一般社団法人 日本整形内科学研究会

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第5回JNOS学術集会・第3回日本ファシア会議 抄録

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Contents

1)2022年11月26日(土)第5回JNOS学術集会 【大会長講演・特別講演・教育講演・基調講演】

 [大会長講演] Fasciaの解剖生理学的見地と加齢変化(今北英高)

【タイトル】Fasciaの解剖生理学的見地と加齢変化
【演者】今北英高
【所属】JNOS理事、埼玉県立大学 保健医療福祉学部理学療法学科 大学院保健医療福祉学研究科 教授
【座長】金村 尚彦 (JNOS理事,埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 研究科長・教授)

【抄録】

Fasciaは、ここ数年の間、徐々にソーシャルメディアにも取り上げられ、ハイドロリリースや筋膜リリースなどの言葉を耳にしたことがあるかもしれない。筋肉でもない、神経でもない、血管でもない、Fasciaとはなにか。本講演では、Fasciaについての解剖生理学見地を紹介しつつ、加齢変化についても述べる。

Fasciaは、運動器における生体力学特性に影響する弾性、粘性、可塑性の特性を有している。動物モデルにおいて、加齢に伴いfasciaやmyofasciaは、コラーゲンの架橋形成が増加することで肥厚し、弾性が低下する。また、紫外線によって皮膚中のヒアルロン酸やコラーゲンが損傷するとされ、75歳の皮膚のヒアルロン酸量は19歳のヒアルロン酸量の約25%にまで減少する。このことが、加齢による皮膚の水分低下や弾力性の低下、萎縮に貢献する。その貢献が我々の身体機能にどのように影響するかも考えていく。

 [会長講演] Intervention of fascia in pain(木村裕明)

【タイトル】Intervention of fascia in pain~世界に向けての発信、最近のトピック2022(血管回りへのアプローチ)~
【演者】木村 裕明
【所属】JNOS 会長・代表理事、木村ペインクリニック 院長
【座長】黒沢 理人 (JNOS理事、トリガーポイント治療院 院長)

【抄録】

近年、痛みの原因としてfasciaが注目されている。そのfasciaに対する治療法、特にエコーガイド下ファシアハイドロリリース(US-guided fascia hydrorelease, US-FHR)について解説する。ファシアハイドロリリースとは、生理食塩水あるいはその他の薬液を用いて様々なfasciaに注射する手技である。生理食塩水を用いた筋膜性疼痛への治療は、1950年台から報告されている。本邦では、我々は、2010年に局所麻酔薬を用いた筋膜間ブロックを報告した。その後2012年には生理食塩水を用いた筋膜間ブロックを、2014年にはエコーガイド下筋膜リリースの手技と有効性を発表した。同年、筋膜Myofasciaだけでなく様々なfasciaにこの手技が有効なことを報告した。治療対象が、筋膜からfasciaへと広がったため、我々はFascial pain syndrome(FPS)という新しい概念を提唱している。

本年5月には、今回の特別講演者Carla Stecco先生に推薦頂き、RA-UK(イギリス局所麻酔学会)と ISURA(国際エコーガイド下局所麻酔学会)の共催によるRA-UK & ISura Joint Scientific meetingにて、US-FHRについて招待講演として発表した。具体的には、US-FHRの定義、類似手技であるハイドロダイセクションとの差異、US-FHRの実例紹介、多職種連携による治療等を伝えてきた。今回は、その国際学会で発表した内容を紹介する。

加えて、最近のトピックスとして、下腿外側部痛をテーマに挙げ、エコー下でSLR testを行い第5腰神経根の滑走性を確認しハイドロリリースする方法、前脛骨動脈・後脛骨動脈、および上殿動脈・下殿動脈周囲ファシアの評価(ドプラ反応の変化)と治療手技(注射液を少しずつ注射しながら針先を血管へ近づける工夫)を紹介する。

 [教育講演1] へき地・離島医療従事者に贈るリソースマネジメントの学び方(並木宏文)

【タイトル】へき地・離島医療従事者に贈るリソースマネジメントの学び方
【演者】並木宏文
【所属】JNOS理事・九州・沖縄ブロック長、公益社団法人 地域医療振興協会 公立久米島病院 院長, AIPE認定知的財産アナリスト)
【座長】小林只 (JNOS 理事・学術局長、弘前大学医学部附属病院 総合診療部 学内講師, AIPE認定知的財産アナリスト)

【抄録】

医療従事者、経営者・管理者共に責務を負う。医療従事者にとって、職能、ポジション、守るべき規則・規範、それに応じた振る舞い・関わりが責務となる。経営者・管理者にとっては、特定の目的に向かい、組織経営・運営を行うことが責務となる。互いがその責務を負うためには、双方が貴重なリソースであることを感じながら活動することが重要である。

その中、へき地・離島医療に身を置く者は、貴重なリソースであることを忘れ、不十分なマネジメントで責務を過度に負うことがある。その結果、中長期的な責務、地域貢献を全うできないことがある。そのため、医療従事者、経営者・管理者共に、日々の業務で責務を負いやすくするリソースマネジメントを学ぶ必要がある。

本講演会では、私の出会い、経験、視点の学び方を通じて、へき地・離島医療従事者へ向けたリソースマネジメントの学び方の一例を示す。本講演が、日常業務・管理運営に寄与すれば幸甚である。

 [教育講演2] 総合診療医養成の戦略・戦術・作戦(白石 吉彦)

【タイトル】総合診療医養成の戦略・戦術・作戦
【演者】白石 吉彦 
【所属】JNOS副会長・理事、隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与
【座長】小幡 英章 (埼玉医科大学総合医療センター麻酔科 教授)

