Just another WordPress site 一般社団法人 日本整形内科学研究会

一般社団法人 日本整形内科学研究会

医療関係者へ

医療関係者へ

  • 一般社団法人 日本整形内科学研究会は、Fascia(後述)に関係する運動器疼痛および難治性疼痛における診療・学術・教育・研究の発展を一つの主目的として活動をしております。
  • 特に近年では、超音波画像診断装置を用いてFasciaの異常を確認して、それを解消する診療技術についての研究を進めています。

Contents


整形内科学とは?

整形内科学の定義

当会では、整形内科学を「一般に手術によらない方法での運動器疼痛および難治性疼痛の診療とその研究を行う医学の一分野」と定義しました。

Q&A

Q1 整形内科ってリウマチ内科のこと?

前述の定義の通り、非外科医 Non-surgeonが運動器疼痛や難治性疼痛を扱う分野です。

関節リウマチは膠原病内科、骨粗鬆症は内分泌内科、難治性疼痛は麻酔科、心身機能改善はリハビリテーション科、皮膚・皮下腫瘤は皮膚科・形成外科が学問的中心ですが、外来疼痛患者に係る周辺領域を横断的かつ相補的に多職種でマネジメントしていくことを目指しています。

Q2 運動器内科ではなくて、なぜ整形内科なの?

一般的な運動器の定義は、「身体運動に関わる骨・筋肉・関節・神経などの総称」です。

近年、皮膚運動学、Fasciaなど結合組織自体の運動能や情報伝達性・ネットワーク性など、従来の運動器の定義に含まれない組織も、疼痛治療には重要とされています。

また、「日本語の整形外科」の命名は、orthopaedicsではなく、Jacques Delpechが定義した”orthomorphie”の概念のもとに、orthopädische Chirurgieの訳語として生まれました。

そして、「整形」の言葉は故田代義徳先生に始まります整形外科「包帯具師整形術と体操的形成術と外科的整形術とレントゲン学(画像診断学)の四学派の連合による産物」の意を基本とし、このうち外科的整形術を除く範囲(現代で言うところの運動体操、生活指導、超音波診断装置(以下、エコー)などの画像評価、局所治療)をNon-surgicalに扱う分野として「整形内科Non-surgical orthopedics」としました。

Q3 整形内科の診療範囲は?

運動器疼痛や難治性疼痛をNon-surgicalに診療していくための手法すべてを用います。

一方、局所注射などのIntervention技術、運動療法、徒手療法、認知行動療法、薬物療法など各治療者の得手不得手がありますので、個人の診療技術の範囲で実施することは、他の診療分野と同じです。

なお、他科と診療分野がオーバラップしていることは周知であり、誰が扱うかは患者の利便性、診療の包括性、近隣医療機関との関係性を含めて扱う問題であり、単純に「私の診療技術の範囲」で決定しない事項と思います。

Q4「内科」でも局所注射するの?

かつては、内科医は内服薬で、外科医は手術で治すものでしたが、医療技術の進歩により、近年の「内科医physician」は内視鏡手術やカテーテル治療、エコー・CTなどを用いた画像下Interventionも扱います。以上から、本研究会では「内科」の言葉をNon-surgical treatmentを扱う意を基本としました。

この活動を可能にした代表的な機器が、エコーです。適切な学習を経れば多職種が、各治療手技(注射、鍼、徒手、物理療法など)を機能解剖学的に共通理解できるようになりつつあります。

なお、いわゆる”内科”の一般的な翻訳である「Internal medicine」は本来「内服薬」の意味であり、”内”の意味はありません。Surgeryの語源はChiurgia(手で仕事をする)であり、”外”の意味はありません。

英語での定義は、内科医がPhysicianで、外科医はSurgeonですが、そこにも”内”や”外”の意味はありません。内科と外科の言葉は「内治」と「外治」という中医学の言葉に由来しています。

Q5 日本の整形内科と海外のNon-surgical orthopedicsの関係は?

