質に分類されます(Connective Tissue Study Guide,  A Textbook of Histology,12th Ed.)。

当会では、Fasciaはあくまで細胞外の結合組織の線維構成体と理解していますが、海外のFascia研究グループの中には、細胞内マトリックスの線維成分もFasciaであると主張するグループも存在します。また、そもそも「結合組織」は「不活性な組織」という枠組みから始まっており、活性組織である脂肪組織を「結合組織」という枠組みへ含めないという意見もでています。

1) 細胞成分(例:線維芽細胞fibroblasts, 脂肪細胞adipocytes, マクロファージmacrophages)

2) マトリックスmatrix:細胞外マトリックス(Extracellular matrix, ECM: 細胞外高分子で形成される3次元ネットワークで、マクロ解剖の「間質」とほぼ同義)、細胞内マトリックス(Intracellular matrix: ICM)の2種類がある。
2-1) 線維成分 fibrils(例:コラーゲン線維collagen fibers, 弾性線維elastic fibers, 細網線維reticular fibers,)注釈:一般用語は繊維fibers、医学用語は線維fibrils
2-2) 基質 ground substance(上記細胞成分等から分泌産生。体液Body waterの一部としても扱われる。)

注)体液Body water:生体内の流体body fluidsとして、細胞内マトリックスの流体、細胞外マトリックスの流体(=細胞外液)、間質液(細胞外液のうち血液とリンパ管の中を流れるリンパ液を除く体液)、消化液、胸水、腹水、脳脊髄液、眼房水などを含む。脂肪組織は10%程度、筋組織は75%程度が水を含むと言われている。

一方、マクロ解剖としての結合組織は、以下に分類されます。(議論中であり、統一見解はありません。例えば、特殊結合組織に血液は含まれず、あくまで体液に含まれると指摘する研究者もいます。)

結合組織は、1)特殊結合組織と2)固有結合組織に大別されます(正確には、胚性結合組織もあります)

このうち、2)固有結合組織は、細胞・線維・基質の3要素の構成勾配により「疎性結合組織、密生結合組織、膠様組織、細網組織、脂肪組織」と分類することもあります。分類は組織学者によって異なりことに注意が必要です。なお、一般的には「支持組織 supprtting tissue」という言葉も存在するが、「結合組織」と同じ意味で扱われることが多い。

下記には前者の分類に基づき、概説します。

1)特殊結合組織 Special connective tissue:軟骨、骨、血液、リンパ組織などが含まれます。
軟骨cartilageはtype Ⅱ collagenで、骨boneはType III collagenで、リンパ組織lymph tissue(リンパ節lymph node/脾臓spleen/肝臓liver)は細網線維Reticular fibersで、主に構成されています。

2)固有結合組織 Proper connective tissue:細胞成分、線維成分、基質で構成されます。
→固有結合組織は組織を構成する成分の「密度で分類されます(ミクロ解剖ではその境界は不明。伝統的にマクロ解剖で分類される。)

・疎性結合組織Loose connective tissue(細胞成分・基質が比較的多く、線維が少ない)。例:皮下組織、筋膜Myofasciaの一部、脂肪組織(最近では含めないこともある)、靭帯や間膜(Ligament)の一部
・密性結合組織Dense connective tissue(線維成分が多く、細胞成分と基質が比較的少ない)。例:弾性結合組織Elastic tissue(例:大動脈壁、脊椎の黄色靭帯)、筋膜Myofasciaの一部、腱膜Aponeurosis (deep fasciaの一部)、靭帯や間膜(Ligament)の一部。

補足1:筋膜 Myofasciaに関して、「疎性結合組織としての筋膜は筋の起始停止部になれないが、密性結合組織としての筋膜は筋の起始停止部になれる。」という大まかな特徴を有します。
補足2:靭帯や間膜(Ligament)に関して、「靭帯=固い」と誤認している方も少なくないですが、そもそも「密性結合組織と疎性結合組織のどちらかは名称とは無関係」です。密性結合組織=固い(疎性結合組織に比べて)と言うことはできます。

密性結合組織は、さらに線維方向の種類で分類されます。
・Regular: 線維方向が正(例:靱帯Ligament)
・Irregular:線維方向が不正(例:皮膚 Dermis)

また、密性結合組織のうち、コラーゲン線維よりも弾性線維を多く含むものを弾性結合組織と呼称します。

線維性結合組織Fibrous connective tissue(例:皮膚dermis、腱tendon、靱帯ligament、筋膜Myofascia、骨膜periosteum)という用語の代表的な意味は、密性結合組織と同義だったり、「線維芽細胞を中心とした細胞成分と、ある程度大きなコラーゲン線維(type 1 collagen)の塊であり、その基本的な特徴は強い張力と柔軟性にある」だったり、固有結合組織の線維成分を意味したりと、その定義は一定しません。

一般的に、結合組織(Connective Tissue)と言うと固有結合組織のことを指し、一方で血液・軟骨・骨などは「特殊結合組織」と呼称する傾向にありますが、「結合組織への注射」という表現は厳密には「血液への注射」も含んでしまうため、特に内科医や基礎研究者には誤解される傾向にあります。正確な議論のためには「固有結合組織」または「線維性結合組織」への注射、あるいは「fascia(ファシア)」への注射という表現が望ましいものと考えます。

上記定義AのFasciaは「細胞外マトリックスの線維成分で構成される固有結合組織。顕微鏡レベめかルの構成体も含む」、上記定義BのFasciaは「裸眼で肉眼的に確認可能な程の大きさを有する固有結合組織の線維成分」という表現が現状は最も近いかもしれません。

線維成分としてのFasciaと細胞外マトリックス(ECM)としての基質は、お互い補液にその機能を補完し合う重要な関係です。Fasciaを「固有結合組織の線維成分」あるいは「線維性結合組織の総称」とした場合、Fasciaリリースは物理的なFasciaへの刺激(局所の血流増加は基質への影響もありそうですが)を、ハイドロリリースはFasciaへの刺激に加えて基質への補液という影響も考える必要があります。前者「物理的な刺激」は、注射、鍼、徒手、物理療法いずれも関与します。後者「補液効果」は、注射はもちろんですが、置鍼(鍼を身体に刺したまま置いておくこと)における局所の血流増加なども影響します。

そもそも、結合組織 Connective Tissue(≒支持組織 supporting tissue)という表現は、時代によってその定義や範囲が変化してきてきます。そして、現代においても統一されていません(現代では、骨組織はもちろん、脂肪組織も除かれる場合もある)。fascia には「脂肪組織」も「骨膜という線維性組織」も含まれます。

つまり、「〇〇への注射」という意味・表現においては、「結合組織への注射」ではなく、「fasciaへの注射」と表現することで、不活性な組織としての基本認識である「結合組織」から、活性組織としてのfasciaが分離独立したとも言い換えられます。

とかく、その治療対象(あるいは研究テーマ)としての名称に振り回されず、眼前の解剖と臨床現場の現象に注視し、適切に表記することが大切です。(参照:新しい言葉の選択とその注意点)。

2-2 Fasciaを適切に示す日本語はない。

  • Fasciaの適切な日本語訳は現時点ではありません。そのため、当会では英語で「Fascia」あるいはカタカナで「ファシア」と表現しています。
  • なお、「ファッシア」は音声表現であり、医学用語としての表記としては不適切と判断しています。

本邦ではFasciaは「筋膜」、時に「膜」と訳されてきた経緯があります。一方、Fasciaの意味で「筋膜」と表現されている場合もあります。医学用語としては、筋膜は「Myofascia」、膜は「Membrane」です。

日本解剖学会の解剖学用語改訂13版には、Fasciaは筋膜Myofasciaを超えたものと説明されており、整形外科学会の整形外科学用語集(第8版)では「筋膜、あるいは腱膜」という言葉があてられています。

建設的な議論を進めていくためにも、言葉の定義を厳密に確認することが極めて重要になります。

世界保健機関(WHO)が2018年6月に公表した国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)にFasciaという用語が正式な体組織の用語として記載されました。

そこには、「加盟国は、分類の翻訳など自国での適用へ向けた準備を開始することが期待されており、2019年5月世界保健総会へ提出される予定です。今後、我が国への適用に向けた検討をしてまいります。(外部リンク)」と示されており、当会としましても適切な訳語制定にむけて活動を進めております。

一方、fasciaという英語表記名を、「ファッシア」「ファーシャ」「ファッシャ」など無造作な「カタカナ語」に示してしまっている文章も少なくありません。そのため、当会としては、用語学terminologyや音声学phoneticsなどの言語学の観点も考慮して、fasciaを「ファシア」と表記しています(2018年10月)。詳細は「新しい言葉の選択とその注意点」もご参考ください。

ここには、「ファシア」の表記に至った経緯(考え方)の概要を提示します。

英単語をカナ語にする場合、最も多い間違いは「英語の発音をカタカナで表現する行為」です。英語などアルファベットを用いた言語系では、音声と表記は比較的一致しますが、日本語では文字表記と音声表記は、そもそもズレがあります(調音音声学の基本事項)。

例えば、父を表すための書き言葉は「おとうさん」、読み言葉では「おとーさん」などです。医学用語では、菱形筋(りょうけいきん)を菱形筋(りょーけーきん)と表記されることはありません。また、音声発音には国際音声記号(International Phonetic Alphabet:IPA. 参考:http://www.coelang.tufs.ac.jp/ipa/)が基本的に用いられます。日本語と異なり、英語には「ッ(小さい「ツ」)」に相当する音声がないことです。

そして、英語の発語は「強弱とリズム」、日本語の発語は「音の高低」で成り立ちます。例えば、「大きい」を意味する「Big」の音声表記は、「ビーグ」であり「ビッグ」ではありません。これは、医学用語の表記には「ッ(小さい「ツ」)」がないことにも繋がります。これは、Medical Terminologyという医学用語学分野でも同様です

Fasciaの発音は[UK/ ˈfeɪ.ʃə/,US/fæʃ.ə](Cambridge Dictionary,https://dictionary.cambridge.org/ja/dictionary/english/fascia)とされていますが、fasciaに関わる議論や医学的会話では、読み言葉としては「ファッシャ」が最も近いと考えます。しかし、「ッ(小さい「ツ」)」を使わないこと、日本語の音声(韻)上、「ファシャ」よりは「ファシア」の方が発音しやすいこと、言葉の最後の文字は日本語では母音で終わることが「締まりが良い」こと、さらに、文字列や形状の学問であるタイポグラフィtypographyの観点などから、当会では2018年10月以降、文字では「ファシア」と表記し、音声では「ファッシア」と表現しています。

2-3 Fasciaの異常とは?

2-3-1 Fasciaの異常とは?(診断学の定義から)

Fasciaの定義が議論中であるのと同様に、「異常なFascia」の定義もまた、世界的に見ても定まっておりません。

西洋医学における診断の定義(解剖:Anatomy、病態:Pathology、原因:Etiologyの三要素を説明できる疾患)で、あえて表現すれば、以下になると考えています。

  • 解剖: Anatomy:Fascia
  • 病態: Pathology:疼痛閾値の低下(過敏状態 Hypersensitivity)
  • 原因: Etiology:現時点では不明。Overuse, Disuseが契機になることが多い。

機能解剖的には、組織の伸張性低下、組織間の滑走性低下が示唆されており、これらは超音波診断装置(以下エコー)でも評価可能です。また、Fascia同士が癒着adhesion/cohesionしている現象も報告されています。

一方、エコー画像上は、静止画としては「帯状の高輝度(白い)」に観察される傾向にあります。

高輝度に見えるのは「画像処理上の反射特性」であり、異方性の場合は低輝度、また内部密度が均一の状態(一部の線維化)でも低輝度に観察されることがあります。

局所病態として疼痛閾値低下という要因から表現すれば、「pHの低下」、「炎症や血流増減、異常血管(毛細血管を含む)」、「疼痛物質の局所濃度増加」、「末梢神経(自由神経終末を含む)の過敏性」、「Fasciaを構成するコラーゲン線維自体のなんらかの異常」などが考えられています。

前述のように、マクロ解剖・ミクロ解剖の両者で、Fasciaと自由神経終末と毛細血管は分離困難であることが現時点では示唆されており、その病態は複合的であり解明が急がれています。

現状では、Fascia自体に焦点を当てて研究を進めるグループ以外にも、局所としては「靱帯Ligament, 筋膜Myofascia、末梢神経Peripheral nerve(自由神経終末を含まない)、自由神経終末、血管(特に細動脈)、毛細血管など」、全体としては「中枢-末梢連関、大脳・脊髄過敏性など」の各テーマに焦点を絞って研究を進めるグループがあります。また、関節鏡手術、注射、徒手治療、鍼治療、物理療法、運動療法などに介入方法に焦点を当てた研究グループもあります。

その中で、各グループが扱う言葉の定義が一致していないために、建設的な議論が妨げられてしまっている現状もあります。今後は、共通の言葉を元に、各グループ同士の横断的かつ建設的な議論が重要になってくるでしょう。その最たる例である「神経」について、次項で示します。

 

2-3-2 Fasciaの異常とは?(発痛源は「fascia」か?「神経」か?)