【抄録】

超高齢化社会を迎え、多併存疾患をもつ高齢者が増え、予防や介護との連携も必須となっている。また東京、大阪などの大都会や県庁所在地以外の市町村での少子高齢化、人口減少は著しく、継続的な医療提供体制の確立も大きな問題となっている。その大きな解決策が総合診療医養成である。ところが現在全専攻医にしめる総合診療専攻医の割合は全国で2019-2022年の4年の平均で2.3%。年間200名前後にとどまる。島根県は全国平均の約20年先をいく高齢化先進県であり、より総合診療医の養成が急務である。2021年より離島を抱え、東西に230kmあり、高速交通網の整備されていない島根県で取り組む総合診療医養成を行っている。コロナ禍での医学部入学前のオンライン体験実習、Near-Peer Tutoringによる症候学授業、全学年対象の4週間の地域実習、ビデオオンデマンドの作成とともに商業誌での特集号展開などについて紹介する。

参照)2022年度グッドデザイン賞 総合診療医育成プロジェクト <島根総合診療センターNEURAL GP network>:https://www.shimane-u.ac.jp/docs/2022101300023/

 [教育講演3]リハビリセンターでの新たな試み ~ダイナミックストレッチマシンによるパフォーマンス向上を目指して~(田中 稔)

【タイトル】リハビリセンターでの新たな試み ~ダイナミックストレッチマシンによるパフォーマンス向上を目指して~
【演者】田中 稔
【所属】JNOS理事・北海道・東北ブロック長、仙台たなか整形外科スポーツクリニック 院長
【座長】吉田 眞一(JNOS理事・東海・北陸ブロック長、よしだ整形外科クリニック 院長)

【抄録】

多くの運動器疾患は、全身もしくは局所の柔軟性の低下や運動連鎖の破綻による不良な運動フォームが障害の原因となっており、その治療および再発予防には原因となっている運動機能障害の根本的な改善が重要となる。特に、上肢を加速させる動作を必要とするスポーツでの障害では、肩甲帯および股関節の機能低下が根本的な原因となっていることが非常に多いのが現状である。

今回リハビリテーションセンター設立に際して導入したダイナミックストレッチマシンは、力を抜いた状態でマシンの軌道に従って動かすことで、主に肩甲骨・胸郭や股関節・骨盤の運動機能改善のための効果的なストレッチが可能となる新しいコンセプトのマシンである。肩甲骨や股関節の柔軟性が低下したため求める動作ができなくなった場合にこのマシンを使うことで、柔軟性や関節可動域、筋バランスの改善が得られ、肩甲骨や股関節を効率よく使い理想的な動きを再現することが可能となる。さらに身体を本来のスムーズな運動連鎖で正しく動かせるようになることは、障害予防にもつながる。

運動器疾患の保存療法の基本は、まず局所の痛みに対する治療とともに、身体機能のどこに問題があったのか原因を追究し、その黒幕ともいえる運動機能低下部位を運動器リハビリテーションにより機能的に改善させることである。そしてダイナミックストレッチマシンでのトレーニングを行うことで、さらなる運動機能の向上と障害の再発予防を目指している。

講演ではダイナミックストレッチマシンの詳細を紹介し、期待される効果について解説する。

[一般演題]

【座長】

  • 洞口 敬 (JNOS副会長・理事・関東・甲信越ブロック長、社会福祉法人みどり福祉会 B&Jクリニックお茶の水 院長 /日本大学病院 整形外科・スポーツ整形外科 非常勤講師)
  • 金村 尚彦 (JNOS理事、埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 教授)
 [一般演題1] 変形性膝関節症モデルラットの膝蓋下脂肪体線維化におけるマクロファージの性質と低出力超音波パルス療法が与える影響 (北川 崇)

【タイトル】変形性膝関節症モデルラットの膝蓋下脂肪体線維化におけるマクロファージの性質と低出力超音波パルス療法が与える影響
【演者】北川 崇1)2),川畑 浩久1)3),工藤 慎太郎1)3)
【所属】森ノ宮医療大学大学院 保健医療学研究科1)、社会医療法人有隣会 東大阪病院 回復期リハビリテーション課2)、森ノ宮医療大学インクルーシブ医科学研究所3)

【抄録】

【目的】
変形性膝関節症(KOA)では膝蓋下脂肪体(IFP)に線維化が生じ、KOA進展の鍵となる病態変化と考えられている。近年KOAのIFPにおいてマクロファージ(MΦ)の形質(M1/M2)の偏りが慢性炎症を誘発し、病態進行を惹起することが報告されている。一方で我々は低出力超音波パルス療法(LIPUS)が低酸素誘導因子(HIF-1α)の活性およびIFPの線維化を抑制することを報告しており、またLIPUSが筋修復過程におけるMΦの形質転換を誘導するとの報告もある。本研究はMΦの形質がIFPの線維化に及ぼす影響とLIPUSがMΦの形質転換にあたえる効果を明らかにするため検討を行った。

【方法】
8週齢Wister ratの膝関節内へカラゲニンを注射し、KOAモデルを作成した。経時的に組織を採取し、組織学的解析(Sirius red染色、免疫組織化学染色(RM-4(MΦ)、CD80(M1)、CD206(M2))を行った。また、カラゲニン注入後LIPUS群を作成し、同様に解析を行った。統計学的処理は対応のないt検定を行った。本研究は森ノ宮医療大学動物実験倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2022A002)。

【結果】
カラゲニン投与後1週目ではIFPの滑膜内皮側にRM-4陽性細胞が分布しており、2週目ではより広範囲に分布していた。また2週目ではIFPに広く線維化も生じていた。そこ でM1/M2マクロファージの分布範囲についてLIPUS群と非照射群で比較したところ、CD80陽性細胞の分布範囲に有意差はなかったが、CD206陽性細胞の分布範囲は照射後2週目で有意に増加しており、線維化も抑制されていた。