消化器科が消化器内科と消化器外科で構成されているように、海外ではOrthopedics部門がSurgical部門とNon-surgical部門に分離してきています。

一方、日本の「整形内科」の発祥の元は、多職種の総力をあげて、社会背景の変化に対応して急増する疼痛患者を、内科医(外科医でない医療者)がケアしていく活動に始まりました。その成果物の1つが、書籍・THE整形内科(南山堂2016)です。

なお、海外ではエコーは放射線科Radiologyが検査室で主に扱う機器です。

日本のようにPhysicianが「エコー診療」のように活用するという文化は、世界でも稀有であり日本の強みでもあります。

Q6 Fasciaを中心に扱っているのはなぜ?

運動器疼痛や難治性疼痛を扱う学術団体は多いですが、日本でFasciaを中心に扱っている学術団体はありません。

現在、Fasciaに係る学問領域は、西洋医学・東洋医学・代替医療などの多様な医学体系の、あるいは手術・関節鏡・注射・鍼・徒手・物理療法・運動療法などの多様な治療手技の包括的理解を促すための新たな分野として注目されています。

整形内科では、局所治療、運動療法、生活動作指導、薬物療法、認知行動療法などの多様な治療手技を多職種で相補的に扱います。

その中でも「Fascia」を従来の西洋医学と論理的に統合し、医学のさらなる深化を目指しています。

Q7 前MPS研究会との関係は?なぜFascia研究会にしなかったのか?

MPS研究会発足当時は、筋膜への国内の医学的および社会的な注目が少なかったため、「MPS」を前面に出していました。

そのため、筋膜性疼痛症候群(MyoFascial pain syndrome, MPS)の中心組織である筋膜MyoFasciaに焦点を当てていましたが、近年のその治療対象は筋膜だけでなくFasciaと拡張していること、および「整形内科」という活動の一部としてFasciaを扱うことが本分野の建設的な発展に寄与すると考えたためです。


Fasciaとは?

Fasciaの定義は国際的にも議論中です。

1つは「筋膜Myofasciaに加えて腱、靱帯、脂肪、胸膜、心膜など内臓を包む膜など骨格筋と無関係な部位の結合組織を含む概念であり、その線維配列と密度から整理される。」であり、もう1つは「鞘、シート、あるいは剖出可能な結合組織の集合体で、裸眼で肉眼的に確認可能な程の大きさがある。そして、fasciaは皮膚と筋の間、筋周囲、末梢神経と血管をつなぐ、それら関連構造をも含む。」です。

現在、上記2種類のFasciaの定義を融合させるための議論が進んでいますが、統一見解には至っておりません。2018年4月時点で当会では、前者の定義を採用しています。

また、Fasciaの適切な日本語訳は現時点ではありません。

そのため、当会では英語で「fascia」あるいはカタカナで「ファシア」と表現しています。

本邦ではFasciaは「筋膜」、時に「膜」と訳されてきた経緯があります。

一方、Fasciaの意味で「筋膜」と表現されている場合もあります。

医学用語としては、筋膜は「myofascia」、膜は「membrane」です。

日本解剖学会の解剖学用語改訂13版には、Fasciaは筋膜Myofasciaを超えたものと説明されており、整形外科学会の整形外科学用語集(第8版)では「筋膜、あるいは腱膜」という言葉があてられています。

建設的な議論を進めていくためにも、言葉の定義を厳密に確認することが極めて重要になります。


なお、「ファッシア」という表現が、医道の日本の書籍でも使われていますが、英語には、原則「っ(ちいさい”ツ”)」の発音はありませんし、「ファッシア」と発音しても海外では通じません(コップやマップのようですね)。

また、医学用語で、小さいツは通常使用されません。

みためも「ファッシア」よりも「ファシア」のほうが視認性としてもよいと考えます。

さらに、「ファシア」に関して、無理に日本語をつくらず「カタカナ」で行くことでよさそうなのであれば、Publicに発信する一歩として、ICD-11の日本語作成に関与できる可能性を検討しています。現在、ICD11の日本語訳制定の動きがどうも水面下で始まっているようです。

「加盟国は、分類の翻訳など自国での適用へ向けた準備を開始することが期待されており、2019年5月世界保健総会へ提出される予定です。今後、我が国への適用に向けた検討をしてまいります。」http://www.who-fic-japan.jp/events_attended.html?id=section3

Fasciaの異常とは?