2019年現在、日本ではfasciaの議論が運動器疼痛分野で先行しているが、「神経」という言葉の定義を定めない議論が横行しているため、建設的な議論を妨げています。

「神経」は、解剖学の組織構成の単位に基づけば、fascia(2.Fasciaとは?)と同様に、以下と示せます。

  1. 機能としての用語:神経系 nerve system
  2. マクロ解剖としての用語:例、末梢神経 peripheral nerve、脳 brain、脊髄spinal cord
  3. ミクロ解剖としての用語:例、神経線維 nerve fibers
  4. コンセプト(概念)としての用語:例、自由神経終末 free nerve ending

つまり、システム(機能)としての用語「神経系」、肉眼解剖上の用語「例:末梢神経」、ミクロ解剖上の用語「神経線維」が混同して、「神経」と使われる傾向にあります。なお、自由神経終末(神経(受容器)という表現も同じ)を「末梢神経の一部」と表現されている場合もあるが、明らかに不適切です。現状では「自由神経終末」は、構造的に同定されていない、あくまで「機能」としての用語であり、少なくとも電顕レベルで見られない自由神経終末がエコーで描出できません。そもそも、free nerve 「ending」=「終末」という言葉は、「中央」「端」のように相対的な位置関係を示す言葉であり、そもそも「構造の用語」ではありません。実態を伴わない構造に名称を付けないことは、法律、特許・技術、科学などの基本的用語扱い事項になります(例えば、特許であれば実態構造を伴わない部位への名前を付けるだけで登録不可となりうるものです)。

なお、臨床分野においても、運動器分野のエコーでは一般的に「神経」とは、エコーで描出可能なマクロ解剖上の「末梢神経」を意味し、内科領域では一般的に「神経」といえば、「神経系」を意味します。

「Fasciaの痛みは神経の痛みである」との意見がありますが、その妥当性は「神経」の定義次第です。以下に換言するうち、D)の論理で語られていることが多いため注意が必要です。

  1. Fasciaの痛みは神経系の痛みである
  2. Fasciaの痛みは末梢神経の痛みである
  3. Fasciaの痛みは神経線維の痛みである
  4. Fasciaの痛みは自由神経終末の痛みである

前述のように、fasciaは「fascia system」、「A fascia」、「fibrils」で整理できるが(2.Fasciaとは?)、臨床医学分野では、以下のように「構造(例:心臓、肝臓、関節、靭帯)」と「発痛源」の関係として議論されます。

  • 「心臓」の痛み=心臓を構成する組織が発痛源
  • 「肝臓」の痛み=肝臓を構成する組織が発痛源
  • 「関節」の痛み(関節痛)=関節を構成する組織が発痛源
  • 「靭帯」の痛み=靭帯を構成する組織が発痛源
  • 「末梢神経」の痛み=神経を構成する組織が発痛源
  • 「A fascia」の痛み=A fasciaを構成する組織が発痛源

もし、発痛源が「神経(受容器)」という自由神経終末と表現されるならば、上記構造物(関節、靭帯、末梢神経、心臓、肝臓など)はすべて「『神経』の痛み」ということになってしまいます。従って、「A fascia」という解剖学的構造の痛みは、「fasciaを構成する組織が発痛源」と理解し、表現することが妥当です。

「神経障害性疼痛」という用語がありますが、この用語は時代によっても意味や定義が変わっていますので注意が必要です。切断肢など末梢神経の物理的損傷、脊髄損傷など脊髄(中枢神経)の物理的損傷などとして語られることもあれば、慢性痛の文脈で中枢神経の可塑性(例:脊髄のグリア細胞の影響)など、神経系(システム)の異常としても語られることがあります。

「末梢神経」について、病態として「末梢神経=神経線維+fascia(傍神経鞘などのA fascia、神経上膜・神経周膜などのfibrils を含む)」で整理できます。

神経線維(電気的活動を伝える電線)が障害されれば、「断線」として「末梢神経の機能低下」が生じます。例えば、感覚神経であれば感覚鈍麻、運動神経であれば麻痺、深部感覚を司る成分であれば深部腱反射低下が挙がります。アロディニア(筆で撫でるだけでビリビリするような状態)は神経障害の一徴候ともされますが、末梢神経内fascia(fibrils)へのハイドロリリースで改善すること稀ではなく、アロディニア=「断線」と断定することは早計かもしれません。原則は、「機能低下」所見が明らか出ないときは、末梢神経周囲のfascia(神経上膜、その周囲組織)による病態(滑走性・伸張性低下、癒着・凝集など)を考え、局所の評価と治療を検討してみてください。

この神経線維の神経伝導を遮断する治療が「ブロック」であり、「リリース」は神経線維周囲および神経線維を構成するfasciaへの治療と区別することが重要です(4-9-2 エコーガイド下fasciaハイドロリリースTM、ハイドロダイセクション(HD)、神経ブロック の差異)。また、末梢神経を構成するfascia(fibrils)への治療は、「4-9-3 fibrilsに対するハイドロリリース~末梢神経内注射の適応は?~」をを参照ください。

エコーで「末梢神経(マクロ解剖レベル)」を探し治療することに執着している方々は、「神経」という言葉の定義を明らかにした上で、建設的な議論の場に参加頂きたいところです。

2-3-3 Fasciaの異常と画像所見(エコーを中心に)

大前提として、現時点ではエコーだけで異常なfasciaを評価することはできないと考えています。電気生理学的研究、生化学的研究など総合的な研究が期待される。臨床においては、症状、病歴、身体診察なども含めた評価や、画面上見えているものだけでなく、エコーには描出されていない受容器や血管、神経の存在を考慮し、総合的に判断し、治療していくことが必要ですfasciaの病態を評価する手法として、エコー、単純X線、CT、MRIなどの画像評価、触診(触察)、動作分析、姿勢評価やアライメント評価などいくつか評価方法が挙げられます。

〇画像と解剖の関係

単純X線でもMRIでも画像診断機器全て同様ですが、その中でもエコーの技術進化は飛躍的で、MRIやCTよりも空間分解能と時間分解能が向上し、より正確な病態評価が可能となりました。エコーでは筋間や筋と骨との間、神経と筋との間、皮下組織などのfasciaの病態推測が可能です。以下に画像評価を行う上でのポイントや注意点を紹介します。

そもそも画像と解剖の関係は「画像診断装置の画像(投影像)は解剖(実態)の何を反映させた(強調した)ものか?」に論点は集約されます。この意味で、エコーで描出される「B-mode画像(現在の標準的な白黒画像)」は音波の反射強度の差異をソフトウェアで加工したものす。そして高輝度部(画像上の白色部)は音波の反射強度が高いという物理特性を反映しています

近年、局所の解像度は飛躍的に向上し、筋周膜や神経周膜(多数の神経束の集合体)までが「構造物」としてヒトの目に認識可能となった。ここで「1本の管」のようにあたかも描出される末梢神経構造は、神経線維とfasciaで構成される神経周膜レベルの集合体(投影像)として認識されるようになりました。

〇筋自体のB-modeの輝度(Heckmatt scoreを例に)

患者特性によって、エコーの減衰が強く深部が観察しにくくなります。減衰とは、超音波が一方向に伝搬するとき、伝搬距離が長くなるに従って音圧が小さくなっていくことです。その主要因としては、

  1. 超音波ビームの広がりによる拡散減衰
  2. 結晶粒界や微小空隙の反射による散乱減衰
  3. 内部摩擦等による粘性減衰

などが挙がります。つまり、高周波リニアプローブの場合、その解像度は浅部では高いが深部では低下します。エコー画像のフォーカスの設定に加えて、エコー自体のパワーの出力を上げることなどの工夫で深部組織の解像度は向上させることができます。しかしながら、生態安全性の観点もありパワーを無尽蔵に上げることはできません。一方で、コンベックスプローブはパワーの出力は向上するがリニアプローブよりも一般的に解像度は下がります。

上記減衰の特性は、皮下組織から筋組織においても同様です。具体的には、皮下組織の水分、線維成分、脂肪組織の密度や量により減衰の程度は影響されます。筋の萎縮や廃用により、筋線維は減少し、これを代償するために筋内の線維成分の増加および脂肪組織の増加が起きます(リモデリングプロセス)(Jakobsen JR, et al. Scand J Med Sci Sports 2018;1859–65)。金元らは、エコーを活用した筋自体のエコー輝度分類であるHeckmatt score(以下図)を用いて、筋膜性腰痛に対するL4-5レベルの多裂筋へのエコーガイド下ハイドロリリースを実施し、治療前後における疼痛スコア(visual analogue scale, VAS)の改善を確認しました。その一方、脂肪変性が大きい多裂筋(Heckmatt score Grade Ⅳ)含め、Heckmatt scoreによる治療効果の差は統計学的に認めなかったと報告した(Kanamoto H, et al. J Ultra Med.2020)。

図 Heckmatt score(筋のエコー輝度による分類)
(A) 正常のエコー輝度。深部組織がよく観察でき、椎前層(prevertebral lamina)のエコー輝度が強い。
(B) 筋のエコー輝度が軽度上昇(軽度の減衰)。椎前層のエコー輝度は確認できる。
(C) 筋のエコー輝度が中度上昇(中度の減衰)。椎前層のエコー輝度は低下するも確認できる。
(D) 筋のエコー輝度が強い上昇(強い減衰) 。椎前層のエコー輝度は確認できない。
Kanamoto H, et al. Effect of Ultrasound-Guided Hydrorelease of the Multifidus Muscle on Acute Low Back Pain. Journal of Ultrasound in Medicine.2020 のFigure 3より引用(CC BYライセンス):https://doi.org/10.1002/jum.15473

しかしながら、次に述べるfasciaの重積像は、Heckmatt scoreのような筋全体の指標ではなく、局所的な画像変化へ注目したものである。いずれにしても、超音波という物理特性、およびエコー画像という影絵への理解を深めて、慎重に議論を進める必要がある。

 

2-3-4 エコー所見としてのFasciaの重積像

〇fasciaの重積像(stacking fascia / hyperechoic stripe-shaped lesion)

「fasciaの重積像(stacking fascia / hyperechoic stripe-shaped lesion)」という用語は、癒着(組織同士の引き合い[くっつき])、滑走性(接する組織同士の位置関係の変位しやすさ)、伸張性(組織自体の伸びやすさ)など「動き(時間軸や力学の影響を受ける指標であり、その『程度』は含まない)」の病態用語としての意味を含めないように、エコー画像上の形態表現(投影像の表現)として、小林らが2016年に命名したものです(4-4 参照)。この投影像は、水分量の減少、または線維構造の高密度化などの病態の反映と考察していますが、今後のさらなる検証を要します。

このように、異常なfasciaは、エコー画像において局所的な「帯状の高輝度(白い)」に観察される傾向にあり、これを日本整形内科学研究会では「fasciaの重積(stacking fascia)」と表現しています(以下図)。そして、FPSの分類基準の1つに組み入れています(2-11参照)この図では、右側の椎前層は描出されており、Heckmatt scoreはGrade1(筋の減衰は小さい)にも関わらず、局所の高エコー像が確認されます。


右側の椎前層は描出されており、Heckmatt scoreはGrade1(筋の減衰は小さい)にも関わらず、局所の高エコー像が確認される。

一方、エコー画像上「高輝度Hyperechoic」に見えるのは「画像処理上の反射特性」であり、異方性の場合は低輝度、また内部密度が均一の状態(一部の線維化)でも低輝度に観察されることがあるため注意が必要です

deep fasciaはエコー画像上、高輝度に描出される密性結合組織と低輝度に描出される疎性結合組織の層構造となっています。慢性頸部痛患者における頸部のdeep fasciaは、疎性結合組織と思われる低輝度層(黒い層)の厚さが増加していることが確認され、その厚さはVisual Analogue Scale(以下VAS)の数値増加と相関していることも報告されています(Stecco A, et al. Surg Rad Anat. 2014:243-53)。そのような部位はdeep fasciaの層構造が3〜5層となり、シマウマの模様のように観察されるため、JNOSではゼブラサイン(あるいはストライプサイン)と呼称しています。

このようにエコー画像を解釈する場合、エコーの基本原理を十分に理解しておく必要があります。エコーは波の反射を可視化した物理現象であり、画像上の「白=反射が強い」、「黒=反射が弱い」です。波の反射とは、異なる2つの密度の構造が接している状態(境界面)が存在するときに生じます。

つまり、Fasciaの密度(densification)が相対的に上昇するに従い、「黒の層(低密度:線維成分が少ないため反射が弱い/水分量が多い)→白の層(中密度:線維成分が多い/水分量の減少のため反射が強い)→黒の層(高密度:線維成分の密度が高く、組織が均一化し音波の反射が起きにくい)」という変化が想定できます

前述のStecco, A 2014の報告では、頚部浅層の胸鎖乳突筋を評価し、エコー画像上の「白の層」と「黒の層」の関係が提示されましたが、他の部位にも適応できるかは慎重になる必要もあります。

エコーガイド下fasciaハイドロリリース(4-5参照)では、原則として帯状(stripe-shaped)の高輝度部位(hyperechoic)を治療対象としていますが、癒着等が極めて高度場合は、黒(無構造)の帯状の構造物としてエコー画像上描出され、その部位をリリースすることで、白(中密度)の帯状の構造が見えてくるという現象も観察されています(木村裕明ら. “Fasciaの肉眼解剖”最新知見とFasciaリリース. 日本整形内科学研究会 北海道東北ブロック 第1回地方会. 2018年8月)。この時の注射時の特徴としては、白の層よりも黒の層の方が、注入時圧が高い(注射していて注入時の抵抗が強い)ことが挙がります。

筋外膜と筋外膜の間にある疎性結合組織は、これらの境界で音波の反射が起きやすく「白の層」として映る傾向にあります。脂肪変性が進んでいない筋は「黒の塊」の傾向で映りますが、その内部に「局所的な白の層構造(上図)」が描出できるということは「何らかの反射」が起きていることを意味します。また、末梢神経や腱などの周囲組織との癒着が生じている場合、この癒着部にはfasciaの重積像(stacking fascia)「白いまだら模様の所見」が見える傾向にあります。反射が強くなる(fasciaの重積像)理由としては「組織密度の相対的上昇(densificationの上昇)」が多いわけですが、具体的には「線維成分の増加、線維組織の凝集、脂肪組織の増加、液体の減少など」が想定されます。

 

2-3-5 エコー所見としてのFasciaの柔軟性(伸張性・滑走性)

〇fasciaの伸張性・滑走性

機能解剖的には、組織の伸張性低下、組織間の滑走性低下が示唆されており、これらはエコーでも評価可能です。Fascia同士が癒着adhesion/cohesionしている現象も注目されています。また、エコーガイド下注射前後で末梢神経とその周囲fasciaとの間の滑走性(長軸方向Sliding movement(Evers S, et al. Muscle & nerve.2018:25-32)、短軸方向Transversal forces[cross-sectional plane](SteccoC,et al. J Anat. 2020)が改善したという基礎研究の報告もあります。

最近では、組織のTrackingを活用し筋線維の収縮性を測定する方法(Drakonaki EE, et al. Br J Radiol.2012;1435-45)や、流体測定で使用されるvelocimetry fluid measurement softwareをエコー画像(B-mode)に活用し、筋膜や組織の収縮性・滑走性を評価する方法も報告されています(Kawanishi K, et al. ARCH PHYS MED REHABIL.2020:457-63)。

 

2-3-6 エコーのエラストグラフィが測定するのは「硬さ」ではない

〇エラストグラフィ(elastography)の「硬さ」とは

エラストグラフィ(elastography)は組織の「硬さ」を計測する方法として注目されており、研究報告も増えています。Fasciaの研究分野でも、慢性腰痛症患者では胸腰筋膜(胸腰腱膜)の肥厚・伸長性・滑走性低下しているという報告があります(Langevin HM, et al. BMC musculoskeletal disorders. 2011)。また、腸脛靭帯の硬さは直下に存在する筋の収縮強度に依存し、腸脛靭帯と筋線維の間で力学的相互作用を形成することがエラストグラフィを用いた計測により示唆されており、深筋膜における周囲組織との滑走性低下は同部位深筋膜の弾性低下を誘発する可能性も報告されています(Drakonaki EE, et al. Br J Radiol.2012;1435-45)。

しかしながら、エラストグラフィにも種類があります。ひずみstrain「ひずみ[ε]=長さの変位率[Δl/l]」を利用して相対的な組織弾性(ひずみ変化率strain ratio)を測定する方法、そして剪断波shear wave「組織弾性[kPa] = 3×組織密度[ρ]×剪断波伝播速度[Vs]2」を利用して推論値を算出する方法が代表的です。いずれも、エコーでは直接ヤング率や剪断弾性係数を測定していません。正確な用語としての弾性・粘性・剛性・ひずみ・速度・圧力、そして一般用語における話し言葉としての『硬さ』を使い分ける必要があります小林只. Fasciaとはー実態・言語・歴史の見地から.臨床スポーツ医学.37(2).2020.p.120-127

なお、測定は「単位」を意識することが基本です。日本語の「硬さ」がどの単位を測定しているのか?を十分に理解しないと、建設的な研究も議論も成立しないことを提示しました。以下に単位の一般論を一部紹介します。

国際単位系(SI)(参照:Wikipediaに定義されているものは以下のようになっています。

  1. 長さの単位[メートル:m]
  2. 質量の単位[キログラム:㎏]
  3. 時間の単位[秒:s]
  4. 電流の単位[アンペア:A]
  5. 熱力学温度の単位[ケルビン:K]
  6. 物質量の単位[モル:mol]
  7. 光度の単位[カンデラcd]
  8. 組み立て単位:組立単位は基本単位の冪の積で定義されます