【考察】
本研究の結果,LIPUS照射によりCD80陽性細胞の分布には差がなかったが、CD206陽性細胞は有意に増加し、線維化も抑制されていた。このことはLIPUSがMΦの形質を、炎症作用を有するM1から抗炎症作用をもつM2へ変化させる作用を持つことを示唆している。すなわちLIPUSはHIF-1αの活性抑制とあわせて、MΦの形質を変化させることで線維化を抑制する作用をもつと考えられた。

【結論】
LIPUSはIFPにおけるMΦの形質転換を促進することで、線維化を抑制する作用をもつことが示唆された。

【備考】
本研究は一般社団法人日本整形内科学研究会研究助成JNOS202103の助成(リンク)を受けたものです。

[一般演題2]前十字靭帯損傷後の自己治癒能に関わる網羅的遺伝子解析 (加納 拓馬)

【タイトル】前十字靭帯損傷後の自己治癒能に関わる網羅的遺伝子解析
【演者】金村 尚彦1), 加納 拓馬2)
【所属】1)埼玉県立大学、2)埼玉県立大学大学院

【抄録】

【背景】
本邦で前十字靭帯(ACL)損傷は年間3万件程発生し、このうち約4割の患者が保存療法を選択している。現在でもACLの自己治癒を期待した保存療法は未確立であり、治癒を前提とした保存療法を確立することが求められている。近年、我々は動物を対象に完全損傷ACL自己治癒モデル(CAMモデル)を確立したことを報告した。CAMモデルは、ACL損傷後に生じる脛骨前方剪断力に着眼し、異常な関節運動を再適正化することによってACLを自己治癒に導いている。しかし現在においても、関節運動を再適正化することにより、なぜ損傷ACLが自己治癒したかについては明らかになっていない。本研究では、ACL実質部と膝関節内組織の遺伝子発現に着目し、ACLの治癒メカニズムの解明を試みた。

【方法】
Wistar系雄性ラット12週齢4匹を対象に、CAM群・ACLT群に分類した。モデル作成後12時間時点において、ACL実質部、膝蓋下脂肪体を採取し、国立研究開発法人物質・材料研究機構へMicro array解析を委託し、階層クラスタリング解析、Ontology解析、Pathway解析を実施した。

【結果】
プローブ総数は45,598個のうち条件適応となる16,571個について階層的クラスタリングを実施した. ACLT群におけるACLと膝蓋下脂肪体の遺伝子発現パターンは最も近似していた.ACLT群におけるACL/膝蓋下脂肪体とCAM群における膝蓋下脂肪体の遺伝子発現パターンは近似していた.CAM群におけるACLの遺伝子発現パターンは,独立していた. Ontology解析では,ACLT群と比較してCAM群のACL実質部で,2 つの生物学的プロセスがup-regulateし,初期炎症応答における遺伝子発現パターンに違いを認めた.down-regulationは認めなかった.Pathway解析では,5 パスウェイでup-regulateし,特にPI3K-AKT,IKK-NF-κBパスウェイの関連因子の発現が多かった.一方,down-regulationするパスウェイは認めなかった.膝蓋下脂肪体では,ACLT群と比較してCAM群で14 の生物学的プロセスがup-regulateし,抗アポトーシス,転写活性,細胞活性における遺伝子発現パターンに違いを認めた.一方,11 の生物学的プロセスがdown-regulationし,主に炎症応答に対する遺伝子発現パターンに違いを認めた.Pathway解析では,up-regulate,down-regulationともに認めなかった.

【結論】
ACL損傷後の関節制動はACL実質部のみでなく、膝蓋下脂肪体の治癒応答パターンを変化させた。このことから、損傷ACLの治癒応答には、膝関節内組織環境が関与する可能性が示唆された。

【備考】
本研究は一般社団法人日本整形内科学研究会研究助成JNOS202005の助成(リンク)を受けたものです。

[一般演題3]マトリゲルを用いたFascia重積モデルラット作成に関する検討 (寺山 奨悟)

【タイトル】マトリゲルを用いたFascia重積モデルラット作成に関する検討 A New Approach to Creating a Rat Fascia Adhesion Model with Matrigel
【演者】寺山 奨悟1)、白波瀬 未萌1)、後藤 淳1)、西田 亮一1)、嘉摩尻 伸1)、岡田 圭佑1)、今北 英高 2)、祐實 泰子1)
【所属】1) 畿央大学大学院健康科学研究科 2) 埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科

【抄録】

【目的】
腰痛などの痛みの発症に、Fasciaに生じる組織的学的な変化の関与が報告されている。しかし、その詳細なメカニズムについては、未だ不明な点も多い。そこで本研究は、Fasciaの組織的学的な変化と痛みの関係や、ハイドロリリースなどの治療が作用するメカニズムを明らかにするため、ラットの胸腰筋膜(TLF)にマトリゲル基底膜マトリックス(マトリゲル)を注入し、Fasciaの重積を誘導するモデルラットの作成を試みた。

【方法】
モデルラットの作成は、Wistar系雄性ラット10週齢を16匹用いた。各ラット腰部の皮膚を、TLFの起始部を基準とし、左右に長軸方向に切開を行い、TLFを露出した後、左側にPBS、右側にマトリゲルをそれぞれ注入し、切開部を縫合しモデルラットを作成した。16匹は、注入より7日ごとに4匹ずつ、左右のTLFを超音波画像診断装置(エコー)で観察した。観察した部位からは、組織を摘出し、ホルマリンで固定後パラフィンに包埋し切片を作成した。得られたエコー画像は、ImageJを用いて厚みを測定し、切片にはマッソントリクローム染色(MT染色)を実施した。得られたデータは統計学的処理を実施し分析した。本実験は、畿央大学動物実験委員会の承認を得て実施した。(承認番号:H30-09d)。