異常なFasciaの定義は、世界的に見ても定まっておりません。西洋医学における診断の定義(解剖:anatomy、病態:pathology、原因:etiologyの三要素を説明できる疾患)で、あえて表現すれば、以下になると考えています。

解剖:anatomy:Fascia

病態:pathology:疼痛閾値の低下(過敏状態 Hypersensitivity)

原因:etiology:現時点では不明。Overuse, Disuseが契機になることが多い。

機能解剖的としては、組織の伸張性低下、組織間の滑走性低下が示唆されており、これらは超音波診断装置(以下エコー)でも評価可能です。

一方、エコー画像上は、静止画としては「帯状の高輝度(白い)」に観察される傾向にあります。

高輝度に見えるのは「画像処理上の反射特性」であり、異方性の場合は低輝度、また内部密度が均一の状態(一部の線維化)では低輝度に観察されることもあります。

局所病態として疼痛閾値低下の原因としては、「pHの低下」、「炎症や血流増減、異常血管」、「疼痛物質の局所濃度増加」などが示唆されているが、その病態は複合的であり解明が急がれています。

Fasciaの癒着とは?

一般的な医師にとっては”癒着”といえば強固な線維性構造であり鉗子等で剥離する強度のものというイメージが強いですが、本来「癒着」という言葉の定義に、その「強度」は含まれていません。

癒着の日本語の元は、Adhesion(癒着、接着、密着性)ですが、Adhesionの定義は「異種組織間・臓器間」の接着です。また、同様の用語にCohesionがあります、これは同組織間の接着です。現時点でCohesionの医学用語はありませんが、Fascia同士の癒着に相当する用語はCohesionが適当かもしれません。

異常なFasciaによる症状とは?

疼痛あらゆるFasciaの異常で起きる可能性があります。

また、異常なFasciaの場所によっても異なります。広い範囲で症状(広い範囲の関連痛)がでやすい部位、神経近くのFasciaの異常は「しびれ感」を生じる傾向にありますが、一定はしません。

例えば以下のような例があります。

異常なFasciaの場所 痛み、しびれが広がる部位
小殿筋(足の付け根付近) 足の付け根から足首にかけての足全体
上後鋸筋(背中の肩甲骨付近) 肩から指先まで腕全体
腰方形筋(腰の背骨付近) 腰及びお尻の広い部分

異常なFasciaが原因で生じる症状によく似た病気、あるいは合併している病気は?

既存病名に合併していることも多いですが、MPSなどのFasciaの異常が原因で生じる症状によく似た病気として代表的には以下があります。

頭部・顔面部 筋緊張性頭痛、偏頭痛、顎関節症、舌痛症、三叉神経痛、顔面神経痛(顔面神経は知覚神経ではありませんので、本来この病名はありません)、頚性めまい、耳鳴り
頚部 慢性咽頭炎、嚥下痛、頚椎症、頸肩腕症候群
肩部・上肢 胸郭出口症候群、五十肩、肩関節周囲炎、テニス肘、ゴルフ肘、内側側副靱帯損傷、手根管症候群、腱鞘炎
胸部 乳癌術後疼痛症候群、心臓神経症、動悸感、開胸術後疼痛
腹部 機能性胃腸症、過敏性腸症候群、胃けいれん
背部・腰臀部 椎間板症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、変形性脊椎症、腰椎すべり症、坐骨神経痛
下肢 変形性股関節症、変形性膝関節症、半月板障害、糖尿病性神経障害

発痛源 Source of painとしての異常なFasciaの見つけ方は?

現時点ではエコーだけで検索することはできません。

エコー画像上、白く帯状に高エコー領域(我々は、Fasciaの重積と表現しています)として描出される傾向にあると提案しています。しかし、この所見の感度は高いが、特異度は高くない(検証中)傾向にあります。

症状・病歴、身体診察から、ある程度の場所を絞ることが重要です。圧痛所見のみで検索するのも、診療効率は良くありません。

触診の技術によっても圧痛検出の有無は変わりますし、部位によっては圧痛所見自体がでにくい場所もあります。

例えば、腰部のLaphe(腰方形筋・長肋筋・大腰筋の間で胸腰腱膜の一部)は、深部に骨などの固い部位がないので、圧痛所見は殆ど出せません。また、腱や靭帯などは圧痛閾値が非常に高いので、触診レベルの圧痛強度では痛みがでません。