このように「硬さ」に関する単位は国際単位系(SI)では存在しておりません。

なお運動器領域で筋硬度計などで従来測定されてきた、「ニュートン(N=kg·m/s2)」もまた、物理学における「硬さ」に係る数多の指標の1つです。エコーで「ニュートン」を測定しているわけではありません。ニュートン[N=kg·m/s2]は、kg, m, sの組合わせである通り「8.組み立て単位」になります。

 

2-4 Fasciaの「癒着」とは? 「癒着」に関連した用語の差異

  • 解剖用語と臨床用語は、その臨床分野によっても異なることがあり、建設的な議論のためには要注意です(例:ligament「靱帯、間膜など」)。
  • 癒着(Adhesion)及び 凝集(Cohesion)には、「強度」の概念は含みませんなお、adhesionは「異種組織間の癒着」を、cohesionは「同組織間の癒着・凝集」を意味します。
  • fasciaが凝集(cohesion)した結果、fasciaの高密度化(densification)が生じます。
  • 異常なfasciaの「状態」に対しては“適切な意味”による「癒着 adhesion / 凝集 cohesion」という言葉の使用が、現時点では妥当です。
  • 異常なfasciaの「機能低下」に関しては「滑走性の低下」・「伸張性の低下」という言葉の使用が、現時点では妥当です。
  • 現時点の我々の理解は「fasciaの凝集(cohesion)による高密度化(densification)により生じ、エコー画像上はDeep fascia部位では「ゼブラサイン(ストライプサイン)」を、その他の部分では「fasciaの重積像(Stacking fascia)」として描出されます。その結果として周囲組織と癒着(Adhesion)し滑走性が低下していく」となります。なおエコーガイド下fasciaハイドロリリースで「バラバラに各層構造をリリースしていく」という手技自体は同様です。

解剖用語と臨床用語の解離、あるいは臨床分野毎の用語イメージの解離があることは広く知られています。

例えばligamentですが、整形外科用語では「靱帯」と和訳され、「骨と骨をつなぐ強固な線維性組織」と理解されています。一方、内臓にもligamentは多く、肝鎌状間膜、子宮広間膜、トライツ靱帯など「靱帯」や「間膜」の名称で和訳されています。

解剖学用語としてのligamentは「臓器を固有の位置に保持するための線維性組織」であり、ligamentと肉眼解剖上認識される組織内に平滑筋線維を含むことも稀ではありません。

日本語の「癒着」は、英語のadhesionが元とされています。

Adhesionの定義は「The union of two opposing tissue surfaces(Webster’s New World Medical Dictionary, 3rd Edition)」あるいは「Adhesions are fibrous bands that form between tissues and organs(Dorland’s Pocket Medical Dictionary 30th Edition)」です。

別の医学辞書には、「often used as a result of injury during surgery」のように「scar(瘢痕)」の意味が併記されることもあり、日本語でも瘢痕の意味で使用されることもあります。

しかし、上記の英語の本来の定義からは、「adhesion癒着」という言葉には、その「接着強度」という概念は含まれません(この事実を根拠に、癒着のグレード分類による治療手技の適応を、2016年書籍「THE整形内科」で小林が提案しました:詳細「本HP:3.12 手術、注射、鍼、徒手の使い分けは?」)。

そのため、消化器外科など腹部外科では、腸管の「癒着」と表現する場合、「軽度の癒着だから用手的に剥離した」、「癒着が強いから、慎重に電気メスで剥離した」などと一般的に使用されています。しかしながら、不思議なことに、特に整形外科医にとっては”癒着”といえば強固な線維性構造であり鉗子等で剥離する強度のものというイメージが強いようです。

その他、日本国内では「癒着」に対する議論があり、多様な用語が用いられています。日本語と英語は必ずしも、その概念が一致していないことにも注意する必要があります。

Adhesion、Cohesion、Densificationの関係:写真は熊谷総合病院 泌尿器科 川島清隆先生の撮像

[Adhesionと癒着]

  • Adhesion:「connecting between tissues not normally connected」と前述の通り、「2つの構造をつないでいる状態」を意味し、その癒着の「強度」自体は定義に含まない。「a fibrous band or structure by which parts abnormally adhere」という表現の通り、瘢痕scarのニュアンスで使用されることもある。日本語では「癒着」のニュアンスが近い。
  • 癒着:病態用語(「状態」を表す用語)。「癒」の日本語の意味は「身体や心の傷が『癒える(いえる)』/『癒やす(いやす)』」。そこから、傷がくっつく病的状態という意味が付加される。日本国語大辞典でも「離れてた皮膚や膜などがくっつくこと」と説明されているように、「くっつく強度」は定義に含まれない「状態」用語である。英語としては、adhesionのニュアンスが近い。

[Cohesionと凝集]

  • Cohesion:「molecular attraction by which the particles of a body are united throughout the mass」という表現の通り「塊を形成するための分子間力」が、Cohesionの歴史的な意味である。それが、組織や器官としては「union between similar plant parts or organs」と前述の通り、「1つの構造内で、同様の、あるいは似ている組織が凝集している状態」を意味するようになった(merriam-webster.com)。その凝集力(強度)自体は定義に含まない。日本語では「凝集」のニュアンスが近い。
  • 凝集:正常状態にも異常状態にも使用される。凝集という「状態」と「動き」の両者の意味を表す用語。状態としては「接着、結合、凝集」、動きとしては「接着力、結合力、凝集力」の意味。日本国語大辞典では「散らばったり溶けたりしていたもの(同質のものが)等が『固まり』『集まる』こと。」と説明される。英語としては、cohesionのニュアンスに近い。

[Densificationと高密度状態]

  • Densification:「densification indicates an increase in the density of fascia. This is able to modify the mechanical proprieties of fascia, without altering its general structure(densificationは、fasciaのの密度が増加した状態である。一般的な構造変化ではなく、fasciaの物理的な性質を変化させる)(Pavan PG et al. Current pain and headache reports. 2014;18:441.)」と説明されている。つまり、上記の凝集・Cohesionに近いイメージである。Cohesionが凝集というベクトルを有するニュアンスがあるのに対して、Densificationは密度が増えた「状態」を純粋に示す用語である。つまり、Fibrosisと異なり、fascia自体の明らかな構造変化は伴わない。
  • 高密度状態:「密度」とは「物体の単位容積に含まれる質量(物理用語)」、「一定の単位面積や体積の中に含まれる物質の割合。疎密の度合(一般用語)」と定義される(日本国語大辞典)。しばしば、densificationに対応する言葉として、「高密度化(緻密化)」が和訳として使用されるが、「化」とは、「変化」を示す言葉であ。つまり「高密度化」とは「低密度から高密度へ変化すること」という動態変化を意味する用語であり、「状態」を示すdensificationとは同義ではない。

[Fibrosisと線維化]

  • Fibrosis:「fibrosis is similar to the process of scarring, with the deposition of excessive amounts of fibrous connective tissue, reflective of a reparative or reactive process.(fibrosisは、瘢痕化のプロセスに似ており、組織の修復・反応プロセスを反映して、過剰な量の線維性の結合組織[線維成分のこと]が沈着するプロセスもしくは状態。あるいはコラーゲン線維の架橋自体が変化した状態。)(Pavan PG et al. Current pain and headache reports. 2014;18:441.)」と説明されている。つまり、生体反応によって線維成分自体が組織に増えた状態、あるいは線維構造自体が変化した状態と言える。つまり、Densificationと異なり、fascia自体の明らかな構造変化を伴う現象である。
  • 線維化:「組織中の結合組織が異常増殖する現象(実験医学:バイオキーワード)」という意味を基本として、「炎症により線維化した組織」など医学分野でも広く使われる。炎症の改善していくフェーズは、炎症の修復期であるが、「炎症の線維化フェーズ(≒リモデリング・フェーズ)」と臨床用語として使用されることも多い。

[その他の類語:接着、膠着、固着、密着]

  • 接着:一般用語(「状態」を表す用語)。傷や病気などに関係ない中性的な用語。接着の意味は「二つの物体の表面どうしが接触し、離れなくなること。物体表面を構成する分子(または原子・イオン)間に分子間力がはたらくこと」。英語としては、adhesion, cohesion, glueing(接着糊のglue)としての多様な使い分けがされるため、医学用語としての使用する場合は、その定義を明確にした上で慎重に使う必要がある。
  • 膠着:一般用語(「程度」の意味を含む「状態」用語)。英語では、「agglutination」が近い。広辞苑第7版では「膠にかわで付けたように、ねばりつくこと。ある状態が固定して、動かないこと」、生物学用語としては「Anchylosis」の意味として「物などがねばりつくこと。ぴったりくっついて離れないこと。固着」(生物学語彙〔1884〕〈岩川友太郎〉)とも説明されている。(日本国語大辞典) つまり、膠のようにくっつくという、比較的強い「癒着」を意味する言葉と判断できる。
  • 固着:物などがしっかり着いて離れないこと。(日本国語大辞典) 膠着と同義として説明されることが多い。
  • 密着:ぴったりと付くこと。すきまなく付着していること。(日本国語大辞典) 強度の問題ではなく、「すきま」がないようにくっついているという状態用語。

[いわゆる”ひっかかり”を意味する用語:アンカリング、エントラップメント、インピンジメント]

  • アンカリングanchoring:正常構造物に使用する用語(機能を表す用語)。日本語では「固定」の意味。船舶を岸につなぎ止めておくアンカーというニュアンス。英語でも「Any device that fixes the position of an object with respect to its surroundings.(Farlex Partner Medical Dictionary)」と同様である。つまり、正常構造が破綻しないためのクサビ(アンカー)の意味となる。fasciaが組織間の架橋(fibrils含む)の機能として、「組織が動きすぎない(例:関節不安定症)ための楔という役割もある。つまり、組織間滑走性の観点では、アンカーがないと「組織間がズレてしまい正常な位置関係が保てない」ことを防ぐ生体機能を意味する。従って、「軽度の癒着」を意味する病態用語としての使用は不適である。
  • エントラップメントentrapment:病態用語。異常な「引っかかり」の状態を表す用語。英語では「the state of being trapped.」である。組織間では、正常ならスムーズに動く(滑走する)ものが「引っかかり正常に動かない」という病態用語である。
  • インピンジメントimpingement:病態用語。一般英語では「衝突」、医学用語としては「挟み込み」というニュアンスで使用されることもある、「現象」を表す用語。

[柔軟性、伸張性、滑走性]

  • 柔軟性 flexibility:柔軟性の定義は“身体の関節の可動範囲内で身体運動を円滑に、しかも広範囲に動かすことのできる性能のこと”である(Alter MJ. Science of flexibility. Human Kinetics, 2004.p3)。柔軟性の影響因子には、解剖学的な骨格配列(アライメント)、関節を構成する組織(関節包、靭帯、筋、腱、筋腱複合体など)の伸長性、皮下組織(脂肪など)の量、筋力、神経系の制御、伸長される組織の痛覚受容器の耐性などがある(NORRIS, Christopher M. The complete guide to stretching, 2015.)。組織の伸長性を妨げる因子の一つに各種fasciaの癒着や脱水などがあると考えられる。つまり、柔軟性とは以下に説明する伸張性や滑走性を含む包括的な概念である。柔軟性には静的柔軟性と動的柔軟性がある.静的柔軟性は可動域(関節が一定条件の元で可動する角度で表示:ROM)、動的柔軟性はスティフネスstiffness(単位当たりの長さ変化に必要な力の大きさ)などで表記される。
  • 伸張性 extensibility:病態用語(「動き」など機能を表す用語)。1つの組織自体の機能を表現する言葉である。筋・腱の伸張性など。伸張性の英語は、性能の意味(-bility)を含む「extensibility」が妥当である。
  • 滑走性 gliding:病態用語(「動き」など機能を表す用語)。肉眼レベルの表現としては、「滑走」とは2つの異なる組織間の動きを表現する言葉である。筋と筋の滑走性、腱と脂肪体の滑走など。ミクロの世界では「ミオシンとアクチンの滑走」という言葉も使用される。「滑走」の意味で「sliding」と「gliding」が使用される。前者は「労力なしで滑らかに速く移動すること」であるが、後者は「滑らかに表面の上を触れたまま動く、または動かすこと(to move smoothly over a surface while continuing to touch it, or to make something move in this way)」である。靱帯、腱、筋など組織間の滑走を意味する用語としては「gliding」が妥当である。なお、滑走性の「障害」という言葉も散見されるが、「障害」とは「正常ではない、邪魔されている」の意味としての状態名である。「動きすぎ」ではなく、癒着による「動かなすぎ」を表現したいのであれば「滑走性の低下」という表現が妥当である。

以上より、adhesion(癒着)は「異種組織間・臓器間」の「くっつき」を意味します。一方、同様の用語であるcohesion(凝集)は「同組織間・臓器間」の「くっつき」を意味します。前述のように、細胞外マトリックスの基質(例:ヒアルロン酸など細胞間に存在し、「くっつき」に関わる因子)がfasciaと相互作用した結果、癒着/凝集する場合もあれば、線維芽細胞の活性化により疎性結合組織が密性結合組織に近づいた局所病態も癒着/凝集と呼ばれます。(現在、当会では、動物実験や解剖学的研究など含めた基礎研究による検証を進めています。

現時点でcohesionの医学用語はありませんが、細胞外マトリックスとfasciaの関係性を踏まえた、fascia同士の癒着に相当する用語は、凝集や高密度化を意味するcohesionが適当かもしれません。

つまり、筋外膜間の3次元構造物として網目状構造をとるfasciaの場合、fasciaの癒着とは「fasciaのcohesion(凝集)によって、2つの隣接する組織(例:筋、靱帯)同士がAdhesion(癒着)する」という時系列を伴う病態として理解することができるかもしれません。さらに正確に記せば、「fasciaが、Cohesion(凝集・高密度化)の結果として、densification(高密度状態)になり、2つの隣接する組織同士がAdhesion(癒着)する」となります。

このように、「癒着」に関する用語は、今後新しい用語の作成検討などを含めて、協議する必要があります。「言葉の精密さは、適切な現象の記述に大切」であり、「現象の検証は、その言葉と分類と概念を裏打ちし発展」させます。

現時点ではリリース治療の対象となる構造物として、異常なファシアの「状態」に対しては“適切な意味”による「癒着 adhesion / 凝集 cohesion」によるfascia自体の高密度化 densificationであり、「機能」に関しては「組織間の滑走性の低下」・「組織自体の伸張性の低下」という言葉の使用が妥当だと考えています。

2019年4月現在、これらの用語の活用に関しては、一部の臨床家の間で誤認されていることも多く、建設的な議論のためには、その慎重な活用が重要です。

2-5 異常なFasciaによる症状とは?

疼痛あらゆるFasciaの異常で起きる可能性があります。

また、異常なFasciaの場所によっても異なります。広い範囲で症状(広い範囲の関連痛)がでやすい部位、神経近くのFasciaの異常は「しびれ感」を生じる傾向にありますが、一定はしません。

例えば以下のような例があります。

異常なFasciaの場所痛み、しびれが広がる部位
小殿筋(足の付け根付近)足の付け根から足首にかけての足全体
上後鋸筋(背中の肩甲骨付近)肩から指先まで腕全体
腰方形筋(腰の背骨付近)腰及びお尻の広い部分

2-6 異常なFasciaが原因で生じる症状によく似た病気、あるいは合併している病気は?