【結果】
エコー画像において、PBS注入側と比較すると、マトリゲル注入側では明らかな重積が観察された。そして、計測したマトリゲル注入側の厚みは、統計学的にも有意に肥厚していた。また、MT染色による切片の組織学的分析では、マトリゲル注入側で膠原線維の増加が認められ、同時に多数の核が集積していた。マトリゲル注入側での核の集積は、4週目には減少し始めていた。

【考察】
これまでの結果、ラットTLFに注入したマトリゲルにより軽微な炎症が引き起こされ、Fasciaの重積が誘導されたと考えられる。今後、人工的にFasciaの重積を誘導できるモデルラットを利用することで、メカニズムの解析が可能になり、新しい治療法の開発などにも応用できると考えられる。

【備考】
尚、本研究は、2019年度 一般社団法人 日本整形内科学研究会(JNOS)研究支援制度を受けて実施しました(リンク)。ここに深謝いたします。

[一般演題4]全身性エリテマトーデス、多発筋炎における筋膜・筋肉における感覚神経の分布と症状の差異についての検討 (野田 健太郎)

【タイトル】全身性エリテマトーデス、多発筋炎における筋膜・筋肉における感覚神経の分布と症状の差異についての検討
【演者】野田 健太郎1)、吉田 健1)、黒坂 大太郎1)
【所属】1)東京慈恵医科大学 内科学講座 リウマチ・膠原病内科

【抄録】

背景:全身性エリテマトーデスにおいて筋膜炎は強い筋痛を引きおこす。一方、多発筋炎において筋炎は筋痛をおこしてもごく軽度である。我々はこの症状の差異と筋肉・筋膜における感覚神経の分布の関係に興味を持った。

方法:全身性エリテマトーデス、多発筋炎において皮膚から筋肉までのen bloc生検を行った14例においてsubstance Pの免疫染色を行った。そして、substance P陽性神経線維の筋肉、筋膜における分布を検討した。そして、それぞれの疾患における炎症細胞浸潤の部位とsubstance P陽性神経線維の分布との関連、筋痛との関係を検討した。

結果:全身性エリテマトーデス、多発筋炎共にsubstance P陽性線維は深筋膜近傍の脂肪織、深筋膜と筋束との間の結合織または、筋束間の結合織の血管周囲に存在していた。深筋膜内、筋線維内にはsubstance P陽性線維はみられなかった。全身性エリテマトーデス患者では筋痛を全例で認めたのに対し多発筋炎患者では筋痛を認めなかった。全身性エリテマトーデスにおいて深筋膜と筋束との間の結合織、筋束間の結合織の血管周囲への単核球浸潤を認めた。一方多発筋炎においては筋線維への単核球浸潤を認めた。

結論:多発筋炎においては炎症細胞が筋線維へ浸潤する。筋線維にはsubstance P陽性線維が分布しておらず炎症が生じても筋痛が生じにくい原因となっている可能性が考えられた。一方全身性エリテマトーデスにおいては炎症細胞浸潤の部位がsubstance P陽性線維の分布と一致しておりそのため筋痛が生じやすい可能性が考えられた。

【備考】
本研究は一般社団法人日本整形内科学研究会研究助成JNOS202101の助成(リンク)を受けたものです。

[一般演題5] 脂質異常症を合併した更年期症候群の漢方治療に対して中温入浴の併用が奏功したと思われる1例 (清水正彦)

【タイトル】脂質異常症を合併した更年期症候群の漢方治療に対して中温入浴の併用が奏功したと思われる1例
【演者】清水正彦
【所属】清水医院

【抄録】

【目的】
更年期症候群の漢方治療に対して中温入浴の併用が奏効した一例の病態を検討した。なお、発表は患者の同意を得ており、演題に関する利益相反はなし。

【方法】
更年期症候群に対して漢方、食養生を施行。さら中温入浴を追加した。

【結果】
48歳、主婦。既往歴:鼻アレルギー。現病歴:X-1年前より、ホットフラッシュ、手足の冷え、両側の肩甲骨周囲の肩こり、腰痛を自覚。漢方治療目的にてX年3月当院初診。初診時診察所見では、暑がりで寒がり、便通良好。月経不順、両下肢浮腫あり。魚嫌いで丼物が好物。160cm、56kg。Hb12.2,Ht 38%、TG 256。簡略更年期指数(SMI)52点。東洋医学的所見では、虚実中間証、舌背静脈怒張、薄白苔を認め、脈はやや弦。腹部は左下腹部に瘀血圧痛あり。瘀血、水毒、肝鬱の脂質異常症を伴った更年期症候群の病態と診て、糖質制限と食後の運動を中心とした食事運動指導の下で、桂枝茯苓丸加ヨクイニン7.5g/3×、当帰芍薬散料7.5g/3×を投与。3週間後、SMIは37点であったが、肩こりと腰痛は改善なし。そこで、シャワー入浴の習慣を38~40℃の中温入浴に変更後、5週後には、SMIは20点、肩こりと腰痛は殆ど改善し、Hb13.3,Ht 36.2%、TG 165 と改善傾向を示した。

【考察】
桂枝茯苓丸加ヨクイニンと当帰芍薬散料により、更年期症候群の血管運動神経障害症状や知覚神経障害症状には著効、精神神経障害症状にはやや有効なるも運動器障害症状に対しては今一つであった。そこへ中温入浴を併用した結果、SMIは著明に改善した。中温入浴による筋骨格系の循環改善と食事運動指導による血中脂質の改善が関与している可能性が示唆された。

【結語】
脂質異常症を合併した更年期症候群の治療に対して、漢方治療に中温入浴の併用は更年期症候群の運動器障害症状改善に寄与している可能性が示唆された。

2)2022年11月27日(日)  第5回JNOS学術集会【教育講演】

[教育講演4] 多職種連携をデザインする~“起承転結“人材で考える新規事業の創り方~(小林只)