鍼や注射をして初めて、関連痛が生じる例も稀ではありません。そのため、触診の前に動作分析(可動域評価)により、発痛源を検索することが重要です。

その後、触診とエコーで対象物の深さ(Fasciaの重積部)など解剖学的構造や、Fasciaの伸張性・滑走性の評価、刺入ルートの安全性(例:神経や血管の位置確認)を確認し、局所治療を実施します。

Fasciaとトリガーポイントの関係は?

トリガーポイントTrigger pointは、過敏化した侵害受容器という生理学的観点の名称であり、形態表現の1つとして筋硬結があるに過ぎません。

臨床でも、トリガーポイントは筋膜上のみならず腱・靭帯・脂肪・皮膚などの結合組織に広く存在し、筋膜以外も治療対象となることは広く知られています。

そのため、“トリガーポイント=筋硬結Muscle nodule という理解は正確ではありません。

一方、Fasciaは解剖学的観点の名称です。トリガーポイントは、侵害受容器など痛みのセンサーが高密度に分布しているFasciaに優位に存在している可能性が示唆されています。

これまでの病名との整合性は?(その膝痛は、変形性膝関節症?MPS?)

診断名の定義は、「解剖Anatomy ☓ 病態Pathophysiology ☓ 原因etiology」です。これら3要素すべて説明できる時に、疾患として成立します。

1つ以上が不明の時は、◯◯症(=〇〇という状態、symptom)、〇〇症候群(=特定の症状群がまとめて生じる原因不明の疾患群, syndrome)という名称になります。

例えば、変形性膝関節症という病気は、「関節が変形している状態」という解剖の要素に言及した「症状名」であり、症状に対応した「病態」は規定されていません。

関節とは、joint space(関節腔)+Fascia(関節包、靭帯などの線維性結合組織)で構成されます。

膝関節内に炎症(例:滑膜炎)が起きている場合は、膝関節炎(膝関節腔内および一部の関節包の炎症)として発痛源となります。なお、多くの場合で、エコーで増生し血流が豊富な滑膜が観察できますので、いわゆる関節水腫とは異なる病態であることは鑑別できます。また、変形が重度の場合には、稀に軟骨の下の部分の骨の痛みを合併することもあります。

一方、多くの場合、膝関節が変形すると、膝関節を支える筋や靭帯に過剰な負荷がかかりMPSなどのFasciaに起因した痛みを合併します(例:内側側副靱帯、鵞足)。レントゲンで変形が明らかでない場合でも、生活様式や動作の癖などによりFasciaの痛みを起こすこともしばしばです。

また、伏在神経および神経周囲のFasciaの異常による膝内側部痛も稀ではなく、同部位のFasciaリリースが有効です。

このように、構造の変形(例:変形性◯◯、◯◯狭窄症)を示唆する病名、あるいは〇〇症候群と、MPSなどのFasciaに関連した病名は合併することがよくあります。なお、MPS自体も症候群であり、十分に解明された疾患ではありません。

線維筋痛症と筋膜性疼痛症候群(MPS)は同じ?

両方とも「筋痛症(きんつうしょう)」と呼ばれることもあり、混同されやすい病気です。

MPSの重症化したものは線維筋痛症とも言われる場合もありますが、線維筋痛症は「脳が何らかの原因で敏感になってしまった状態 central sensitivity syndrome」のことであり、MPSは主に末梢性の病変を示唆する疾患です。

しかし、多発するMPSによる痛みなどの症状が、中枢過敏の一因である可能性も報告もされています。そのため、MPSと線維筋痛症の境界は現時点でも議論されています。

ただし、MPSの場合は、全身で同時に痛み、しびれが発生することは基本的には無く、片肩、首、腰、片足など特定の部位、若しくはその複数の部位の組み合わせで発生をします。


治療方法

この病気の治療においては、以下の3点が重要です

  1. 適切な評価により発痛源を検索し、治療すること。
  2. 悪化因子(アライメント、身体の使い方による「使いすぎOveruse・廃用Disuse・誤用Maluse」、心理的緊張、中枢過敏)を取り除くこと
  3. 早期の治療により痛みを取り除くこと