既存病名に合併していることも多いですが、MPSなどのFasciaの異常が原因で生じる症状によく似た病気として代表的には以下があります。

頭部・顔面部筋緊張性頭痛、偏頭痛、顎関節症、舌痛症、三叉神経痛、顔面神経痛(顔面神経は知覚神経ではありませんので、本来この病名はありません)、頚性めまい、耳鳴り
頚部慢性咽頭炎、嚥下痛、頚椎症、頸肩腕症候群
肩部・上肢胸郭出口症候群、五十肩、肩関節周囲炎、テニス肘、ゴルフ肘、内側側副靱帯損傷、手根管症候群、腱鞘炎
胸部乳癌術後疼痛症候群、心臓神経症、動悸感、開胸術後疼痛
腹部機能性胃腸症、過敏性腸症候群、胃けいれん、開腹術後疼痛、子宮内膜症、生理痛、間質性膀胱炎
背部・腰臀部椎間板症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性脊椎症、腰椎すべり症、坐骨神経痛
下肢変形性股関節症、変形性膝関節症、半月板障害、糖尿病性神経障害

2-7 発痛源評価の方法は?(特に、異常なFasciaについて)

発痛源 Source of painを、現時点ではエコーだけで検索することはできません。

エコー画像上、白く帯状に高エコー領域(我々は、Fasciaの重積[stacking fascia]と表現しています)として描出される傾向にあると提案しています。しかし、この所見の感度は高いが、特異度は高くない(検証中)傾向にあります。

症状・病歴、身体診察から、ある程度の場所を絞ることが重要です。圧痛所見のみで検索するのも、診療効率は良くありません。

触診の技術によっても圧痛検出の有無は変わりますし、部位によっては圧痛所見自体がでにくい場所もあります。

例えば、腰部のLaphe(腰方形筋・長肋筋・大腰筋の間で胸腰腱膜の一部)は、深部に骨などの固い部位がないので、圧痛所見は殆ど出せません。また、腱や靭帯などは圧痛閾値が非常に高いので、触診レベルの圧痛強度では痛みがでません。

鍼や注射をして初めて、関連痛が生じる例も稀ではありません。そのため、触診の前に動作分析(可動域評価)により、発痛源を検索することが重要です。

その後、触診とエコーで対象物の深さ(Fasciaの重積部)など解剖学的構造や、Fasciaの伸張性・滑走性の評価、刺入ルートの安全性(例:神経や血管の位置確認)を確認し、局所治療を実施します。

2-8 Fasciaとトリガーポイントの関係は?

トリガーポイントTrigger pointは、過敏化した侵害受容器という生理学的観点の名称であり、形態表現の1つとして筋硬結があるに過ぎません。

臨床でも、トリガーポイントは筋膜上のみならず腱・靭帯・脂肪・皮膚などの結合組織に広く存在し、筋膜以外も治療対象となることは広く知られています。

そのため、“トリガーポイント=筋硬結Muscle nodule という理解は正確ではありません。

一方、Fasciaは解剖学的観点の名称です。トリガーポイントは、侵害受容器など痛みのセンサーが高密度に分布しているFasciaに優位に存在している可能性が示唆されています。

2-9 これまでの病名との整合性は?(その膝痛は、変形性膝関節症?MPS?)

診断名の定義は、「解剖Anatomy ☓ 病態Pathophysiology ☓ 原因etiology」です。これら3要素すべて説明できる時に、疾患として成立します。

1つ以上が不明の時は、◯◯症(=〇〇という状態、symptom)、〇〇症候群(=特定の症状群がまとめて生じる原因不明の疾患群, syndrome)という名称になります。

例えば、変形性関節症という病気は、「関節が変形している状態」という解剖の要素に言及した「症状名」であり、症状に対応した「病態」は規定されていません。なお、変形性関節症は、英語のOsteoarthritisの和訳とされていますが、Osteoarthritisに対応する正確な日本語は変形性関節“炎“です。

そして、Osteoarthropathyが変形性膝関節症に相当します。ICD-11では、Osteoarthropathyの下位分類として、Osteoarthritisや感染性や自己免疫性などの病態が位置づけられています。

細胞数などのカットオフを用いるなど恣意的であったとしても、「症」と「炎」が分離は、疼痛分野の建設的な研究・議論、臨床行為の妨げとなっています。

そして、関節(joint)とはjoint space(関節腔)+Fascia(関節包、靭帯などの線維性結合組織)で構成されます。

2-10 線維筋痛症と筋膜性疼痛症候群(MPS)は同じ?

両方とも「筋痛症(きんつうしょう)」と呼ばれることもあり、混同されやすい病気です。

MPSの重症化したものは線維筋痛症とも言われる場合もありますが、線維筋痛症は「脳が何らかの原因で敏感になってしまった状態 central sensitivity syndrome」のことであり、MPSは主に末梢性の病変を示唆する疾患です。

しかし、多発するMPSによる痛みなどの症状が、中枢過敏の一因である可能性も報告もされています。そのため、MPSと線維筋痛症の境界は現時点でも議論されています。

ただし、MPSの場合は、全身で同時に痛み、しびれが発生することは基本的には無く、右肩、首、腰、左足など特定の部位、若しくはその複数の部位の組み合わせで発生をします。

2-11 Fascial pain syndrome(FPS)の提唱

当会は、MPSの診断基準や関節リウマチの分類基準等を参考に、Fascial pain syndrome(FPS)の分類基準classification criteriaを提唱しています(2019年7月1日)。議論は現在も続いていますが、本分類基準を元に、その精度検証、そしてFasciaに対する病態解明と治療に寄与することを目指しています。

Fascial pain syndrome (FPS):ファシアの異常によって引き起こされる知覚症状、運動症状および自律神経症状(を呈する症候群)。これらの症状の原因となっている特定のファシアを明らかにする必要がある。

FPSの分類基準について

今回の新しい基準は、あくまでも分類基準です。この基準に合わないFPS患者もいれば、この基準には合うがFPSでない患者もいます。また、この分類基準を使うためには一定の診療技術も要求されます。

なお、FPSと分類後、異常なfasciaを正確に治療(例:エコーガイド下procedure)し、著明な症状改善を認めたときに、確定診断とする。(注1)

  • 少なくとも、1つ以上の明らかなfasciaの異常があり、他の疾患では説明できない患者が、この分類基準の使用対象となる。
  • 以下に提示してある、すべての必須所見と1つ以上の参考所見を満たす場合、FPSと分類する。
  • 必須所見
    • 鋭敏な圧痛点を触知できる。(注2)
    • 圧痛部位に一致して、エコー画像上fasciaの異常を認める。(注3)
  • 参考所見
    • エコー画像上、fasciaの重積像に一致した、伸張性・滑走性の低下を認める。(注4)
    • fasciaの重積像に針/鍼を刺入すると、肉眼上・触診上・エコー画像上で単収縮反応が生じる。
    • fasciaの重積像がリリースされていくと、エコー画像上周囲の血管拍動が強くなる。
    • fasciaの重積像に徒手/針/鍼などで刺激が加わると、痛みあるいは患者が感じていた感覚が再現される。(注5)

(注1)75%以上の疼痛スコアの改善+ROMの改善 (Pain Physician. 2012; 15: E869-907

(注2)深部に骨など硬い組織が無いときには圧痛は評価困難なこともある。支帯など浅い組織では、ツマミ圧痛(皮下組織を手指で摘まんで圧痛を確認することも有用)。深部組織では、鍼(Dry needling)を用いて、発痛源を評価する工夫もできる。

(注3)エコー画像上の異常なファシアとは、いわゆるファシアの重積(hyperechoic strip-shaped lesions as stacking fasciae or thickness of fascia on Ultrasound images, as pathophysiology of adhesive fascia, cohesive fascia, or high-density fascia)などがある。今後、エコー以外の画像診断装置や電気生理学的検査による検証も進むことが望ましい。

(注4)可動域の制限因子としてfasciaの重積像の部位が確認できる。

(注5)活動性トリガーポイントと同様の概念である。

3.Proposal of Fascial Pain Syndrome (FPS)

We, JNOS, has proposed classification criteria for Facial Pain Syndrome (FPS) with helpful reference of MPS diagnostic criteria and rheumatoid arthritis classification criteria. We need to verify its accuracy, and to contribute to the elucidation and treatment of abnormal fascia.

3-1 Fascial Pain Syndrome

The sensory, motor, and autonomic symptoms caused by abnormal fascia. The specific fascia and fascial group that causes the symptoms should be identified.

The classification criteria for FPS (JNOS July 1st, 2019)

The new criteria are of classification, not diagnostic. An FPS patient who does not meet the criteria might have symptomatic abnormal fasciae, and vice versa. Skillful medical skills are also required to adopt the criteria. Note: After FPS is classified, the precise intervention for abnormal fascia (e.g., ultrasound-guided intervention) is performed to relieve symptoms of FPS significantly. *

  • This classification criteria are made available when one or more obvious abnormal fascia is identified, which cannot be explained by another diagnosis.
  • FPS is classified when all essential criteria are fulfilled and at least one more confirmatory observation is made.
  • Essential Criteria
    • Exquisite spot tenderness if the abnormal fascia is accessible. †
    • Identification of high echoic strip-shaped lesions as stacking fascia as high-density, adhesive or cohesive fascia on ultrasound findings on/in the same tenderness spot. ‡
    • Restriction of passive range of motion or painful limit to full passive stretch caused by abnormal fascia.
  • Confirmatory Observations
    • Low extensibility of fascia and/or sliding between fasciae caused by abnormal fascia. §
    • Visual, tactile or ultrasonographic identification of local twitch response induced by needle penetration of abnormal fascia.
    • Observation of increase of arterial pulse pressure near the abnormal fascia released by a procedure.
    • Patient’s recognition of current complaint induced by needle stimulation to abnormal fascia. ||

* relief of restrictive range of motion and 75% or more of the pain intensity as per the criterion standard as a reference(Pain Physician. 2012; 15: E869-907

† Tenderness could be difficult to evaluate if hard tissues such as bone is not in the deep (opposite) site of the direction of tenderness. Pinch tenderness in shallow tissues such as retinaculum should be exam, which confirm tenderness of subcutaneous tissue by pinching with fingers). Also, dry needling could be performed for deep site.

‡ On ultrasound image, abnormal fasciae are more often shown as hyperechoic strip-shaped lesions as of stacking fasciae or thickness of fascia, which could be indicated as pathophysiology of adhesive fascia, cohesive fascia, or high-density fascia.

§ As a limiting factor of the range of motion, abnormal fascia was confirmed (e.g., by ultrasonography)

|| This is a concept similar to the activity trigger point of MPS.

 

4.治療方法

MPS(筋膜性疼痛症候群)及び異常なFasciaの治療においては、以下の3点が重要です。

1. 適切な評価により発痛源を検索し、治療すること。

2. 悪化因子(アライメント、身体の使い方による「使いすぎOveruse・廃用Disuse・誤用Maluse/Misuse」、心理的緊張、中枢過敏)を取り除くこと

3. 早期の治療により痛みを取り除くこと

痛みの状態が急性痛から慢性痛に移行をしますと、心身症の側面が現れ、ワインドアップ現象、中枢系感作、痛みの可塑性などの影響により脳が痛みに過敏になるなど、難治性の病気へ進行する可能性が高くなります。

具体的な治療方法は多様であり、直接法と間接法に分類することができます。治療者毎の得手と、多職種連携で治療していくことが重要です。

発痛源と悪化因子の関係

4-1 治療手技の分類:直接法と間接法

直接法と間接法は分離可能な概念ではなく、多くの直接法は間接法としての効果も含みます。

例えば、異常なFasciaへの局所治療は、病変部位の治療と、病変部位を含むあるいは関連する組織の治療(反射による筋クランプの即時改善など)の両者に有効です。

4-1-1 直接法(direct approach)

発痛源へ直接介入し病変部自体を治療(例:組織間の滑走性改善・組織自体の伸張性改善):Fasciaリリース(注射、鍼、徒手)、トリガーポイント注射、時に鏡視下剥離術などがあります。

4-1-2 間接法(indirect approach)

発痛源を悪化させている因子(悪化因子)の同定・治療(例:病変部周囲組織の伸張性改善による病変部への負担を軽減、心因的な緊張緩和によるリラックス)、ストレッチ、筋緊張緩和(リラクゼーション:ポジショナルリリースなど)、動作指導、認知行動療法などがあります。

4-2 治療手技(手術、注射、鍼、徒手)の使い分けと組合わせ

癒着の強さと可動域制限・組織の伸張制限は比例傾向にあります。また、癒着の程度よりその治療手段は異なります。

図:癒着のGrade 分類と治療方法の特性(Fasciaリリースの基本と臨床(文光堂)より)

4-2-1 注射療法+徒手療法(Passive manipulation with hydrorelease)

注射後に徒手治療を加えることで、その治療効果が高まることは、本分野の治療を実施している治療家は実感しているところでしょう。注射(もしくは鍼)と徒手(もしくは運動療法)のどちらを先に実施するかは、その医療機関や施術所、そして治療者の特性に依るところが大きいのが現状です。

運動器エコーは、静的な観察だけでなく関節運動を伴う動的な観察も可能である。動的観察の主目的は、以下である。

1)Fasciaの伸張性・滑走性を評価し、癒着の程度および治療前後の変化を観察できること
2)関節運動時の筋の滑走方向や収縮時の厚さを観察できること
3)筋収縮を可視化することで、筋やその周囲組織の解剖学的検証に役立つこと。

Tight fascia signは、動的な観察によってエコー画像上で、突っ張るような動きを明らかにすることのできる徴候として、2018年に木村らが命名した。可動域制限が起こる場合には、Tight fascia signを確認することで、Fasciaの伸張性低下、滑走性低下、または短縮状態を評価できるため、治療部位の選択に役立つ。

Tight fascia signを認められた状態で注射を行うことは、徒手治療と注射治療を別々に実施するのとは異なる治療効果を挙げることができます。Passive manipulation with hydroreleaseとは「他動的に緊張させた状態のfascia(組織部位)へHydroreleaseをすること」として2019年に木村らが命名した。これは、「注射療法+徒手療法」である。特に、可動域改善を目的とした場合、弛緩した状態Fasciaに注射するよりも、緊張させた状態のFasciaへ注射した方が、その改善度が大きい傾向にある。具体的には、他動的関節運動を行う介助者は、可動域の最終域で保ちながら注射(Hydororelease)によって、緊張状態のfasciaの切離および周囲組織の剥離をすると供に、組織を弛緩させていく。徐々に広がっていく可動域に合わせて、Fasciaの緊張度が保たれるように、介助者は患者の関節可動域をコントロールすることが重要である。

4-3 エコーガイド下Fasciaリリースとは?