【タイトル】多職種連携をデザインする~“起承転結“人材で考える新規事業の創り方~
【演者】小林 只
【所属】JNOS 理事・学術局長、弘前大学医学部附属病院 総合診療部 学内講師, AIPE認定知的財産アナリスト
【座長】谷掛 洋平 (JNOS理事・会員管理局長・関西ブロック長・中国・四国ブロック長, 谷掛整形外科 副院長)

【抄録】

近年、ヘルスケア領域へ医療者が”進出”することが増えている。自費治療、健康増進、美容、生活・介護、スポーツ、検診・健診(野球肘検診等)など、これ自体は個への価値提供、そして社会貢献・地域貢献という意味で素晴しい活動である。一方で、従来の当事者やその領域の文化・在り方を十分に調整することなく、“思いつき“で企画・行動した結果、かえって現場が混乱することも多い。多職種“連携“も同様で、”手段の目的化も生じており、院内・院外の関係者等との“関係性や利害”を図式化することは計画の一歩となる(参考1)。

医学分野ではアート×サイエンスという枠組みが古来より浸透している。今回は、現代の新規事業創出のフレームワークとして有名な“アート×サイエンス×クラフト”(参考2)、そして竹林一さんの“起承転結(アート、デザイン、サイエンス、クラフト)”のフレームワーク(参考3)を紹介するとともに、「なぜ、良いこと?をやっているのに、広がらないのか?」という新規事業・活動において医療者(多職種含む)が陥りやすいピットフォールを紹介する。また、近年注目される“広義の「デザイン」”する力(認識できない対象を表現する力)についても情報提供する。

 

参考資料:

1)小林只. 連携とは、そもそも何か、何のためか?~医療機関における、内外の連携を組織戦略として考える~2022.小林只YouTubeチャンネル
https://youtu.be/3DmhXsOobU4

2)山口周. 世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」.2017. 光文社
https://www.amazon.co.jp/dp/B073S1RJX2/

3)竹林一. たった1人からはじめるイノベーション入門 何をどうすればいいのか、どうすれば動き出すのか. 2021年. 日本実業出版社
https://www.amazon.co.jp/dp/4534058977

[教育講演5] 運動器検診の試みと今後の展開(森本光俊)

【タイトル】運動器検診の試みと今後の展開
【演者】森本光俊
【所属】JNOS 会員、ならやまと整形外科スポーツクリニック 院長
【座長】洞口 敬 (JNOS副会長・理事・関東・甲信越ブロック長、社会福祉法人みどり福祉会 B&Jクリニックお茶の水 院長 /日本大学病院 整形外科・スポーツ整形外科 非常勤講師)

【抄録】

スポーツにおける疲労骨折は初期においては症状を伴いにくく、症状が出た時点では既に重篤となっている事も稀ではない。

その為、早期発見・早期治療が最も重要とされる疾患の一つである。

我々は約10年前からNPO法人を設立し、超音波診断装置も併用した運動器検診を定期的に行ってきた。これまで様々な試行錯誤を重ねてきた経緯を述べる。

またこれらの検診の結果、毎回約2%の選手が医療機関にて精査が必要となっている。

これらの選手達のその後の経過についても、保存療法及び手術療法の症例を交えて述べる。

 

 [研究助成演題] 

本指定演題は、2022年度 一般社団法人日本整形内科学研究会(JNOS) 研究支援制度で受賞した方々による発表です(プロトコールなど計画および進捗状況の発表)。

【座長】

  • 小林 只 (JNOS 理事・学術局長、弘前大学医学部附属病院 総合診療部 学内講師, AIPE認定知的財産アナリスト)
  • 今北英高(JNOS理事、埼玉県立大学 保健医療福祉学部理学療法学科 大学院保健医療福祉学研究科 教授)
[研究助成演題1] ハイドロリリースの作用機序の解析 ~未固定凍結遺体と力学試験ロボット を用いた生体力学試験~ (塩泡 孝介)

【タイトル】ハイドロリリースの作用機序の解析 ~未固定凍結遺体と力学試験ロボット を用いた生体力学試験~
【演者】○塩泡 孝介 1)、大坪 英則1)、Carla Stecco 2)
【所属】札幌スポーツクリニック、札幌医科大学 大学院1)、Padova University 2)

【抄録】

はじめに

筋膜性疼痛症候群(またはファシア疼痛症候群)に対する筋膜リリース(またはファシアリリース)治療の有用性が近年注目を集めている。ハイドロリリースは臨床的に急速に普及しているが、作用機序などに関する基礎研究は不十分である。作用機序として想定されるものの一つに筋膜間の滑走不良の改善がある。

本研究の目的は、ハイドロリリースが筋膜間の滑走性(筋膜間の抵抗)に与える影響を、未固定凍結遺体を用いた生体力学試験により検討することである。

方法

未固定凍結遺体と力学試験装置を用いて実験を開始する。

本研究を実施する対象の筋腱としては、アキレス腱、縫工筋腱、前脛骨筋腱、僧帽筋上部線維等を検討して、予備実験を進めている。

実験は、切離した筋腱の片端を一定の距離(引っ張る張力が10N前後になる程度の距離にて設定予定)引っ張る一回目の引っ張り試験時に必要であった張力F1を求める。続いて、ハイドロリリースを施行した後に、対象の筋腱を一回目と同じ方向に同じ一定距離まで引っ張る際の二回目の引っ張り試験時に必要であった張力F2を求める。(F1-F2)が一定距離を引っ張るのに必要な張力のハイドロリリース前後で変化した値として得られる。

さらにcontrol群として、反対側の同部位にて同様の操作と計測をハイドロリリース無しにて行い、一回目の引っ張り試験時に必要であった張力F3と、二回目の引っ張り試験時に必要であった張力F4を求める。(F3-F4)が一定距離を引っ張るのに必要な張力の介入無しに引っ張り試験を繰り返すこと自体によりより変化した値として得られる。