痛みの状態が急性痛から慢性痛に移行をすると、心身症の側面が現れ、ワインドアップ現象、中枢系感作、痛みの可塑性などの影響により脳が痛みに過敏になるなど、難治性の病気へ進行する可能性が高くなります。

具体的な治療方法は多様であり、直接法と間接法に分類しています。治療者毎の得手と、多職種連携で治療していくことが重要です。

発痛源と悪化因子の関係

直接法(direct approach)

発痛源へ直接介入し病変部自体を治療(例:組織間の滑走性改善・組織自体の伸張性改善):Fasciaリリース(注射、鍼、徒手)、トリガーポイント注射、時に鏡視下剥離術などがあります。

局所注射によるFasciaリリースを「注射によるFasciaリリースFascia release injection」と、特にエコー画像下で局所注射により行うFasciaリリースを、「注射によるエコーガイド下Fasciaリリース Ultrasound-guided Fascia release injection」と表現します。

同様に、鍼により行うFasciaリリースを「鍼によるFasciaリリースFascia release dry needling」、徒手により行うFasciaリリースを「徒手によるFasciaリリースFascia release manipulation」と表現します。

注釈)注射によるFasciaリリースを、国内ではFasciaハイドロリリースFascia hydroreleaseとも表現されています。一方、海外では、生理食塩水などの非局所麻酔薬を用いた神経周りの注射の名称としてハイドロダイセクションhydrodissectionという用語が使用されています。国内でも、末梢神経への生理食塩水注射をハイドロリリースと表現されることもあり、十分な用語の統一への議論が必要です。

間接法(indirect approach)

発痛源を悪化させている因子(悪化因子)の同定・治療(例:病変部周囲組織の伸張性改善による病変部への負担を軽減、心因的緊張緩和によるリラックス)、ストレッチ、筋緊張緩和(リラクゼーション:ポジショナルリリースなど)、動作指導、認知行動療法などがあります。

直接法と間接法は分離可能な概念ではなく、多くの直接法は間接法としての効果も含みます。例えば、異常なFasciaへの局所治療は、病変部位の治療と、病変部位を含むあるいは関連する組織の治療(反射による筋クランプの即時改善など)の両者に有効です。

エコーガイド下Fasciaリリースとは?

エコー画面で異常なFasciaを確認しながら、リリースする手技です。

注射によるエコーガイド下FasciaリリースUltrasound-guided Fascia Release Injectionとは、エコー画像上”白く厚い帯状の構造物をバラバラにするように実施することです。

治療後、Fasciaを介した組織の滑動性や伸長性の改善が診察・エコー上に確認できます。また、鍼を用いたFasciaリリースFascia Release Dry needling、徒手によるFasciaリリースManipulative Fascia Releaseも同じ範疇です。

エコー動画1:烏口上腕靱帯
エコー動画2:椎間関節/多裂筋
エコー動画3:肩峰下滑液包
エコー動画4:僧帽筋/棘上筋

リリースとは?

「リリース」という用語に関連し、Fascia Release(Fasciaリリース)という用語が徒手療法家を中心に世界中で広く使用されています。

しかし、”リリースRelease”という用語の厳密な定義は見つかりません。Fasciaの用語と同様にこの用語も混乱しています。

Releaseの一般的な医学用語としての定義は、

  1. put it off (解き放つ)
  2. surgical incision or cutting of soft tissue to bring about relaxation(軟部組織をリラクゼーションさせるための外科的な切開あるいは切り込み)

とされています。

一方、”リリース”という日本語は”剥離”のニュアンスが強いですが、英語のReleaseは、組織の伸張性改善(リラクゼーション)の意味も含みます。

従って、我々はリリースという言葉を、

  1. リラクゼーションrelaxation(あるいはloosening):治療手技としての間接法の意
  2. 分離separation(あるいは剥離):治療手技としての直接法の意

の両者を含む用語として使用しています。

注射によるFasciaリリースに使用する液体や注射道具は?