  • エコー画面で異常なFasciaを確認しながら、リリースする手技です(=Ultrasound-guided Fascia Release)。その手法は、注射・鍼・徒手、時に鏡視下手術など多様です。
  • エコーガイド下fasciaリリースのうち、注射手技に関する名称がエコーガイド下fasciaハイドロリリースTM(fasciaに対するエコーガイド下ハイドロリリース、または、超音波ガイド下fasciaハイドロリリース)です。

注射によるエコーガイド下FasciaリリースUltrasound-guided fascia release Injection(= Ultrasound-guided fascia hydrorelease)とは、エコーガイド下に異常なFasciaを注射によりリリースする手技です。

鍼を用いたFasciaリリース(Fascia release dry needling、徒手によるFasciaリリースFascia release manipulation も同様です。治療後、Fasciaを介した組織の伸張性や滑走性の改善が診察・エコー上で確認します。

現在、多職種による治療を並列に議論する場合はFasciaリリース(鍼、徒手、注射など)を、注射のみを議論する場合はファシア・ハイドロリリースという用語も用いられる傾向にあります。

4-4 生理食塩水注射とエコーガイド下Fasciaリリースの歴史的経緯と国内の普及経緯

  • 生理食塩水による局所注射の歴史は古い。
  • エコー機器の発達は精密な局所注射を可能にし、ブドウ糖・生理食塩水・細胞外液・ヒアルロン酸など非局所麻酔薬を用いて、Fascia/神経/血管などをピンポイントに狙った精密治療が注目されています。

歴史をたどれば、MPSに対する生理食塩水注射の学術的な報告は、1955年のSolaらの頚肩部痛100例に始まりました(Am J Phys Med 1955.)。

1980年には、FrostらはMPS治療に使用する薬液は局所麻酔薬よりも生理食塩水が優れるというランダム化比較試験(RCT)の結果をLancetで報告しました(Lancet 1980)。

長時間型局所麻酔薬の開発等が進み、MPSに対する局所注射は、局所麻酔薬の優位性が報告される一方で、1990年代にはブドウ糖液(Prolotherapy)・蒸留水・ボツリヌス毒素Aが、2000年代には自己多血小板血漿(PRP)が、生理食塩水に対する比較試験で報告されてきました。

2008年のStaal JBらによるCochrane Review(Cochrane Database Syst Rev 2008)では「MPSに対する局所注射の治療効果は、各種局所麻酔薬・ステロイド・ボツリヌス毒素Aと生理食塩水(プラセボ)と同等であった」と示され、運動器疼痛に対する局所注射治療への社会の否定的な理解を強めました。

この研究結果は「生理食塩水はプラセボではなく他薬液と同等程度に有効である」とも解釈できたのですが、生理食塩水はプラセボであるという西洋医学研究の根底にある観念は強固でした。一方、これら過去の局所注射に関する、殆どの研究手法は“ブラインド注射”であり、その精度は大きな課題でした。

2008年8月、旧MPS研究会会長・木村らは筋膜性疼痛Myofascial painに対する治療として、局所麻酔薬による筋膜間ブロックを発表(スキマブロック.第2回MPS研究会学術集会.(2008.8.23))し、2010年4月には雑誌・ペインクリニックに報告しました(Pain Clinic 2010)。

2011年5月、Domingoらは、局所麻酔薬によるエコーガイド下筋膜間注射の肉眼解剖学的検討を報告し(Clin J Pain 2011)、2011年10月にはTesarzらが筋外膜の3層構造のうち外層に知覚神経が高密度に存在することを報告しました(Neuroscience 2011)。

2012年、木村は、局所麻酔薬の代わりに生理食塩水注入でもFasciaに由来する症状に関して、同等以上の効果を得られることを報告しました(続MPSに対する新しい治療法.第10回MPS研究会学術集会. (2012.11))。近年の技術革新によりエコーがMRIやCTよりも局所分解能が優れ、局所注射の精度を飛躍的に向上させてきました。

そして、2014年6月、木村は「エコーガイド下筋膜リリース(エコー画像上”白く厚い帯状の筋膜“をバラバラにするように実施することで、鎮痛効果に加えて結合組織の柔軟性(伸張性、滑走性)の改善を期待する手技)」を考案しました(エコーガイド下筋膜リリース法. 第13回MPS研究会学術集会.(2014.6))。

2014年7月「運動器エコーフェア in 大阪」で、旧MPS研究会役員・小林が100名余りの整形外科医を前に「MPSの観点から診た腰痛患者の評価と生理食塩水注射によるエコーガイド下筋膜リリース」の初見ライブ治療(外部リンク)を行ったことで整形外科分野への認知が始まりました。

2015年5月に、小林らは生理食塩水注射によるエコーガイド下筋膜リリースに関する論文が「特集 THE整形内科. 治療(南山堂 2015)」に掲載され、内科・総合診療分野への認知が始まりました。

2015年6月、木村は筋膜だけでなく、靭帯、支帯、さらに神経上膜などにもエコーガイド下注射が有用であることを報告しました。(筋膜リリースからFasciaリリースへ. 第15回MPS研究会学術集会(2015.6))同時に、「エコーガイド下筋膜リリース」を「エコーガイド下Fasciaリリース」と改名しました。

2015年7月には、運動器エコーの先駆者である皆川らの薦めで、第27回日本整形外科超音波学会で白石、小林が筋膜・神経含むFasciaへの生理食塩水注射に関する発表(外部リンク)したことで、整形外科分野への認知が急速に進みました。

2016年5月、白石・皆川・小林らの編集による運動器エコーとFasciaリリースが既存の整形外科学との融合を目指した書籍「THE整形内科(南山堂 2016)」や木村が執筆したスポーツ分野への活用を提示した論文「臨床スポーツ医学(文光堂 2016.5)書籍内で紹介した治療手技動画(外部リンク Youtube)」が発刊されました。

2016年8月、小林らは、MPSに対するエコーガイド下Fasciaリリース注射の1つである Interfascial injection(筋と筋の間・皮下組織、脂肪体含む筋と骨の間などの筋外膜間スペース)は、生理食塩水が局所麻酔薬よりも注入痛は大きいが鎮痛効果に優れ、細胞外液(重炭酸リンゲル液)が生理食塩水よりも注入痛は小さく同程度の鎮痛効果であることを2つのRCTで示しました(Journal of the Juzen Medical Society 2016)。

以後、総合診療領域、ペインクリニック領域、整形外科領域などの各種学会や各種セミナーで本分野の発表が増えてきました。

2017年3月には、書籍「Fasciaリリースの基本と臨床(文光堂 2017)」が、2017年5月には書籍「無刀流整形外科(日本醫事新報社 2017)」と「離島発とって隠岐の外来超音波診療ー動画でわかる運動器エコー入門(中山書店 2017)」、2018年7月には「肩痛・拘縮肩に対するFasciaリリース(文光堂 2017)」が発刊され、Fasciaの臨床的認知は急進しています。

2018年度に入り、学会の保険審査委員会などでも、Fasciaリリースという手技に関する保険診療上の扱いが前向きに議論されるようになりました。(例:局所麻酔薬ありの場合「トリガーポイント注射」、局所麻酔薬なしの場合「皮内、皮下及び筋肉内注射」)。諸外国(アジア、北米、EUなど)でも、5%ブドウ糖、生理食塩水、ヒアルロン酸など多様な液体を用いた、Fascia/末梢神経/末梢血管などへのエコーガイド下治療の実践は広がってきています。

2019年以降には、日本国内の運動器エコーや、整形外科・運動器リハビリテーション関連の書籍でもfasciaやハイドロリリースに関する記事が増えてきました。国際的にもエコー画像上のfasciaの肥厚と病態・症状との関連性に関する論文や報告が増えてきました。

2020年12月には、当会JNOSが主催で第1回日本ファシア会議を開催しました。同時期より、国内外から生理食塩水注射やハイドロリリースに関する論文が急速に増えてきました。

4-5 エコーガイド下ハイドロリリース ultrasound-guided hydrorelease(HR)とは?手技名称の基本要素からみたHRの定義

  • ハイドロリリースHydrorelease(HR)は、Hydro(液体)でRelease(剥離・緩める)ことを意味します。
    • 使用される液体は様々ですが、日本国内では「HR=生理食塩水注射」の意味で使用される傾向があります。
  • ハイドロリリースは、その対象に係る語と組み合わせて使用します。
    • 治療対象がfasciaであれば、fascia hydroreleaseと表記されます。ここで言うfasciaは「fascia system」の範疇になります。つまり、A fascia(peripheral nerve周囲組織含む)、Ligament、tendonの全てを含みます)。また、末梢神経内部のリリースは「fibrils」への治療も含みます。
    • 治療対象を「末梢神経」に限定して「nerve hydrorelease」と表現されることもあります(正確にはperipheral nerve hydroreleaseです)。これは、末梢神経を周囲組織(A fascia)からリリース手技とも言えます。つまり、末梢神経周囲へのハイドロリリースは A fasciaへのハイドロリリースと同義であり、fascia systemとしてのfascia hydroreleaseの一部という関係になります。 
    • 同様に、治療対象を「Ligament」や「tendon」に限定して、「Ligament Hydrorelease」「Tendon Hydrorelease」と表現されることもありますが、これらもLigament周囲、tendon周囲へのハイドロリリースである場合は、A fasciaへのハイドロリリースとも言えます。
  • Ultrasound-guided Fascia Hydrorelease(エコーガイド下fasciaハイドロリリースTM)とは、fasciaを生理食塩水等の薬液でリリース(剥離separation+弛緩relaxation:エコー画像上では“白く厚い帯状のfascia”をバラバラにするように薬液を注入)し、鎮痛効果に加えてfasciaの柔軟性(伸張性および滑走性)の改善を期待する手技です。

歴史的には、Hydroreleaseという語が初めて使用されたのは、2012年のJay B. Janiらの国際学会ポスター発表になります。(PM&R , Volume 4 , Issue 10 , S254)一方、2011年にMulvaneyらにより文献的に初めて使用されたHydrodissection(Curr Sports Med Rep 2011)の言葉が主に広がってきた影響によるものと類推されますが、Jayらの2012年の資料以外に活字としてHydroreleaseという用語はインターネット上には見つけられませんでした(もし、見つけた方はご連絡いただけると幸甚です)。

 

2017年3月、日本においては、前述のエコーガイド下Fasciaリリースの注目が増える中、「エコーガイド下に、液体の注射でリリース」する手技を指すエコーガイド下ハイドロリリースUltrasound-guided Hydroreleaseという名称が、木村裕明・小林只・白石吉彦・皆川洋至ら(五十音順)の協議により命名されました(2017年3月29日~30日:私文書)。

その主たる意図は、以下2つであった。

  1. 社会で誤用される「筋膜リリース」という用語との差別化。
  2. Fasciaハイドロリリース(液体注射によるFasciaリリース)は鍼や徒手によるFasciaリリースとその有効性等に係るメカニズム等が異なる可能性の示唆。

ハイドロリリースHydrorelease(HR)という用語自体は、Hydro(液体)でRelease(剥離・緩める:以下参照)を意味します。

世界的には、生理食塩水(生理食塩水から高濃度食塩水まで)、局所麻酔薬(低濃度~高濃度を含む)、ブドウ糖(5%~10%:プロロセラピーと同義)、細胞外液(例:重炭酸リンゲル)、ヒアルロン酸(低分子~高分子)、蒸留水などの多様な液体が研究レベル含めて使用されていますが、その優劣の検証は今後の課題です。液体による効果は、溶質(麻酔薬、電解質など)だけではなく、基質(水自体)も関与すると考えています。また、「補液」効果は、鍼治療や物理療法などでも刺激による二次的な局所の血流増加という観点でも関与します。

日本国内では、ハイドロリリースは「生理食塩水注射」の意味で使用される傾向があります。

一般的に、手技名は「A(対象)を、B(例:道具)を用いて、C(現象・手技)する」という要素で構成されます。つまり、Fascia(A)を液体で(B)リリースする(C)ことがFascia Hydrorelease(ファシア・ハイドロリリース)となります。

そのため、ハイドロリリースという用語自体は、その対象までを含む言葉ではありません。即ち、A fasciaを対象とした場合は A fascia Hydrorelease、あるいは末梢神経を対象とした場合はperipheral nerve Hydrorelease(末梢神経ハイドロリリース)、靱帯を対象とした場合は靱帯ハイドロリリース(Ligament Hydrorelease)などと、その対象に係る語と組み合わせて使用することが基本となります。

一方で、A fascia、末梢神経、Ligament、筋外膜など全ての組織は連続性を有し、その境界を明確に分離することはできません。そのため、末梢神経へのハイドロリリース、Ligamentへのハイドロリリース、筋外膜へのハイドロリリースは、A fascia(Deep fascia、neural sheathh含む)へのハイドロリリース、とも言い換えられます。

当会で表現している「fasciaハイドロリリース」の「fascia」は、fascia systemの範疇になります。

  • 治療対象がfasciaであれば、fascia hydroreleaseと表記されます。当会で言うfascia hydroreleaseの「fascia」は「fascia system」の範疇になります。つまり、マクロ解剖レベルとしての「A fascia(peripheral nerve周囲組織含む)、Ligament、tendonの全て」を含みます)。また、末梢神経内部のリリースは「fibrils」への治療も含みます。
  • 時に、治療対象を「末梢神経」に限定して「nerve hydrorelease」と表現されることもあります(正確にはperipheral nerve hydroreleaseです)。これは、末梢神経を周囲組織(A fascia)からリリース手技とも言えます。つまり、末梢神経周囲へのハイドロリリースは A fasciaへのハイドロリリースと同義であり、fascia ssytemとしてのfascia hydroreleaseの一部という関係になります。 

エコーガイド下Fascia ハイドロリリース(fasciaに対するエコーガイド下ハイドロリリース)とは、超音波診断装置(エコー)を用いて、fasciaを生理食塩水等の薬液でリリース(剥離separation+弛緩relaxation:エコー画像上では“白く厚い帯状のfascia”をバラバラにするように薬液を注入)し、鎮痛効果に加えてfasciaの柔軟性(伸張性・滑走性)の改善を期待する手技です。

Ultrasound-guided fascia hydrorelease was defined as a technique for the release (separation in structural view and relaxation in functional view) of stacking fasciae as hyperechoic strip-shaped lesions on ultrasound images, akin to peeling off thin stacking papers and separating fasciae themselves.This injection aims to improve the extensibility of fasciae or to slide between fasciae in addition to having analgesic effects.