ハイドロリリース有り群の張力変化量(F1-F2)とハイドロリリース無し群の張力変化量(F3-F4)を単変量解析にて比較する。引っ張り試験回数を統一していることやハイドロリリースを行わない側の試験を行うことにより、生体力学試験における重要な要素である引っ張り負荷を与えるごとに組織が徐々に伸張してしまうcreepの影響を除いて正確に評価することができる。

予想される結果と考察

ハイドロリリースを行うと対象筋腱を一定距離引っ張るために必要な力が低下した、つまり筋膜間の抵抗が減少した。ハイドロリリースは筋膜間の抵抗を減少させており、筋膜性疼痛改善の作用機序の一つであるかもしれない。

【備考】Grant Number: JNOS202201

[研究助成演題2] 変形性膝関節症滑膜炎における 関節不安定性が疼痛に与える影響 (黒尾 彩)

【タイトル】変形性膝関節症滑膜炎における 関節不安定性が疼痛に与える影響
【演者】黒尾 彩
【所属】埼玉県立大学大学院 博士後期課程

【抄録】

抄録掲載なし

【備考】Grant Number: JNOS202202

[研究助成演題3] 糖尿病患者のFasciaは糖化により肥厚する (廣田 悠祐)

【タイトル】糖尿病患者のFasciaは糖化により肥厚する
【演者】○廣田 悠祐1),天川 淑宏 1),銭田 良博 2),粟根 尚子 1),高村 宏 3),寺本 由美子 3),中山 亮 4),小林 高明 1),大野 敦 1),松下 隆哉 1)
【所属】東京医科大学八王子医療センター糖尿病・内分泌・代謝内科1),株式会社ゼニタ 2),高村内科クリニック 3),織本病院リハビリテーションセンター 4)

【抄録】

【背景】血糖コントロールの改善が2型糖尿病患者における細小血管障害のリスクを低下することは,多くの大規模臨床試験によって示されている。細小血管障害の主な原因として,終末糖化産物(AGEs)の関与が知られている。AGEsは血漿および組織のタンパク質が非酵素的な糖化や修飾を受けた結果形成される構造物だが,血糖コントロールの程度とその持続期間により,不可逆的に生体内で形成・蓄積される。AGEsに特異的な受容体(RAGE)は血管内皮や平滑筋の細胞を始めとする広範な組織に発現しているが,AGEsとRAGEが結合することによって酸化ストレスや炎症反応が惹起され,ひいては血管障害に関わることが示されている。また,AGEsは細胞外マトリックス(ECM)成分の産生を促進することが示されており,ECMを含むfasciaにも影響を与えることが報告されている。2型糖尿病の白人患者のアキレス腱や足底腱膜は非糖尿病患者と比べて有意に肥厚し,さらにBMIが関与している可能性が,また,ナイジェリアの研究では非糖尿病患者と比べて糖尿病患者のアキレス腱や足底腱膜は有意に厚く,神経障害の合併との関連性が報告されている。さらに,糖尿病患者において足底腱膜の厚さと垂直荷重は正比例し,機械的応力は糖尿病足病変の発生において中心的役割を果たすことが示されている。一方,日本における糖尿病患者のfasciaの特徴は明らかでないため,我々は詳しく調べることにした。

【方法】糖尿病専門外来を有する医療機関に通院中の2型糖尿病患者200名を対象として,fascia(測定部位は先行研究を参考にアキレス腱,足底腱膜,腓腹筋のfascia)の厚さを超音波(誠鋼社FAMUBO®️,10MHzリニアプローブ)を用いて計測し,性別,年齢,体格(身長,体重,BMI),糖尿病の罹病期間,HbA1c,身体活動量,細小・大血管障害の有無,治療内容を独立変数として多変量解析を行う。除外基準は,運動選手,ボディビルダー,喫煙者,シャルコー関節の既往,先天性・後天性足首変形の既往,足底腱膜炎の既往,下肢切断歴,下肢の外傷歴,糖尿病神経障害以外の神経疾患,ステロイド使用中の患者とした。

【予想される結果】先行研究の結果を踏まえると,fasciaの厚さと体格や細小血管障害(特に神経障害)との関連性が予想される。

【今後の展望】日本人糖尿病患者においてまだ明らかにされていないfasciaの特徴を解析し,その結果を基に,今後糖尿病患者における運動器の評価や運動療法への応用,糖尿病足病変発生の予測やフットケアへの応用などに繋げたい。

【備考】Grant Number: JNOS202203

3)2022年11月27日(日)  第3回日本ファシア会議

 [教育講演] 皮膚運動学とFascia(福井勉)

【タイトル】皮膚運動学とFascia
【演者】福井勉
【所属】文京学院大学 保健医療技術学部 教授
【座長】銭田良博 (JNOS副会長・理事、株式会社ゼニタ 代表取締役社長)

【抄録】

Motion captureでの最大の問題点はskin movement artifactであり、これが皮膚の運動挙動を調べようと考えたきっかけである。これらはartifactではなく、いわば生理的な動きであるのではないかと疑問を持った。そこで関節運動に伴う皮膚の運動特性があるのか検討をはじめその法則性について検討してきた。その結果、皮膚には挙動特性があり、またその特性を助けるような剪断力を皮膚に与えることで皮膚の動きが促通されること、それに伴い関節運動も促通される。

ただし、その根拠については、LTMRの影響、外胚葉由来のself-judgement機能などがその基礎にあると考えてきたが不明のままであった。近年のメカノバイオロジーの発展により、mechano-transductionによるものと考えると納得がいくことが臨床的には多い。細胞骨格にあるこれらの動的な機械的シグナル伝達や張力均衡がベースにあるのではないかと現在は考えており、fasciaに共通する事項でもあると考えらえる。上記の臨床的特徴を主に説明をする予定である。