生理食塩水を用いた局所注射の有効性は1950年代から報告され、現代では生理食塩水・細胞外液・ブドウ糖・ヒアルロン酸などが国内外で使用され、その研究と臨床が加速しています。

その優劣は今後の検討課題であるが、現状では生理食塩水が最も使用されています。

局所注射が可能な非局所麻酔薬の開発と、薬事法上の適応が期待されています。

注射によるFasciaリリースに適した注射針は、標準は27ゲージ、深部への25ゲージカテラン針など細いものが望ましいです。

なお、Cochrane Reviewでは「MPSに対する局所注射の治療効果は、各種局所麻酔薬・ステロイド・ボツリヌス毒素Aと生理食塩水(プラセボ)と同等であった」と示されていますが、この研究結果は「生理食塩水はプラセボではなく他薬液と同等程度に有効である」とも解釈できます。

しかし、生理食塩水はプラセボであるという観念は根強く、西洋医学の表舞台にはなかなか上がりませんでした。

一方、これら過去の局所注射に関する殆どの研究手法は“ブラインド注射”であり、その精度は大きな課題でありました。

近年の技術革新により、エコーはMRIやCTよりも分解能が優れ、局所注射の精度を飛躍的に向上させたことにより、生理食塩水などの非局所麻酔薬による局所治療の有効性と安全性に関する報告が世界中で増えています。

注射によるFasciaリリースとトリガーポイント注射や神経ブロックとの違いは?

本手技は、従来のトリガーポイント注射のように単に圧痛のある部位に注射を行う手技ではありません。また、神経周囲に薬液を届ける神経ブロックとも異なります。

ブロックという名称は、局所麻酔薬を組織に浸潤させることで神経伝達を「ブロック」する意味で使用されます。

Fasciaリリースでは、病歴、関連痛パターン、Fasciaの連続性、可動域制限・疼痛誘発動作、エコーによる組織の滑走性と伸張性の評価、圧痛点の評価により異常なFasciaを解剖学的に詳細に検索した治療点を丁寧に触診し、最も圧痛が強い部位にエコープローブを当てます。

圧痛点の近傍で最も白く厚く重積したFasciaをエコー画像上に確認し穿刺します。

治療点であるFasciaに針先が到達したら、針先を微妙にずらしながら、薄紙を剥がす(バラバラになる)ように薬液を注入します。

エコー画像上の形態変化を重要視している点が、局所麻酔薬を用いた神経ブロック手技と異なります。

手術、注射、鍼、徒手の使い分けは?

癒着の強さと可動域制限・組織の伸張制限は比例傾向にあります。また、癒着の程度よりその治療手段は異なります。

図:癒着のGrade 分類と治療方法の特性(Fasciaリリースの基本と臨床(文光堂)より)図:癒着のGrade 分類と治療方法の特性(Fasciaリリースの基本と臨床(文光堂)より)

図:癒着のGrade 分類と治療方法の特性(Fasciaリリースの基本と臨床(文光堂)より)

 


経過

Fasciaに対する過負荷は通常、数日で自己回復します(遅発性筋痛症と同様の病態が想定される)。一方、自己回復できなかった場合に、異常なFasciaとして症状を引き起こす一因(発痛源)となります。

異常なFasciaの部位は圧痛を強く感じる傾向にありますが、自覚症状が十分に改善しても局所の圧痛が残る場合もあります。

1回の治療効果は様々です。末梢の病変の程度、中枢過敏の程度など様々な影響を受けます。

1回の局所治療で、姿勢やアライメントが改善し、以後再発しない患者もいます。しかし、多くの場合は複数回の局所治療と、悪化因子のケアによる継続的治療が必要になります。

治療効果判定

以下は、1つの目安です。

  • 治療後、数時間も変わらない:発痛源を適切にアプローチできていない。
  • 1日有効だった:発痛源のより詳細な評価を進める。
  • 3日有効だった:発痛源へのアプローチとして大きくは外れていない。
  • 1週間有効だった:発痛源を適切にアプローチできていた可能性が高いが、生活動作や体操などの身体的悪化因子への評価介入が重要