時に、ハイドロリリースは「エコーガイド下に結合組織(もしくは支持組織)に対して薬液を注入して痛みを改善させる手技」と記載されることもありますが、不正確です。その理由は、以下です。

・ハイドロリリース自体に「エコーガイド下」という表現は含まれません。この意味を含むのであれば、「エコーガイド下ハイドロリリース」という表現になります。

・「結合組織に対して」という目的語は前述の通り、ハイドロリリースという言葉には含まれません。さらに、結合組織は前述の通り(2.1)、特殊結合組織(血液や骨・軟骨など)を含む表現のため不適切です。支持組織も結合組織と同義で使用されるもの(定義は研究者によって異なる)ですので、同様に不適切です。

・「痛みを改善させる手技」に関しては、「痛みを改善させる」は手技の目的としての表現であるため、「痛みの改善を目的とした」と表記することが妥当です。また、リリース(3.8)とは「剥離(構造的)と弛緩(機能的)」により、「鎮痛効果」と「組織の柔軟性(伸張性・滑走性)の改善」を期待する手技であり、そのため関節可動域改善や伸張性改善が重要な治療評価項目です。鎮痛だけが目的であれば局所麻酔薬を用いた末梢神経ブロックと類意となってしまいます。

4-6 ハイドロダイセクション Hydrodissection(HD)とは?Hydrorelease(HR)の差異

  • Hydrodissection(HD)は多様な領域で使用されていますが、運動器領域では「Nerve hydrodissection(神経HD):正確にはPeripheral nerve hydrodissection」として「末梢神経を液性剥離する手技」と一般的には理解されています。
  • HDと神経ハイドロリリース(Nerve HR)は、同じ生理食塩水注射であっても差異があります。
    1. dissectionは「剥離」というエコー画面上の組織の「形態表現」、Releaseは「剥離(形態)+弛緩(機能)」を示します。
    2. HDが末梢神経絞扼部の解除を主たる目的としています。一方、HRは特にfasciaに注目した概念から生まれた言葉であり、手技の面でも、神経HRは神経周囲のfasciaの層構造をバラバラにするように注射すること、さらに神経周囲のみならず「神経自体を構成する結合組織線維成分(fascia)」や自由神経終末の治療も重要視しています。
    3. 海外のHDで使用する薬液量は、日本のHRに比べて非常に多い傾向にあります。

実は、Hydrodissection(HD)は、多様な領域で既に使用されています。

眼科領域では、1980年代から白内障手術時に水晶体囊と内容との間を液体で解離させる手技として広く使用され、 現在の多くの白内障手術には必須の手技とされています。

泌尿器科領域では、2005年にGervaisらが初めてこの用語を報告しました(AJR. Am J Roentgenol 185 : 72-80, 2005)。

心臓血管外科領域でも、2005年にMejiaらが胸骨正中切開の再手術前の処置として報告しました(Ann Thorac Surg. 2005 Jan;79(1):363-4.)。

消化器外科領域では、2008年にGuruらがロボット下前立腺手術時の神経血管束温存のための手技として報告しました(Can J Urol. 2008 Apr;15(2):4000-3.)。

乳房再建領域では、2010年にTingらは動脈温存の技術として報告しました(Plast Reconstr Surg. 2010 Aug;126(2):87e-9e)。

また、腫瘍などのアブレーションablation(電気焼灼)治療時、HDは「標的部位と隣接する臓器との間に液体を注入し、距離を取って臓器損傷を防ぐことを目指す手技」と定義されています。

そして、運動器領域では、2008年にアメリカ・メイヨークリニックのSmithらが、手根管症候群に対するエコーガイド注射として、正中神経周りの組織を分離する要素としてHDという名称を用いてアメリカ超音波学会雑誌に報告しました。(J Ultrasound Med. 2008 Oct;27(10):1485-90.

そして、2011年にMulvaneyらが、局所麻酔薬とステロイド注射製剤を用いたエコーガイド下注射として「末梢神経を液性剥離し神経絞扼部を開放する手技」という意味で再定義し、外側大腿皮神経へのHD治療の1症例を報告しました(Curr Sports Med Rep 2011)。

そのメカニズムとしては「神経を圧排している結合組織を緩め神経電導を回復させる。それは,局所麻酔やステロイドなどの薬理学的な効果ではなく物理的効果により,組織の虚血による影響を改善させている可能性がある」と議論されました。

以後、2016年1月には、Cassらが「Nerve hydrodissection:神経HD(これも正確には Peripheral nerve Hydrodissectionですが、運動器領域では末梢神経を「神経」と表現する慣習が一部にあるための誤用)」に関するレビューを発表し、エコーガイド下神経HDは「局所麻酔薬あるいは生理食塩水などの注射により、絞扼されている末梢神経を神経周囲組織(Surrounding tissue, fascia, or adjacent structures)から分離する(separate a potential soft tissue adhesion or obstruction from the nerve)治療手技の1つ」といて位置づけられました(Curr Sports Med Rep. 2016 Jan-Feb;15(1):20-2)。

エコーガイド下神経HDの手技自体としては、エコーガイド下末梢神経ハイドロリリース(peripheral nerve Hydrorelease:末梢神経HR)に似ています。類似点としては、生理食塩水が最も使用されるが、ブドウ糖液・PRP・局所麻酔薬など多様な液体が使用されていることです。関係性としては、神経HRの1つの手法が神経HDになります。

一方、一般的には同じ種類の「エコーガイド下生理食塩水注射」と認識される傾向にある、HDとHRの両手技にも、手技自体や考え方には、以下のような差異があります。

  1. dissectionは「剥離」というエコー画面上の組織の「形態表現」、Releaseは「剥離(形態)+弛緩(機能)」を示します。
  2. 治療対象の考え方が異なります。
    • HDはエコー画像上見えるレベルの末梢神経(例:手根管内の正中神経)を周囲組織(例:絞扼部位)から全周性に剥離し(ドーナツサインdonut sign, あるいはハローサイン halo sign)、神経絞扼を解除することを目的としています。
    • 一方、HRは、そもそもfasciaリリース注射から生まれた言葉です。手技の面でも、末梢神経HRは末梢神経周囲のfasciaの層構造をバラバラにするように注射する(ミルフィーユサインmille-feuille sign, or レイヤーケーキサインlayer-cake sign)こと、さらに末梢神経周囲のみならず「末梢神経自体を構成する結合組織線維成分(fascia/fibrils)」をも治療対象としています。HRでは、fasciaの重積部が末梢神経の全周に認めなければ、必ずしも全周性にHRを実施する必要はありません。一方、全周性にfasciaの重積を認める(疑われる)場合は、神経周囲や神経内のFascia(神経鞘、神経周膜など)も丁寧にリリースした結果として、ドーナツサインが形成されることになります。
  3. 海外のHDで使用する薬液量は、日本のHRに比べて非常に多い傾向にあります。例えば、アキレス腱や膝蓋腱などに対する、High-volume HDでは40~50 ml程度、神経周りでも20~40mlが使用されることがありますが、日本のHRでは1-5 ml程度を使用して発痛源がどの組織(例:神経、靱帯、筋、Fascia)なのかを病態分離しより特異的な治療を目指している点が異なります。注釈)過去より薬液量と効果・副作用に関しては、造影剤検査や注射治療などの分野で人々の興味の的になっています。局所麻酔薬による末梢神経ブロックでは1997年より論考されてきました(Tec reg anesth pain manag 1.2 (1997): 88-92.)。なお、局所麻酔薬やステロイドを含んだHigh-volume injection(HVI)、これらを含まないHigh-volume injectionなど多様な研究が報告されていますが、Volumeと有効性の関係は賛否両論です。例えば、アキレス腱症(Achilles Tendinopathy)に対する研究では、ステロイドなしのHigh-volume injectionは少量と効果に有意差なし(BMJ 2020;370:m3027)、局麻やステロイド入りならば少量より有用(Am j sports med 45.9 (2017): 2034-2043.)などが報告されています。なお、ファシアハイドロリリースについては、上記2の通り、病変部としてのファシアを丁寧にリリースする行為が重要であり、単に周囲を水浸しにするように大量の液体を注入することは害が大きいと考えています。

なお、Dissectionという言葉は「解剖(剖検)」を容易に連想させることから、患者さんら一般人や解剖学者は、手技以外のイメージを印象づけてしまう傾向にあり、臨床的な使用には注意も必要です。

海外でも、一般的にはHDという名称が末梢神経の絞扼部に対する治療手技と認識されています。そして国内でも、末梢神経への生理食塩水注射を、単に「ハイドロリリース」と表現されていることもあり、注意が必要です。

 

図)ハイドロリリース(HR)とハイドロダイセクション(HD)の手技の基本的な差異

4-7 新しい言葉の選択とその注意点

  • 名称の制定(選択)は対象の枠組みを決める行為であり、その主たる目的は「分類」と「現象の表現」にあります。
  • 言葉は「生き物」です。「言葉の独り歩き」は、関係者を混乱させます。
  • そのため、認知言語学・翻訳学・現象の記述手法などを用いて、社会的な誠実性を根底に、一定の手順に基づき制定する「定義」が重要です。決して「ノリ」・「なんとなく」で決める類のものではありません。
4-7-1 分類としての名称、現象の表現としての名称

名称の制定(命名)は対象の枠組みを決める行為であり、その主たる目的は「分類」と「現象の表現」にあります。例えば、診断の目的は、統計のためのラベリング、および医学的病態診断(「解剖」と「病態」の同定)があることと同じです(2-3-1 Fasciaの異常とは?(診断学の定義から)

  1. 分類としての名称選択:統計のためのlabeling(ラベリング)のために病名をつける行為である。これは、ICD-11を含めた医学統計による区分のためである。症候を基礎としてデータを集め、仮の病名でラベリングをつけることで、発生数や患者数を数えることができるようになる。結果、データ収集することで、感染症の流行や、公害の発生の発見等に役立つ。さらに、病態解明が進めば、以下の医学的診断に至り、疾患として独立する。
  2. 現象の表現としての名称選択:医学的診断、つまり病態生理の解明を主旨としたプロセスである。具体的には、「どこに?(解剖 anatomy)」、「何が起きている?(病態 pathophysiology)」を説明できることである。

新しい言葉の選定は、論文執筆にも似ています。対象となる言葉の歴史的経緯を調査し現在の課題を提示する(背景)、再現性のある検証方法で記述し(方法)、選定用語を決める(結果)、最後にその言葉が将来に与える影響を議論する(考察)。その第一義的目的には「目の前の現象」の必要十分条件の言語化にあります。なによりも、決して「言葉遊び」にならないように慎重に議論する必要があります。

4-7-2 言葉の「独り歩き」に注意

一度、名付けられると、その言葉から連想されるイメージが先行し、本来の名称の定義とは異なってくる現象は非常によく生じています。つまり、「言葉の独り歩き」の状態です。現在の「筋膜リリース」という用語は、その代表例でしょう。

そして、言葉は「生き物」です。時代や環境、扱う人の感性・認知に合わせて、その意味は移ろいます。また、言葉の定義やそれが指し示す範囲は、人種・言語・方言含めて、あくまで相対的なものです。そのため、認知言語学、比較言語学、翻訳学などの言語を扱う手法、目の前で発生している現象を正確に記述する手法、さらには既に使用されている用語との関係性を明示する手法の全てが必要になります。

より具体的には、「実態→認識→ことば」という階層構造のうち、「認識」と「ことば」は観察者によって常に異なるという大前提を忘れてはなりません。

4-7-3 実態(構造)以外の名称に注意

最も論旨に厳格さが求められる文章の代表例である特許論文の請求項(権利範囲を規定する条項)では、「実態(構造)以外に名称を付けてはならない」という記述原則があります。つまり、「間隙」「空間」などは、「構造Aが構造Bの右側に接さずに並ぶ」というように構造の関係性を記述します。これは、言語学および論理学に基づいた原則であるため、法律文はもちろん医学など専門用語にとって一般的なルールなはずですが、医学用語では少し曖昧なことが目立ちます。

特に以下に関しては、そのイメージが個人よって異なることが多いため注意が必要です。

【注意して使用すべき用語の種類】

  • 形容詞、副詞など程度を表す表現。例:「高い」→「どの程度高いかが不明」、「最少侵襲手術」→最少の程度が不明。「最少侵襲を目指した手術」と記載が必要
  • 外来語や和製英語:つまり、カタカナ語です。例:システム(system)、エントラップメント(entrapment)
  • 名詞:「モノの形状(構造)」以外を表す単語。例:動名詞(例:活動)、色彩(例:赤色)、関係性(例:中央、端、終末)

そして何より、用語制定には、通事性(対象の歴史的変化の追求)と共時性(同一の時における差異の注目)を十分に意識しながらも、「社会的な誠実性」を根底にした態度が重要です

過去には、蘭学を当時の日本語に翻訳する場合に、目の前の現象に基づいた日本語の作成をした偉人らがいます。その異言語間の適切かつ信念のある翻訳により、我々は日本語で医学を学べるようになったのです。

4-7-4 異言語間の意味の不一致に注意

従来、医学用語は上記プロセスを経て制定されてきたものが多かったのです。しかし、結果として分野による定義の差が生まれています。これは、各分野の発展のために、実用的な側面から自然と定義が分化していったと理解されています。そのため、ある特定分野にのみ所属している人にとっては「常識」とされる定義とイメージが、多分野の方にとっては異なることは稀ではありません。

例えば、医学分野では「靱帯」と「ligament」は異なります。解剖学における「ligament」は固有構造を定位置に保持するための線維性の組織です。
一方、肝鎌状間膜(falciform ligament of liver)や子宮広間膜(broad ligament of the uterus)のように「間膜」とも和訳されており、いわゆる「骨同士を結合する『靱帯』」とは構造や組成は異なります。
これは、整形外科用語と腹部外科・泌尿器科・婦人科における解剖学用語の差異とも言えます。

解剖学用語、そもそも医学用語自体が、「言語」の設定による認識世界の切り分けという側面を、歴史的に積み重ねてきた事実を反映しています。

4-7-5 名称決定のプロセス

言葉が人々の間に定着するためには、「響きがかっこいい」「覚えやすい」などの要素も重要であり、これは広告やPR(public relations)などの分野の手法も有用です。
しかしながら、決して「ノリ」・「なんとなく」で決める類のものではないのです。これらに十分注意しませんと、「言葉の独り歩き」により、むしろ関係者を混乱させてしまいます。
だからこそ、一定の手順に基づき制定する「定義」が大事になるのです。

旧MPS研究会時代から、当会は上記の手続きに可能な限り基づいて用語制定を進めてきました。結果、「整形内科 Non-surgical orthopedics」、「ファシアFascia」、「エコーガイド下Fasciaリリース Ultrasound-guided fascia release」、「エコーガイド下ハイドロリリース Ultrasound-guided Hydrorelease」など本分野に係る言葉を制定してきました。整形内科Fasciaに関しては上述しましたが、以下にハイドロHydro-、とリリースReleaseに関する制定までの経緯の概略を提示します。

4-8 ハイドロリリース命名に至った言語選択プロセス

4-8-1 「ハイドロHydro-」とは何か?
  • 水に関連した語は「water、aqua、fluid、liquid、hydro-」などがあります。
  • このうち「液体」による「リリース」を示せるのは、liquid ReleaseあるいはHydroreleaseです。Hydro-には「新しい技術を表す語」としての意味があります故、Hydroreleaseハイドロリリースと選定しました。

「液体を」注射する、という表現の制定には、水に関わる多様な語を検討してきました(2017年4月)。水に関連した語としては、「H+、H2O、水water/aqua、流体fluid、液体liquid」などがあります。

  • water:英語。主に、以下の3つの意味で使用されます。
    1)化合物名:気体、液体、固体の形態をとります。H2Oのことです。
    2)地球生態学で論じる時「transparent and nearly colorless chemical substance」。地球は水で覆われている、という意味です。
    3)純粋な水素分子H+を示し、生理食塩水という溶解液は含まないと理解されています。
    →従って、生理食塩水ほか多様な液体を用いた注射を表す語としては不適と判断しました。
  • aqua:ラテン語。waterとほぼ同義です。
    →waterと同様の理由で不適と判断しました。
  • fluid:流れというベクトルを含み、「流体」を意味します。固まる前のコンクリートのように砂礫が混じった水のように、固体と液体の混合物でも、気体でもfluidです。
    →「液体」の定義に合わないため不適と判断しました。
  • liquid:いわゆる気体、液体、固体の「液体」を指します。
    →Liquid Releaseの場合、Liquidは形容詞になります。形容詞のliquidは、「液体の、液状の、液化した、不安定な」、つまり、液体自体よりも「液状の物体の」や「何かが液化した物体の」というニュアンスとなります。
  • Hydro-:接頭語として、広く使用されています。以下の主な4つの活用があります。
    1)ギリシャ語Gr.hudor/hydor 「水」です。ギリシャ語から来ている Hydro は産業革命以降に新しい技術を表す語の接頭語に使われる傾向にあり、主に専門用語で使用されてきました。
    2)流体力学のうち、aerodynamics (the study of air and other gases in motion) あるいはHydrodynamics (the study of liquids in motion)を意味します。
    3)Hydrodynamicsの意味のHydro-は使用されていますが、分子学でHydroは「H+」を、熱力学では「H2O」を意味します。
    4)「H+、H2O、水water/aqua、流体fluid、液体liquid」をいずれも意味しえます。それを象徴するのが、Hydrologyであり、環境学のうちの惑星の「水」を研究する学問という語です。(参照:外部リンク