[シンポジウム] – テーマ:多職種によるFasciaへのアプローチ

【座長】

  • 辻村孝之(JNOS理事, フィジオ,合同会社PROWELL)
  • 白石吉彦 (JNOS副会長・理事、隠岐広域連合立隠岐島前病院 参与)
[シンポジウム1] 多職種によるFasciaへのアプローチ ~整形外科医の立場から~(田中稔)

【タイトル】多職種によるFasciaへのアプローチ ~整形外科医の立場から~
【演者】田中 稔
【所属】JNOS理事・北海道・東北ブロック長、仙台たなか整形外科スポーツクリニック 院長

【抄録】

整形外科の外来患者の愁訴の多くは痛みやしびれであり、エコー下Fasciaハイドロリリースが有効な治療手段の一つとなっている。2019年5月から当院でエコー下Fasciaハイドロリリースによる治療を行った症例は、筋膜性疼痛症候群1867例(頸部1614例、腰部253例)、胸郭出口症候群345例、凍結肩164例、投球障害肩47例、肘部管症候群90例、神経をターゲットしたもの355例、その他444例、合計3312例であり、総外来患者の約25%の症例に対しエコー下Fasciaハイドロリリースが施行されている。

特に、投球障害肩に対する肩甲上神経リリース、腋窩神経リリース、胸郭出口症候群に対する腕神経叢リリースなど、神経をターゲットにした治療が有効と考えている。

また後頚部痛で受診する患者さんでは、X線検査で頸椎前弯消失所見が認められることが多い。このような症例に対しては、エコー下Fasciaハイドロリリースだけでなく、アライメント矯正などリハビリでの運動療法を同時に行っている。その他凍結肩、胸郭出口症候群、投球障害肩などに対してもリハビリと連携し、エコー下Fasciaハイドロリリースとリハビリでの運動機能改善を同時進行で行うことで治療効率を高めている。

[シンポジウム2] 泌尿器科からのfasciaへのアプローチ(川島清隆)

【タイトル】泌尿器科からのfasciaへのアプローチ
【演者】川島清隆
【所属】JNOS会員、熊谷総合病院泌尿器科 医長

【抄録】

抄録 Fasciaの不調を治療する者にとって、fasciaは治療の対象であるが、外科医にとっては臓器の摘出や露出のために切開、除去しなくてはならないものであり、アプローチはfasciaの破壊に他ならない。Fasciaの立場からは損傷を最小限に抑えることが求められるが、これまでfasciaは不活性でどちらかというと不要なもとされ、正しく認識されてこなかった。かろうじて膜様に認識される“筋膜”だけが、剥離のランドマークとして重要視されてきたがその認識には混乱も多い。Fasciaの本質を理解するためには、筋膜、疎性結合組織、脂肪等と切り分けられた認識から、多彩な表現形を取る結合組織の濃淡として理解する必要がある。また、細胞外マトリクスとして認識することではじめてその活性や微細構造が理解できる。骨盤底手術では単純化では対応できず、複雑さの全てを受けいれてはじめてその本質に迫ることができると考えている。Fasciaの認識の問題を通して、骨盤外科からのfasciaへのアプローチを考える。

[シンポジウム3] 生体における皮下浅筋膜の構造と見つけ方(谷村悟)

【タイトル】生体における皮下浅筋膜の構造と見つけ方
【演者】谷村悟
【所属】JNOS会員、富山県立中央病院 産婦人科 部長

【抄録】

産婦人科手術ではケロイドや肥厚性瘢痕の危険因子が多く存在するが、創部管理に関して注目される機会は少ない。一方形成外科領域において、皮下浅筋膜縫合による減張が有効なことが示唆されている。しかし生体における浅筋膜の所見は明らかになっていない。

私たちは4K腹腔鏡カメラを用い開腹手術時に皮下組織の構造と動的変化を撮影した(当院倫理委員会承認済み)。皮下はfasciaのネットワークで構成され、浅筋膜はその要と言える密な構造であった。切開すると収縮するため閉腹時に認識され難かったが、脂肪構造の違いを見ることや牽引により再現性をもって同定可能であった。

私たちは皮下の脂肪のみに目を捕らわれていたが、そこにはfasciaの機能的ネットワークが存在し生体で確認できた。一旦見えると全ての開腹手術で同定可能であった。浅筋膜の縫合でケロイドや肥厚性瘢痕を減らすことが期待される。

[シンポジウム4] 最近のトピックス2022(木村裕明)

【タイトル】最近のトピックス2022
【演者】木村 裕明
【所属】JNOS 会長・代表理事、木村ペインクリニック 院長

【抄録】

新しい治療ポイントの発見は、そのまま症状の改善する患者の数に直結する。エコーガイド下ファシアハイドロリリース(US-guided fascia hydrorelease, US-FHR)の対象となるStacking fasciaが生じやすい部位には「傾向がある」。①組織が屈曲する部位、②組織が交差する部位、③様々な組織が集まる部位、④手根管、肘部管、足根管などの管様構造、⑤脂肪体等である。

今回は、血管が屈曲するポイントとして、胸郭出口症候群(TOS)に対する肩甲背動脈の屈曲点、頑固な坐骨神経痛様症状に対する上殿動脈の屈曲点等、紹介する。

[シンポジウム5] 局所注射薬の使い分け~ハイドロリリースとプロロセラピーを中心に~(小林只)

【タイトル】局所注射薬の使い分け~ハイドロリリースとプロロセラピーを中心に~
【演者】小林只
【所属】JNOS 理事・学術局長、弘前大学医学部附属病院 総合診療部 学内講師, AIPE認定知的財産アナリスト

【抄録】

局所治療が効いた?効かない?という、臨床現場における「判断」の根拠を同業者へ、そして患者へ説明できるだろうか?