「有効」を適切に評価することは、しばしば困難です。再診時に「前回の治療は効果がなかった」と患者が話した場合、それを鵜呑みにする前に、症状の強さの変化、症状の種類の変化、症状の部位の変化、治療部位に係る関節可動域や組織伸張性、などを適切に把握することが重要です。具体例を挙げます。

症状の程度は本当に変化がないのでしょうか?「ゼロにならない=効果がない」と解釈する患者もいます。

「もと」とは前回と本当に同じ場所でしょうか? 別の発痛源の症状が前回の自覚症状と近い部位に症状を出すことも多いです。

可動域は改善しているが、「最終可動域での痛みは変わらない」という現象を、「変わらない」と表現していることもあります。患者はえてして可動域の変化を自覚できていません。

悪化因子の再評価(内科疾患など)

なお、適切な発痛源にアプローチできているにも関わらず、治療効果が数日以内の場合は、「血液疾患(例:貧血)、膠原病(例:関節リウマチ、脊椎関節炎)、電解質異常(例:Na, K, Ca, P, Mg, Fe。その中でも特に低フェリチン血症)、甲状腺機能、錐体路障害や錐体外路症状を引き起こす神経疾患(例:パーキンソン病、脳卒中後遺症、脊髄損傷)、心理要因(例:うつ状態、うつ病)、薬物の副作用(例:オピオイド、向精神病薬、抗うつ薬)、低栄養状態など」の悪化因子を評価する必要があります。


推奨書籍・アプリ

整形内科

  • 白石吉彦、白石裕子、皆川洋至、小林只(編). THE 整形内科: 南山堂, 2016.
    →中級者向け:整形内科の名称としての成書
  • 柏口新ニ(編). 無刀流整形外科. 日本醫事新報社, 2017
    →上級者:既存の整形外科学・運動器額との融合を目指した書籍。

Fasciaリリース

  • 木村裕明, 高木恒太朗, 並木宏文, 小林只(編). 解剖・動作・エコーで導く Fasciaリリースの基本と臨床~筋膜リリースからFasciaリリースへ~. 文光堂 2017.
    →中級者向け:Fasciaリリースの概念と具体的に現場実践方法の概説

外来超音波診療

  • 白石吉彦(著).離島発 とって隠岐の 外来超音波診療 動画でわかる運動器エコー入門:肩こり・腰痛・五十肩・膝痛のみかた. 中山書店, 2017
    →初級者向け:外来超音波診療の導入に。運動器エコーとFascia含む活用方法。

運動器エコー・解剖学

  • 皆川洋至(著). 超音波でわかる運動器疾患−診断のテクニック. MEDICAL VIEW社, 2010
    →運動器エコーの日本の古典かつ成書
  • 仲西 康顕 (著). うまくいく! 超音波でさがす末梢神経−100%効く四肢伝達麻酔のために. MEDICAL VIEW社, 2015
    →美しい神経解剖のイラストが満載の書籍。
  • 林典雄(著). 運動療法のための運動器超音波機能解剖 拘縮治療との接点. 文光堂 2015
    →関節拘縮の機能解剖とエコーを学ぶための良書。
  • 工藤慎太郎(著). 運動療法の「なぜ?」がわかる超音波解剖. 医学書院, 2014
    →臨床的な機能解剖をエコー解剖で解説する良書。
  • 河上敬介, 礒貝香(編)骨格筋の形と触察法 第2版, 2013
    →肉眼解剖による骨格筋の外観および正常亜型の概説と、触診(触察)方法の提示。

筋含む内科症候学

  • 松岡史彦、小林只(著). プライマリ・ケア~地域医療の方法~.メディカルサイレンス2012
    →筋を含めた症候学を体系化した一冊。

解剖アプリ

多医療職の方々へ

現在、Fasciaに係る学問領域は、西洋医学・東洋医学・代替医療などの多様な医学体系の、あるいは手術・関節鏡・注射・鍼・徒手・物理療法・運動療法などの多様な治療手技の包括的理解を促すための新たな分野として注目されています。

整形内科では、局所治療、運動療法、生活動作指導、薬物療法、認知行動療法などの多様な治療手技を多職種で相補的に扱いますが、その中でも「Fascia」を従来の西洋医学と論理的に統合し、医学のさらなる深化を目指しています。