以上より、生理食塩水など溶液を含む「液体」を示せるのは、liquid ReleaseあるいはHydroreleaseでした。そのうち、「新しい技術を表す語」としての意味を負荷できるHydro-を選択しました。

4-8-2 「リリース Release」とは何か? 「リリース」と「剥離」の差異
  • リリースReleaseとは、間接法としての「緩める」+直接法としての「剥離」の両者の意味を持ちます。
  • 一方、ダイセクション Dissectionは直接法としての「剥離/分離」、リラクゼーションRelaxation/リフレックスReflexは間接法としての「緩める」のみを意味します。

「リリース」という用語に関連し、Fascia Release(ファシアリリース)という用語が徒手療法家を中心に世界中で広く使用されています。しかし、”リリースRelease”という用語の厳密な定義は見つかりません。

Releaseの一般的な医学用語としての定義は、以下です。

  1. put it off (解き放つ)
  2. surgical incision or cutting of soft tissue to bring about relaxation(軟部組織をリラクゼーションさせるための外科的な切開あるいは切り込み)

一方、”リリース”という日本語は”剥離”のニュアンスが強いですが、英語のReleaseは、組織の柔軟性改善(リラクゼーション)の意味も含みます。

従って、我々はリリースという言葉を、以下の両者を含む用語として使用しています。

fasciaリリースにおける「リリース」の定義は、以下2つの両者を含みます。

  1. リラクゼーションrelaxation(あるいは“緩めるloosening”):治療手技としての間接法の意
  2. 分離separation(あるいは“剥離dissection”):治療手技としての直接法の意

また、ハイドロリリースに関して、エコー画像上で隣接する組織間を「剥離」するという言葉が誤用されていますので注意が必要です。「剥離」とは「剥ぎ、離すこと(広辞苑)」、「剥がす」とは「付着している物をはいで離す(日本国語大辞典)」とされます。つまり、離れた状態が「維持」されることは要件に入っていません。また、この剥離は前述のように、Dissection(セクションを分ける意)、Separation(分離)としての、単なる形態変化としてのニュアンスに加えて「付着している物を・・・」という、fasciaの癒着/凝集に対応するニュアンスを対応させております。

ハイドロリリースは「剥離separation+緩めるrelaxation」注射手技であり、このうち「剥離separation」とは、注射中に組織Aと組織Bの間(例:筋と筋の間、末梢神経と筋の間、靭帯と脂肪体の間)に、液体が注入され低エコー領域が広がる様子を「画像上の剥離・分離(Separation)」と表現しています(4-5 参照)。

fasciaや組織間は、1層の単純な構造ではなく、立体網目状の三次元的線維構造であり、それをエコー画像という2次元で描出したときに、複数の層構造として認識されるものです。

そのため、注射液が入りやすい、1カ所に液体を注射しつづける(これは、Fascial plain blockなどの末梢神経ブロックでいうコンパートメントブロックのの考え方:参照 4-9-1)のではなく、対象構造周囲fasciaの複数層を、バラバラにするように(英語では、”akin to peeling off thin stacking papers and separating fasciae themselves” 参照 JNOS英語HP)実施することが重要な手技です。つまり、針先による物理的な剥離手技PeelingによるSepalationも重要になります。結果、補液効果と相まって、組織の「緩めるrelaxation」に寄与するものと考えています(2019年8月)。

パラパラと注射終了後は、注入した液体は組織に浸透し、速やかに吸収されます(液体の量にもよりますが、生理食塩水2ml程度でしたら数分で吸収されます)。そのため、薬液の広がりを研究する場合は、色素注入による肉眼解剖学的研究が有効ですが、注射中のエコー画像上の変化(組織間の広がる様子自体)を、注射後に実施される肉眼解剖学的研究で証明することは困難です。

4-8-3 「エコー」と「超音波」の差異と使い分け

口語としては「エコー」も「超音波」も同義で現在の日本では使われています。なお、「エコー」という和製英語は、古くよりレーダーやソナー等の工学系で使われていたが、以前と医学系でも使用されるようになったものと推察されている(松崎正史. 装置・プローブ操作・B-modeについて. 高橋周(編)「運動器エコーの指南書」p4)。以下に、各用語の意味を概説します。

  • 超音波:周波数が一万六〇〇〇ヘルツ以上の、人間の耳には聞こえない音波(日本国語大辞典)。having frequency beyond the audible range,” 1923, from ultra- “beyond” + sound(online etimology dictionary).
    →つまり、単に「超音波」とは「ある特徴」を有する「音波」である。この超音波という原理を使って、魚群探知、金属探傷、医学診断、洗浄、超音波加工などに広く応用される。なお超音波の発生には水晶振動子、磁歪振動子などが用いられる。言葉として、単に「超音波」と言うと、超音波加工、超音波診断、超音波洗浄、超音波探傷器、超音波治療器のうち、状況に応じた意味で理解される。例えば、スポーツ分野で「超音波」といえば「超音波治療器」、手術室で執刀医が「超音波」といえば「超音波メス」、病院の検査室で「超音波」といえば「超音波診断装置」、眼鏡屋で「超音波」といえば「超音波洗浄器」として解釈される。
  • エコー:echographyの略語としての和製英語。こだま/やまびこ(日本国語大辞典)であり、主には音の反響を意味するが、「反響によって波動が伝わる振る舞い」をエコーという概念で整理され、エコーは音、超音波、光、レーダー等でも生じる。臨床的には、エコー検査の略としても使われると、日本語辞典のバイブルである日本国語大辞典にも記載されている。
  • 超音波エコー:1978年の日本の超音波技術便覧に掲載され、1974年に日本超音波医学会が制定した医用超音波用語にも記載されている。日本超音波医学会が編集した超音波医学』第2版(1972)では、超音波診断装置の解説に「超音波エコー法診断装置」と記載される。(松崎正史. 装置・プローブ操作・B-modeについて. 高橋周(編)「運動器エコーの指南書」p1-15を参照に記載)「超音波エコー」という表現は同じことを重ねているわけではない。医療の世界では「超音波エコー」が原点であり、時間とともに“超音波”が省略され、エコーが一般用語になったのかもしれない。
  • エコー検査(超音波検査):英語でも、Echography, Sonography, medical ultrasonographyと、ほぼ同列に使われる。
  • エコー画像(超音波画像):英語では、Echograph, more commonly called an ultrasound displayと、ほぼ同列に使われる。
  • 超音波検査技師:英語では、Sonographer(ソノグラファー)

4-9 手技の名称と目的の関係性~類似名称手技の差異、何を対象とした手技なのか?~

ハイドロリリース、ハイドロダイセクションなど、手技の名称は、その手技自体を深く、正確に理解するために必要不可欠です。以下では、「ブロック」「注射」「リリース」の差異、ハイドロリリースとハイドロダイセクションと神経ブロックの差異、そして名称から見る古くて新しい手技としての「4-9-3 末梢神経内注射」について説明致します。

 

4-9-1 リリース、ブロックの差異

エコーガイド下FasciaハイドロリリースTMは、従来のトリガーポイント注射のように単に圧痛のある部位に注射を行う手技ではありません。また、神経周囲に薬液を届ける神経ブロックとも異なります。

トリガーポイント注射とは、「トリガーポイントに注射する行為」です。これには、局所麻酔薬を用いた「ブロック」、生理食塩水などを用いた「注射」があります。「ブロック」という名称は、局所麻酔薬を組織に浸潤させることで神経伝達を「ブロック」する意味で使用されるものなのです。つまり、トリガーポイントブロックとは、トリガーポイントに局所麻酔薬を注射して神経伝達をブロックする手技となります。トリガーポイント注射には、生理食塩水やブドウ糖液などを用いた方法も世界中で実施されています。さらに鍼(Dry needle)による実施も世界では広く実施され、その効果メカニズムは物理的刺激であり、局所麻酔薬自体は影響が非常に小さいとする考え方が一般的です。

神経ブロックも同様に考えることができます。局所麻酔薬を用いて、神経の伝導を止める(ブロック)する手技という意味になります。そのため、局所麻酔薬の薬効に依存しない鎮痛メカニズムであるFasciaリリース注射(エコーガイド下fasciaハイドロリリースTM)は「ブロック」とは原理が異なります。

従来、神経ブロックは、直接末梢神経に針先を進めて局所麻酔薬を注入する方法が主流だった。確認方法としても、末梢神経刺激装置により末梢神経を電気刺激しながら針を進めていき、針が神経の近傍に到達するとその神経が支配している筋肉の収縮が起こることを利用していた。近年は、エコーガイド下ブロックが普及したため、エコー画像で末梢神経を確認しながら針先を進めていき、末梢神経周囲に薬液を注入していく方法が主流になりつつある。しかし、注射針の刺入操作などの問題もあり、エコーガイド下ブロックだから末梢神経損傷が少ないかというと、これにも賛否両論がある(参照:麻酔科学会2018)。そもそも、末梢神経は血管と並走している場合が多く、エコーガイド下注射において針先のコントロールがままならない初学者の場合、神経損傷や血管損傷などのリスクが高いので極めて注意です。従って、初学者ほど末梢神経自体を直接狙わないほうが安全です。そのため麻酔科では、末梢神経を直接狙わない「コンパートメントブロック」が主流になりました。

コンパートメントブロックとは「直接末梢神経を目標とせず、末梢神経を含んだ間隙/区画の中に局所麻酔薬を注入して目的の神経を遮断する手技」であり、実はスキマブロックにも似ています。この手技は、fasciaの治療という側面も有するが、多重層構造のfasciaを「バラバラにするように」実施するUS-FHRとは異なります。コンパートメントブロックは1つの層間に薬液を流し込み、対象とした区画(コンパートメント)に局所麻酔薬を浸透させる手技です。局所麻酔薬の薬効に依存しない鎮痛メカニズムであるUS-FHRは「ブロック」とは原理も効果も異なります。

関節ブロックという表現もしばしば使われます。これは、正確には関節内注射により関節内組織に局所麻酔薬を浸潤させて、関節内組織の知覚を止める(ブロック)するという意味になります。つまり、ヒアルロン酸を用いた関節内注射は、厳密にはブロックではありません。

エコーガイド下FasciaハイドロリリースTMでは、病歴、関連痛パターン、Fasciaの連続性、可動域制限・疼痛誘発動作、エコーによる組織の滑走性と伸張性の評価、圧痛点の評価により異常なFasciaを解剖学的に詳細に検索した治療点を丁寧に触診し、最も圧痛が強い部位にエコープローブを当てます。圧痛点の近傍で最も白く厚く重積したFasciaをエコー画像上に確認し穿刺します。治療点であるFasciaに針先が到達したら、針先を微妙にずらしながら、薄紙を剝がす(バラバラになる)ように液体(薬液)を注入します。つまり、エコーガイド下FasciaハイドロリリースTMはエコー画像上の形態変化を重要視している点が、局所麻酔薬を用いた神経ブロック手技と異なります。

4-9-2 エコーガイド下fasciaハイドロリリースTM、ハイドロダイセクション(HD)、神経ブロック の差異

前項で、リリースとブロックの差異に関して提示しました。本稿では、上記「4-5」でも提示したとおり、ハイドロリリースとハイドロダイセクションの差異(4-6 ハイドロダイセクション Hydrodissection(HD)とは?Hydrorelease(HR)の差異)に加えて、ブロックとの比較も加えた比較を提示します。この図内で提示した、末梢神経内注射については、次項「4-9-3」で説明します。

4-9-3 fibrilsに対するハイドロリリース~末梢神経内注射の適応は?~

末梢神経内への注射は、上述してきた「A fascia(肉眼解剖上の用語)」への注射には該当しません。一方で、神経上膜と束間神経上膜は組織として連続性があります。これは、筋外膜に対する筋周膜の関係と同様です。筋周膜、筋内膜は、fascia systemの1つではありますが、A fasciaには含まれません。このレベルでは、fibrils(線維)という別の構造的名称が必要だろうと提示してきました(2.Fasciaとは?)。

この手技は、末梢神経内への注射であり、神経上膜を穿刺し、束間神経上膜を含むfascia(正確には、fibrils)の治療を目的としています。そして、神経上膜内に注射した薬液は放射状に広がり、末梢神経内全体に一瞬(数ミリ秒)にして薬液が「フワッ」と広がる様子が観察できます。その様子が「花が開く様子に似ている」ことから「フラワーサイン Flower sign」と命名しました(2020年7月 木村裕明、小林只)。

末梢神経内への注射と末梢神経周囲への注射では、前者の方が短期的有効性は高く、合併症などは変わらなかったとする報告もあります(Christian W.A. et al. Radiology, 2001)しかしながら、本手技には神経損傷のリスクがあり、麻酔科領域では安易な実施は忌避されています。そのため、本手技は他の治療を実施しても改善しない難治例に限定して、慎重に適応を判断した上で実施を考慮する必要があります。

過去には、エコーを利用しないブラインドの神経ブロックでは、ブロック針先端が神経に接触することにより生じる「放散痛」を1つの指標にブロック注射を実施してきたが、必ずしも「放散痛=神経損傷(臨床的な後遺症としての神経損傷)」が生じるわけではありませんでした。ブラインドよりも精密な注射手技である、エコーガイド下による末梢神経内への局所麻酔薬による注射を実施しても、必ずしも神経損傷が起きないとも報告されました(Paul E. Bigeleisen. ANESTHESIOLOGY. 2006)。とはいっても、実施のリスクを下げるに超したことはありません。当会としては、本手技(fibrilsに対するハイドロリリース)を目的に末梢神経内注射を実施する場合、局所麻酔薬の使用は避けることが望ましいと考えています。なぜならば、「ブロック」が目的の手技ではないからです(4-9-2参照)。そして、末梢神経「周囲」への局所麻酔薬の持続投与による神経毒性は、2017年のSystematic reviewでは「明確な因果関係はない」と報告されていますが(Sondekoppam RV et al. Anesthesia & Analgesia. 2017)、臨床上の懸念はやはり残されています。

加えて、30Gや32G等のできるだけ細い注射針を用い、刺入時のベベルの向きにも配慮することが重要です。加えて、注射針の種類にも配慮する必要があります。例えば、神経根などへの実施に関しては、注射針の種類として「Quincke type」よりも「Pencil point type」の方が安全であることを示唆しました(高橋ら.pain clinic. 2010)。これら配慮をした場合、神経上膜内に刺針しても放電痛は生じさせずに実施できることも稀ではありません。末梢神経自体に浮腫を認める場合は、慎重にごく少量のステロイド剤を使用することもありますが、極めて慎重に適応を選ぶ必要があります。

4-9-4 初学者が始めるfasciaハイドロリリースの対象は、末梢神経・動脈ではない

2019年頃より、エコーガイド下ハイドロリリースの治療対象として、末梢神経に注目し「Nerve first」と初学者に対して普及を試みている治療者等もでてきた。筋の構造や動きを評価していくよりも、エコーで末梢神経を画像上同定し、圧痛から治療点を評価し治療することは、運動器診療に不得手な治療者にとっては理解しやすいのかもしれない。

しかしながら、上述のように麻酔科がコンパートメントブロックへ大きく舵を取った理由(4-9-1 リリース、ブロックの差異)を振返って頂きたい。さらにfasciaという観点では、末梢神経を構成するfascia(fibrils)だけでなく、末梢神経に接するfasciaはもちろんのこと、エコーで見えている末梢神経からは「離れた部分のfascia自体」が発痛源であることも多いのです。むしろ、末梢神経や血管(特に動脈)に針先を近づけないように、fasciaの層構造を意識した注射から始めることを初学者には強く推奨します。

4-10 治療例(エコーガイド下fasciaハイドロリリース)

Fasciaリリース注射(fasciaに対するエコーガイド下ハイドロリリース[エコーガイド下fasciaハイドロリリースTM])の代表的な手技を以下に紹介します。末尾に提示した参考書籍等もご参照ください。

4-10-1 【動画】烏口上腕靱帯に対するエコーガイド下ハイドロリリース
4-10-2 【動画】椎間関節/多裂筋に対するエコーガイド下ハイドロリリース
4-10-3 【動画】肩峰下滑液包に対するエコーガイド下ハイドロリリース
4-10-4 【動画】僧帽筋/棘上筋に対するエコーガイド下ハイドロリリース

4-11 エコーガイド下fasciaハイドロリリースTM に使用する液体や注射道具は?