例えば、局所注射の有効性を語る場合、3要素に整理できる。それは、1)患者要素、2)実施者要素、3)注射薬・機器、である。患者要素には、発痛源の部位、その病態(炎症であれば急性期か回復期か等)、悪化因子(認知・心理、生活動作、身体動作、栄養状態等)が挙がる。実施者要素には、治療者の技術(注射針の操作法、触診・エコー・動作解析等の診察法、患者の“やまい illness”と対峙法)が挙がる。そして、注射薬・機器には、注射薬として使用する薬剤の種類、注射針の種類、注射筒の種類、エコーガイド下注射であればエコー機器の性能が挙がる。

今回は、組織を緩める治療としてのハイドロリリースと組織を固める治療としてのプロロセラピーを主に取り上げ、3)実施者要素(主に、薬剤の種類、針の種類・操作技術)についての見解、および両治療方法の使い分けと実例を紹介する。注射の痛み(患者が感じる痛み)の強さは、注射針が患者に刺さる時の穿刺時痛、薬液が注入されていく時の痛みである注入時痛、そして薬液注射後に薬液と身体組織が反応する痛みである注射後痛の総和として評価される。痛みの少ない注射は、有効性が担保されるのであれば、患者の治療需要度、安全性などの観点からも望ましいが、これら3要素を分離評価することが重要である。今回は、薬液と手技の観点から、緩める治療(ハイドロリリース)と固める治療(プロロセラピー)の観点における、現在の治療手技についての整理(私案)を紹介する。

[シンポジウム6] ファシアと東洋医学 ~氣・血・水と電気(国生 浩久)

【タイトル】ファシアと東洋医学 ~氣・血・水と電気
【演者】国生 浩久
【所属】JNOS 理事、ひろ鍼灸院 院長

【抄録】

ここ数年で、ファシアと東洋医学の結びつきが指摘されるようになり、何かかが、ほんの少しだけ見え始めた。しかし、またそこから新たな疑問もわき上がっている。

例えば、鍼通電(生体へ刺した状態の鍼へ一定の電気刺激を加える施術方法)は筋肉や腱、神経を刺激して、血流を改善し、神経を調節するものと説明されてきた。しかし、ファシア、コラーゲン、水分という新たな観点が加わった今はどうだろうか。身体の外部から電気を補うことで、体内の電気(氣?)の流れの後押しをしているのではないか?

またハイドロリリースを東洋医学で解釈すると「氣・血・水」の水を補い、その「滞り」を減らす治療とも解釈可能かもしれない。しかし、小林只先生が論文(Kobayashi T et al. 2016)で、須田万勢先生が『医道の日本』誌の対談(2018年6月号「経絡を理解する共通言語としての「ファッシア」」)でご指摘されたように、補われたのが水ではなく、電解質であると視点を変えると、電気の流れを良くする下地を作る治療と言えるかもしれない。

ならば、ハイドロリリース後に、鍼通電で電気を流せば、さらなる改善が期待出来ないだろうか? 多様な治療法が扱われ、議論される本会において議論の種となることを期待したい。

[シンポジウム7] Fasciaへの最近のアプローチと挑戦(酒本哲聖)

【タイトル】Fasciaへの最近のアプローチと挑戦
【演者】酒本哲聖
【所属】JNOS 会員、酒本鍼灸整骨院 院長

【抄録】

『手当て』。それは主に、多くの医療者にとって病気や怪我の患部その他の不調に対して治癒・改善を目的に自身の手指等を人体に直接用いる行為である。古くは古代ギリシャ時代から、様々な国や地域で様々な外科手術・手技療法などとして発展し、現在も進化を続けている。日本整形内科学研究会(JNOS)も、エコーによるFasciaの可視化とより深く正確な解剖・生理・運動学の知識に基づいた『手当て』(注射によるFascia hydro release、手技・鍼などによるFascia release)を用いて諸症状の改善を行い、その科学的根拠を様々な角度から考察し積み上げることで発展し続け、この分野のフロントランナーとして今に至る。

今回は、柔道整復師・鍼灸師として様々な治療技術の概念と変遷を見て学んできた立場から、痛みなど諸問題の発生原因とその症状の解決に効果を発揮するメカニズム・正体が何かを追求し取り組んできた想い・現在取り組んでいる鍼の雀啄刺激と皮膚吸引による鎮痛効果にスポットを当てたお話をしてみたい。何か少しでも皆様の参考になれば幸いです。今後の他職種連携の中で、皆様にとって柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師との連携が選択肢の1つとなることを願って。

[シンポジウム8] 多職種によるFasciaへのアプローチ:作業療法士の視点から(青木啓一郎)

【タイトル】多職種によるFasciaへのアプローチ:作業療法士の視点から
【演者】青木啓一郎
【所属】JNOS 会員、昭和大学保健医療学部作業療法学科

【抄録】

作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。その中で、現在多くの作業療法士がハンドセラピーに携わっており、ハンドセラピーは作業療法の中での重要な領域として位置付けられている。今回、「the fascial system」として包含されている腱に焦点を当てて、滑走の改善について作業療法士の視点からFasciaアプローチ内容を共有する。内容は、多数指中手骨骨折術後の患者で、早期運動を実施するも腱滑走が十分得られずに伸筋腱癒着を起こした予後不良例に対して、複合的評価・介入(超音波による滑走評価、フロッシングなど)の結果、手指総屈曲が可能となった症例を共有する。なお、本報告に対しては対象者の同意は得ている。

 [特別講演] (Carla Stecco)

【タイトル】今後掲載
【演者】Carla Stecco
【所属】イタリア Padova大学 人体解剖学・運動科学 教授
【座長】須田万勢 (JNOS会員、諏訪中央病院リウマチ膠原病内科医長)
今北英高(JNOS理事、埼玉県立大学 保健医療福祉学部理学療法学科 大学院保健医療福祉学研究科 教授)

【抄録】

なし(講演動画を日本語字幕付きに編集しております。当日、講演動画として放映します。質疑応答は、Liveで行います)