現代では生理食塩水・細胞外液・ブドウ糖・ヒアルロン酸などが国内外で使用され、その研究と臨床が加速しています。

その優劣は、今後の検討課題であります。現状では、生理食塩水が最も使用されていますが、局所注射が可能な非局所麻酔薬の開発と、薬事法上の適応が期待されています。

Fasciaリリース注射に適した注射針は、標準は27ゲージ、深部への25ゲージカテラン針など細いものが望ましいです。

 


5.局所治療の有効性評価、悪化因子(生活動作・習慣)への介入

Fasciaに対する過負荷は通常、数日で自己回復します(遅発性筋痛症と同様の病態が想定される)。一方、自己回復できなかった場合に、異常なFasciaとして症状を引き起こす一因(発痛源)となります。

異常なFasciaの部位は圧痛を強く感じる傾向にありますが、自覚症状が十分に改善しても局所の圧痛が残る場合もあります。

1回の治療効果は様々です。末梢の病変の程度、中枢過敏の程度など様々な影響を受けます。

1回の局所治療で、姿勢やアライメントが改善し、以後再発しない患者もいます。しかし、多くの場合は複数回の局所治療と、悪化因子のケアによる継続的治療が必要になります。

5-1 治療効果判定

以下は、1つの目安です。

  • 治療後、数時間も変わらない:発痛源を適切にアプローチできていない。
  • 1日有効だった:発痛源のより詳細な評価を進める。
  • 3日有効だった:発痛源へのアプローチとして大きくは外れていない。
  • 1週間有効だった:発痛源を適切にアプローチできていた可能性が高いが、生活動作や体操などの身体的悪化因子への評価介入が重要

「有効」を適切に評価することは、しばしば困難です。再診時に「前回の治療は効果がなかった」と患者が話した場合、それを鵜呑みにする前に、症状の強さの変化、症状の種類の変化、症状の部位の変化、治療部位に係る関節可動域や組織伸張性、などを適切に把握することが重要です。

症状の程度は本当に変化がないのでしょうか?「ゼロにならない=効果がない」と解釈する患者もいます。

「もと」とは前回と本当に同じ場所でしょうか? 別の発痛源の症状が前回の自覚症状と近い部位に症状を出すことも多いです。可動域は改善しているが、「最終可動域での痛みは変わらない」という現象を、「変わらない」と表現していることもあります。患者はえてして可動域の変化を自覚できていません。

「有効」に似た表現である「改善」にも注意が必要です、 目の前で治療反応がでる(例:痛みが減った)ことであれば、中枢の疼痛閾値を上げるような介入(末梢への刺激だけでなく、多様な身体の反射を促す手技、そして対話技術など)によっても可能です。重要なのは、上記に提示した「再発までの期間」を十分に把握することです。

5-2 悪化因子の再評価(内科疾患など)

なお、適切な発痛源にアプローチできているにも関わらず、治療効果が数日以内の場合は、「血液疾患(例:貧血)、血液検査で病気を否定しきれない膠原病(例:関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、脊椎関節炎、シェーグレン病)、電解質異常(例:Na, K, Ca, P, Mg, Feなど)、内分泌疾患(甲状腺機能、低コルチゾール血症含む副腎機能不全、男性更年期障害など)、感染症(結核、慢性肝炎、性感染症など)、錐体路障害や錐体外路症状を引き起こす神経疾患(例:パーキンソン病、脳卒中後遺症、脊髄損傷)、心理要因(例:うつ状態、うつ病)、薬物の副作用(例:オピオイド、向精神病薬、抗うつ薬)、睡眠時無呼吸症候群、慢性扁桃腺炎・上咽頭炎、低栄養状態など」の悪化因子を評価する必要があります。

特に、質的栄養障害(iron deficiency without anemiaとも国際的に分類されている「鉄欠乏症」および「タンパク質欠乏症」)による疼痛悪化は極めて高頻度であり、要注意が必要です。

5-3 整形内科的生活サポート(生活習慣、動作指導を含む)

ファシア・ハイドロリリースという局所注射手技は,その安全性・有効性からも国内でも急速に広がりつつあります。しかし「なぜ,その場所を痛めたのか?」という理由に介入せずには,中長期的なケアは成立しません。

痛みを有する患者は、「なぜ医療機関を受診するのか?」を把握することが重要です。そのためには、「病気(disease)」と「病い(illness)」を分離して評価・確認することが大切です。

内科・総合診療・精神科領域では、Patient centered method (PCM)という手法を通じて、患者を理解しようとしてきました。外来診療ベースにおける、その手法は、書籍「プライマリ・ケア.2012」で詳細に提示されています(以下図)。なお、この手法は現在の疼痛外来・ペインクリニック外来でも頻用されています。

 

肩こり・腰痛などの運動器疾患の患者に対する生活指導の方法は,高血圧・糖尿病などの内科疾患の患者に対する生活指導の方法と共有点があります。

「食事に気をつけて!」の言葉のみで行動が変わらない糖尿病患者に対しては,「食事をすべて写真で撮って見せて下さい」のように事実を把握する手法がしばしば実施され,成功しています。

これは,運動器疼痛でも同様です。「デスクワークの姿勢に注意!」という漠然とした言葉で,人の行動は変わる(行動変容する)でしょうか? 適切な生活指導は,正確な現状把握に始まります。

正確な現状把握、つまり「事実確認」のことです。事実の確認方法には,「直接確認(現場を直接見る)」「間接確認(写真や動画で現場を見る)」「第三者から聞く」「本人から聞く」の4種類があります(以下図)。直接見ても、漠然とみていれば気付けることにも気付けません。また、聞く方法にも工夫が必要になります(例:「事実質問 fact question」)

小林只(監). 整形内科的生活指導. 日本医事新報社. 2019 を参照

 

このような観点と手法を用いて、運動器疼痛を扱う際の具体的な評価・治療プロセスは以下になります(以下図

このプロセスは、発痛源・悪化因子に対する機能解剖学的評価・治療、および悪化因子の生活動作評価・介入を、その関係性と共に示しています。

機能解剖学評価・治療(図2内の1,2,5,6のステップ)が実行できれば、より生活動作の評価・介入精度も、そして患者の納得も深まります。

一方、局所の発痛源に対する評価・治療手技が実施する環境にない(あるいは、実施できない)臨床医の場合、悪化因子の生活動作評価・介入のプロセス(図2内の3,4,5,7,8のステップ)だけでも意識して、是非実践してみてください。

小林只(監). 整形内科的生活指導. 日本医事新報社. 2019 を参照


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6.多医療職の方々へ

当会の前身であるMPS研究会(2015年 第15回MPS研究会 学術集会)より、以下のメッセージとともに、誠実な医療者が公平に活動し学ぶことができる組織を目指し活動しています。

「解剖、動き、エコー、コミュニケーション方法」を「共有言語」とした多職種連携の推進

この点は、当会の入会基準にも反映させており、医師・歯科医師であっても、活動の誠実さを審査し(例:医療機関のホームページにおける景品表示法違反・医療広告ガイドライン違反、医師法違反、薬機法違反のチェック)を表示し、入会の可否を判断しています。そのため、当会では、入会金ではなく入会審査費用として扱っています。毎年、必要に応じて継続審査をしており、年会費に相当する費用も継続審査費用としております。(入会に関する案内はこちら

6-1 fasciaは多分野をつなげるキーワード

現在、Fasciaに係る学問領域は、西洋医学・東洋医学・代替医療などの多様な医学体系の、あるいは手術・関節鏡・注射・鍼・徒手・物理療法・運動療法などの多様な治療手技の包括的理解を促すための新たな分野として注目されています。

整形内科では、局所治療、運動療法、生活動作指導、薬物療法、認知行動療法などの多様な治療手技を多職種で相補的に扱いますが、その中でも「Fascia」を従来の西洋医学と論理的に統合し、医学のさらなる深化を目指しています。

6-2 多職種の共通言語は何か?

各職種で異なるのは、治療技術の種類のみです(参照:4-2 手術、注射、鍼、徒手の使い分けは?)。そして、その治療技術のメリットとデメリットを横断的かつ俯瞰的に捉え、そして適宜組み合わせることが重要です。

問診(コミュニケーション)技術、身体診察(身体評価)技術、エコー活用、治療評価技術などは、特殊な機械を用いなければ「誰でも」実施できます。しかし、適切に使いこなすためには、一定のトレーニングは避けては通れません。

6-3 各職種の得意な技術を共有化し、議論する

各職種は、「職種」と称される理由があります。それは、その名称を名乗るだけの優れた技術・知識・態度を備えているということです。

以下に、その一例を挙げます(提示されていない要素や職種も、もちろん重要です)。

  • 鍼灸師が古来より活用してきた経穴・経絡の治療技術
  • 徒手療法家が活用してきたカイロプラクティック、オステオパシーなどの多様な技術
  • 療法士が得意とする運動療法・運動機能評価
  • 多様な治療家が活用してきた電気や振動などを活用した物理療法
  • 心理士が得意とする心理療法
  • 薬剤師が気付く薬学の幅広い知識と活用
  • 義肢装具士が作り提案する運動や生活を支える装具
  • 栄養士が支える身体の質的栄養組成と食生活
  • 看護師が支える上記医療者の包括したマネジメントと看護技術
  • 社会福祉士が支える患者の生活を地域でケアする技術
  • 検査技師によるエコーやMRI撮影の質を担保する技術
  • 歯科医師も気付き始めた顔面・口腔の症状は中枢性感作と極めて深い関係にある事実、そしてその機能的評価と介入技術
  • 医師が得意とする病気に対する深い知識、問診技術、診察技術、そして注射・手術療法などの侵襲的治療技術。
    そして、総合診療医、一般内科医、一般外科医、そして各臓器やシステム毎に特化した専門家達の技術

飛行機がなぜ飛べるのかが判明したが最近のことであるように、熱力学の第2法則が未だに解明されていないように、フェルマーの最終定理のように、現象は理論よりも先に我々の目の前に現れています。既存の自分自身の枠組み(フレームワーク)に当てはめていく作業が、サイエンスではありません。大事なことは、目の前に起きている現象を緻密に分析し記述していくことです。是非、古来より、そして地域で奮闘している医療者方々の技術・理念・態度を、社会に還元し、後成に残していくための活動を応援しています。

 

7.学習資料の案内(書籍・アプリなど)ー日本語書籍ー

評価治療の一連の流れに合わせて紹介します。以下資料は、初学者、中級者、上級者毎に対象者を便宜的に分けております。

  • 初学者向け:これから始める方、始めたばかりの方。目安:経験年数 0~3年以内
  • 中級者向け:やり始めたけど、技術を向上させたい方。目安:経験年数 4~7年以内
  • 上級者向け:一通りの診療はできるが、難治性の患者へ、あと一歩の治療を求める方。
    新規技術の開発・工夫、既存技術と新規技術を融合させたい方。目安:経験年数8年以上

注)会員限定資料を含みます。(会員は、会員専用フォーラムで資料・動画が閲覧できます)

7-1 総論的内容(整形内科)

7-2 総論的内容(fascia[ファシア]について)

木村裕明, 小林只, 並木宏文(編). 解剖・動作・エコーで導く Fasciaリリースの基本と臨床 第2版~ハイドロリリースのすべて~. 文光堂 2021.→初学者から上級者:2021年度における最新版を詳述。

7-3 診察全体の流れ

7-4 問診・症候学、患者とのコミュニケーション技術

7-5 発痛源評価

7-6 局所治療の技術(ファシアリリース[ハイドロリリース含む]、ブロック注射、鍼、徒手など)ー部位別を含むー

【基本技術】

【頚部痛】

【歯科領域】

【めまい】

【肩部痛】

【肘痛】

【手関節・手指痛】

【腰殿部痛・股関節部痛】

【膝痛】準備中。JNOSアドバンスセミナー 膝 において参加者に資料は配付済。【会員限定フォーラムに期間限定資料提示あり】

【足関節・足部痛】準備中。【会員限定フォーラムに期間限定資料提示あり】

7-7 運動器エコー・解剖学

7-8 解剖アプリ

いずれのアプリも利用規約を良く確認し、適切な範囲でご利用ください(JNOS 第5回コンプラウェビナで解説

7-9 生活指導・セルフケア

7-10 上記リソースの活用頻度(会員内調査データより)

2020年1月に当会会員の遠藤健史医師により実施された、当会会員対象の研究(アンケート調査)の中途報告が、2020年2月9日 JNOS 第3回 関西運動器エコー祭り in Osaka で発表された(詳細はこちら:発表資料まとめも掲載)

結果として、以下の学習リソースが高頻度で活用されていたことが判明した。

7-11 ウェビナー(JNOS Web Seminar)

当会では、会員を対象としたウェビナーを2020年3月より開始しております。詳細はこちら

7-12 法令遵守等コンプライアンス関係

会員管理局担当:多職種に公平な入会審査制度(準備中)

学術局知的財産部:オンラインセミナーおよび研究発表のための資料作成術(2020年6月~8月開催:開催済。社会貢献のためYoutubeで講義動画公開You tube(JNOS公式アカウント)

8. 文献紹介ーファシア(fascia)、ハイドロリリース、鍼・徒手、JNOSの活動関係ほか

本章では、上記の解説で紹介した文献含め、本分野の主要な文献に関する情報を提供してきます。

8-1. ファシア(fascia)

(coming soon)

8-2. 生理食塩水注射やハイドロリリース

(coming soon)

8-3. 鍼、徒手、物理療法など

(coming soon)

8-4. 手術

(coming soon)

8-5. その他

(coming soon)

 

 

文責:JNOS学術局